すごい進化

生物における進化は、有性生殖によって実現されることになります。無性生殖では、分裂、つまりコピーという手段で増殖してゆくので、変化は突然変異により実現されます。

 現在生き残っている生物は、すなわち自然淘汰を経てきたわけですから、「生物の形質は適応的である」という仮定は一定の正しさを含んでいます。ただし(略)現在の生物であっても「非適応的な」形質が維持されている可能性もあるのです。先ほどの例でいえば、たとえ親鳥が一〇個の卵を一度に産むことがもっとも生産性の高い方法であったとしても、おなかの中にそれほど多くの卵を蓄えておくスペースが進化していないために、それよりも少ない数の卵で妥協しているのかもしれません。

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最適化ではなく、適応をおこなっているだけ、ということですね。生存にとって不都合な遺伝を排除している、だけなのです。生存にとって不都合であるとは、生き残る可能性が低く、すなわち子孫を残す可能性が低い、からです。

そして、進化におけるメスの選好の役割について以下のように述べられています

他のオスよりうまく成長する能力のあるオスだけが、派手に着飾る余裕をもてるのであり、だからこそメスは安心して派手なオスを選べるということです。(略)実用的な側面では無駄にあふれるシグナルだからこそ、信頼が担保されているのです。

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どうやら、進化においてはメスによる選好が重要で、そして、メスの「好み」も遺伝されるようです。

再び、有性生殖の優位さ、についてみててみましょう。

 もちろん、有性生殖を行えば遺伝子組み換えが生じます。仕方なく有性生殖が続いてしまった結果として、遺伝的な多様性が増して、環境の変動に対処できたり、病原菌に対する抵抗性が進化することもあるでしょう。しかし、こうした有性生殖のメリットが二倍のコストをペイできる必要はないのです。つまり、遺伝的組み換えは有性生殖の目的ではなく結果であることを示唆しています。

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二倍のコストというのは、無性生殖では単独で増殖できるのに有性生殖ではメスとオスの二個体が必要とされる、ということです。そして「仕方なく有性生殖」といわれているように、効率的ではないのです。

無性生殖をメスだけによる増殖とすると、この場合オスは必要ありません。やがて、有性生殖のためにオスが必要とされ、それが常態である種が定着するようになります。

しかし、増殖をになうのはメスであり、メスにとってオスの存在は厄介なものでしかないでしょう。生殖のために仕方なく選んでいる、とも考えられます。

生存に有利なオスは、積極的にメスに好かれているのではなく、拒まれる可能性が低い、という選好が働いているのかもしれません。

鈴木紀之『すごい進化 「一見すると不合理」の謎を解く』中公新書 2017


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