「新テレビ学講義」を読んで 〜第一章〜数十年前から改善されない問題点

第一章では様々な視点からテレビ界がこれまでどのような問題を抱えてきて、どうやってそれを乗り越えてきたかを分析し、記している。

中には50年以上前から存在する問題が、現在のテレビ制作現場でも同じように解決しきれずに残っているものも見受けられる。

時代によって扱いが少しずつ変化している「視聴率」の存在による弊害や、「テレビ局」という会社組織がものづくりをしているというシステムの弊害による問題点。
それらを「送り手」であるテレビ局内部の編成部署、「作り手」である制作部署の存在、その立ち位置がテレビの歴史の中で変化していっている様を分析しつつ、最適解を探っていくというものである。

前回書いたp71の話の直後だが、こちらも重要な指摘であると思ったため引用させていただく。

藤竹暁という人物が、著書の中で、現在にも通ずるようなフラストレーションの一端を1960年代後半の制作現場に感じ取っていたとされる。
当時の代表的なドラマ演出家であったTBSの岡本愛彦による言及を引用して次のように説明した。

ディレクターの才能とは無関係に番組があたえられ、才能とは無関係に番組の存否が決定され、ディレクターが自分をそこに賭けて制作した番組が、真剣な批判と討論の場を経由することなく、企業の方針という一点で番組の評価が定まるような生温い制作条件のもとでは、作品の進歩などありえないのではないか。岡本はこのように主張するのである。
(中略)
意欲なき制作演出家の存在がテレビ進歩の最大のガンとなっている、というのが岡本の主張の根底をながれている。つまり岡本の主張するところによれば、ディレクターが作品によって勝負するシステムから疎外され、サラリーマンと同じ地位のヒエラルキーによって彼の創作過程の隅々までもが規制されてしまっているところに、こんにちのテレビ界が陥っている最大の矛盾が存在しているのである。


こんにちというのは現在から数十年前のことであるが、これは現在でも多くの人の悩みであり、私自身が最も長い時間をかけて解決策を探っている点である。そしてかなりテレビで実際に働いている内部の声をもとに書かれていたと考えられる。

テレビはもちろん組織なので、全員の配属希望を叶えることはできないし、誰もが自分のやりたい番組をやっている訳ではない。実際はほとんど全員の人が自分のやりたい番組をできているわけではない。
唯一の突破口が自分のやりたい企画を通して番組を制作し、結果を残し続ける、という狭き門で、私自身もそれを目標に働き続けているのだが、それは置いておいて、テレビの未来を考える分析で、50年以上前の問題点がいまだに解決されていないという由々しき事態である。ガンという言い方を引用すると、かなり侵食され、どんどんと危険なステージに上がっていっているのではないかと考える。

問題点をさらに具体的に言えば、①才能によらない会社都合の番組の配属、②才能や熱意によらない他者からの番組存続決定、③それによる意欲を持たない制作者の存在、がテレビ制作を負のスパイラルに巻き込んでいるということである。

さらに私自身の経験上、これに加えて最も問題である点は、いずれにしても「仕方ない」「努力して結果を出せばいいだけ」という言い分のもと、上に立つ物たちがそれらを問題視することから逃げていることであると思う。

残念だが、上記の問題点はいまだに改善されないどころか常態化し、最も重要な問題として「人材の流出」を招き、かなり危険な領域に入っている。

番組制作者のさらに上に立つ、方針を決定する権限を持つ人間たちは、ある程度の給料をもらえているので、これらの危機意識が低いということも問題であるのだが、この状況を受け止め、今こそ構造改革をするべきであると思う。

「視聴率」「営業利益」に振り回されるのも仕方ないが、上記問題点の解決に注力してほしい。

この本では、視聴率の正しい扱いと、制作者の独自性、独創性を保護することの重要性がテーマにあるようだが、前述した問題を解決するために、最低限必要なのはやはり以下のような取り組みだと私は思う。
・視聴率の動向によって番組の存続を決め「すぎない」こと
・番組の存在を視聴率(金銭的価値)以外の価値で認めること
・番組の独創性、独自性を今以上に重要視すること
・常に意欲的な番組作りをさせるように、制作者のモチベーションを導くこと
・才能のある人材がずっとテレビ番組制作にいてくれると思わず、保護すること。

これに取り組んだ上で問題が完璧に解決するとは限らないが、日々命を削って番組制作している立場の人間たちからすれば、命を削って構造改革に取り組んでもらいたい。
そして私自身もそれを解決しなければならない側にいつか立たなくてはならないことも覚えておかねばらない。

この本の最後には、これらの問題解決や、視聴率の正しい扱い方などを含めた上で、最も理想的なテレビ局の組織としての構造を提案してくれるということなので、引き続き読み進めていく。

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