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【TOP INTERVIEW: WWDJAPAN編集長 村上 要】ファッションの未来を拡張し、新たな世界を再構築する人

日本を代表するファッション&ビューティメディア『WWDJAPAN』で、紙媒体(以下、ペーパーメディアもしくはペーパー)とウェブメディアを束ねる編集長を務める、村上 要さんが今回のゲストです。これまでのファッション業界の“普通”に、ストレートな言葉で違和感を提示し、新しい風を吹かせる村上さん。そこには、ファッションが持つ力で、よりよい方向に進みたい!という強い意志が溢れています。これからファッション業界に向けて羽ばたいていく、学生や若い人に向けてのエールも伺いました。(人物撮影:徳岡永子)

ある時、「本気でデジタルに取り組むんだったら、能動的未来志向にならないと辛いですよ」って言われたんです。


ー初めまして。村上さんが『WWDJAPAN』の編集長となられて約1年が過ぎていますが、その間にも、デジタルでファッションブランドのショーを、一般の人も見ることが可能となり、それが普通のこととなりました。バイヤーや編集者と同じタイミングで、誰もが一番新しいクリエイションを見ることが出来る時代になった。これまでのファッション業界の普通さえ、激しく変化しています。そんな現状を、村上さんはどのような気持ちで受け止めていますか?

ファッションショーのみならず業界全体が、「変わらなきゃいけないタイミング」っていうよりは、「変わってもいいって思えて、行動できる絶好のタイミング」と理解したいし、しているつもりなんですね。「変わらなきゃいけない」っていう使命感や悲壮感、しかも「コロナによって変わることを強いられた」みたいな受動的な志向っていうのは、未来を築く上において、精神衛生上よくないと思っています。こういう時代だからこそ、「今までできなかったorやってこなかった、こんなことをやりたいよね」っていう能動的志向で未来に向き合った方が楽しいよ、って思っています。3年前だったら、「何で変わるんですか?」って言われたり、「変えなくてよくない?」みたいに思われたりしていたことが、今ならみんな「ああ、変わるんだね」って思ってくれます。これを機に、それぞれが好きなようにやればいいって思っているんです。

これまでのファッション業界全体のサイクルやフォーマットというのは、確立されたものだし、今もまだちゃんとワークしてる“ふう”です。従来どおりにリアルなショーを開いたほうが、デジタル上でもバズりやすいという現象は、当面揺らがないかもしれません。だからLVMHは、「コロナだけれど、リアルなショーをどうやるの?」、そんな思考になっているように見えます。対してケリング(Kering)グループは「コロナだから、何をやる?」っていう発想になっていて、たとえばバレンシアガ(BALENCIAGA)はゲームの中でコレクションを見せたり、グッチ(GUCCI)は映画を作ってみたり。一方ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)は真逆で、SNSを全部やめちゃいました。本当に、みんなが独自にやっている。どちらが正しいじゃなくて、どちらも面白いと思っています。ただケリングのように変わりたいんだったら、きっと今はベストタイミング。ファッション業界全体がそういう感覚でいられると、世の中全体が、もうちょっと楽しくなっていくんじゃないか?と思うんです。

能動的未来志向と受動的未来志向という考え方は、2017年に、デジタルの編集長になったタイミングで教わったんです。当時は、ようやく時代も会社もデジタルに取り組まなきゃという状況になってきて、「WWDJAPAN」にも、すでにデジタルメディアはありましたが、毎時間コンテンツを出すのさえ厳しく必死でした。それでも「今、デジタルに取り組まないと生き残れない」とか、システムなんて全然分からないけれど「慣れないと、編集者として食っていけない」というプレッシャーを感じながら、受動的な未来志向で仕事をしていたわけです。でも、隣に居たデジタルマーケティング部、簡単に言うと、コンテンツの運用など、編集の僕らが作った“おかず”をのせる“お皿”を作ってくれるチームの部長から、「本気でデジタルに取り組むんだったら、能動的未来志向にならないと辛いですよ」って言われたんです。

ー確かに、ペーパーで育った世代としては、脳内の細胞全転換ぐらいな気持ちで取り組まないとできないことですよね。

最初は、ただただ辛かったんです(笑)。隣は慣れ親しんだ仕事を楽しそうにチームでこなしているのに対して、独りで寡黙に作業して、やっと「できた!」と思ったらエラーが出て「なんでやん!」みたいになったりして(笑)。とはいっても、デジタルは日進月歩で進化して行くわけで、人はもう、生きている時間の多分6割ぐらい、スマホと一緒に過ごしてるわけです。1日の内の12時間ぐらい触れてるものへのアウトプットと考えたら、「今よりもっと読者と繋がれるんじゃないか?」とか「紙には掲載できない動画だって作れるじゃん!」とか思えたんです。もっと技術が発達したら、スマホの上でホログラムが見られる時代が、あと3年ぐらいで来ると思うんです。そうなったら、もっともっといろんなことができるんじゃないかとワクワクしませんか?そういう未来が来るんだったら、もっとデジタルに取り組んでみようっていう思考になれた時に、僕自身、肩の荷が降りたし、楽になれたんです。

いわゆるアパレルの人たちは今、本当に大変な状況にあって、明るい未来がなかなか見えなかったり、過度にいじめられていたりする状態でもあると思うんですよね。もしかしたら僕らも加担していた時が、あったかもしれません。それでも現状をシリアスに受け止めすぎずに、どうやって能動的な未来志向に自分を変えることが出来るか?その思考転換のきっかけを、『WWDJAPAN』で、お手伝いしたいと思いながら仕事をしています。

ー個人的に1番好きなのが「エディターズレター」なんです。『WWDJAPAN』というチームであっても、それを構成する各個人は、いったい何を思っているのかっていうところは、楽しみでもあるんですよね。自分と似た意見なら親近感を覚えますし、そういう実名の原稿で可能な範囲で自分の考えや伝えたいことを自由に書くというのは、ジャーナリズムの原点だと感じます。

これからのメディアは“意志”を持っていないと生き残れないと思っています。その意志こそが、媒体の輪郭を作っていると思っているので。でも意志を抱くには、“経験”とか“知見”とか“知識”が必要だから、それは今まで以上に、身に付けていこうねとスタッフとは話をしています。「エディターズレター」は意志を最も強く打ち出せるフォーマットとして開発し、成長させることができた、大切なひとつのツールかなと思います。でも、ペーパーメディアを長年愛読してくださっている方には、いろいろドラスティックに変えすぎかなと、反省することも時々あります。

ーどんな反省ですか?

『WWDJAPAN』のプリントメディアは、業界のプロに届けています。毎日必死な人たちが多いのかもしれませんが、それでも僕は“明日のメシの種”と“未来の気づきの種”を4対6ぐらいの割合で届けたいと思っているんです。“未来の気づきの種”がないと、遠くない将来、業界はもっと厳しい状況にさらされてしまうと思っているんです。でも、プリントメディアの読者はやっぱり“明日のメシの種”を求めているのかもしれません。プリントメディアはページ数が決まっているから、双方を存分に届けることは難しい。日々、逡巡しています。エディターズレターは、“未来の気づきの種”が8とか9割ぐらいでしょうか。本当に生意気なことも書いてるんですよ。時々、読者の方と、議論したりもするんですけど。でも、そういう意志を持つ人たちがいるのが『WWDJAPAN』という、ひとつの個性とも言えます。編集者のそれぞれが、それぞれに愛を持って発信していて、それぞれがそれぞれらしく業界に寄り添おうとしている。そんな人たちが『WWDJAPAN』という媒体には、いっぱいいるよねっていうムードが、表出できたらと思っています。

内側からこみ上げてくる「自分達はこうしたい」という思いと、社会や環境といった外的要因から希望される「こうあって欲しい」という期待がリンクしているんです。


ーファッションは時代と密接にかかわっていて、その時代の空気感をその場で見ていないと、理解できないことが多々あります。それはデジタルであっても、変わらないことですよね?

紙の媒体を毎週1回出していれば良かった時代というのは5年前ぐらいまでなんです。そこから1日に20本から30本ぐらいのニュースをウェブサイトに載せないと生き残れない時代が到来して、今はせめて毎週1、2回は、動画というフォーマットで思いを伝えなきゃいけなくなっているんです。TikTokを含めた、5つくらいのSNSを駆使するなど、メディアの仕事も急激に変容しています。もっと言うと、オンラインセミナーといった新しい事業にも挑戦していて、フォーマットは本当に目まぐるしく変わっているんです。けれど、どんなアウトプットでも『WWDJAPAN』のコンテンツは、ある程度ちゃんとしていて、楽しくて、色んな事を教えてくれるよねって思っていただきたいし、そう思っていただけるとしたら、それはやっぱり編集記者としての長年の経験と、豊富な知識と、そこから生まれた意志や思いみたいなものを、それぞれのフォーマットで適切に表現しようと画策しているからだと思います。その知識、経験、思いみたいなものが根幹にあれば、多分、次にまたどんなに新しいフォーマットが出現したとしても、うまく対応できると思うんですよ。

すごい極端な例かもしれないですけれど、ファッション業界とかビューティー業界っていうのは、生活者、消費者の人たちに、自己表現のツールを提供することが仕事だと思うんです。気分を高める方法とか、高めたいと思う人への後押しをしたり、それを身に付けた人の思いを伝えたりすることが仕事なんだと。その思いがあれば、今後何が起きても対応できると思うんですよね。現実にはすでに、洋服を自分で着るだけでなく、アバターに着せることで仲間と交流したり、高揚感を持って自己表現をしたりする時代が到来しています。そういう変化に対しても、「自己表現のツールを提供したい」という思いがあれば、対応できる。思いは、これからの最大の武器です。続々と出現する新しいフォーマットの細かいことは、後から勉強すればどうにでもなると思います。

ーとはいえ、ファッションの専門学校に入って、この2年間で学生生活を終えて卒業を迎える学生たちは、世の中に出た時に、デジタルが理解できる世代だろうということで、確実に会社のデジタル化を担っていくと思うんです。でも仕事の経験値が少ない彼らに、若いからというだけで任せっきりにしてしまうと、凄い疎外感を感じて、下手をすると辞めるきっかけになってしまう懸念があります。

先日(vol.2218)のペーパーで、“パーパス(purpose)”についての特集を組んだんです。僕は普段からファッションとビューティの両方を見つつ、最近は特に、テック関係の人たちとも接することが多いんですね。そうすると、ビューティーやテック系の業界のほうが、自分達が提供するものによって、世の中の人にこういうふうに幸せになってもらいたいという“パーパス”がしっかりとある。内側からこみ上げてくる「自分達はこうしたい」という思いと、社会や環境といった外的要因から希望される「こうあって欲しい」という期待がリンクしているんです。企業には、そのリンクをみんなで模索して欲しい。そうすれば若い人だけに丸投げすることはないだろうし、若い人も「丸投げされた」と思わなくなるでしょう。このインタビューの前に、ある化粧品会社の製品発表会をオンラインで見ていたんですけど、「私たちのブランドのテーマは、人の可能性を広げる」ですってもう全然恥ずかしがらないで宣言するんです。テック系企業もトップページで「このツールを使って、人と人との出会いが促進します」など、高らかに謳っています。アパレル企業のホームページは、複数のブランドを抱えているとEコマースの集合体みたい。“感情”とか“思い”とか“体温”が感じられないんです。すごく損してるなあって思います。世の中をこうしたいんだっていう思いが必ずあると思うのに、外に向けて伝えていない。恐らく、組織の中の人にもあまり伝わっていないんだと思うんですよね。そんな中で丸投げされた仕事は、単純作業でしかなくなってしまうでしょう。

正直言うと洋服も化粧品も、単なるツールとか手段なんですよ。それ以上でもそれ以下でもないと思っています。

ーファッションは感覚に頼る部分が大きいからかもしれませんが、なかなか言葉を全面に押し出すことが少ないですよね。でも、あるべき未来を先に描いて、そこに向けて進んでいく、あるいは現実を合わせていくっていう発想を、今まで以上に意識する必要があるんですね。そういう意味では、これから社会に出ていく学生達は一般の人に近い感覚を持っているので、今まで業界に不足していた部分を、会社に提示できる良い存在になるんだろうなとも思います。

正直言うと洋服も化粧品も、単なるツールとか手段なんですよ。それ以上でもそれ以下でもないと思っています。そのぐらいの軽い感覚と、フラットに捉える気持ちを持ったほうが楽だと思うんです。ファッション業界の人達は、服とかファッションを特別視しすぎているんですよね。特別な存在と捉えすぎると、村社会のようになっていく気がします。思い入れが強すぎて、波長が合わない人をどんどん排除していった時代が長かった業界なのだと思います。

でも嬉しいことに、若い世代にとっては、ファッションも音楽もゲームの中のアバターも、全部等価値なんです。そういう感覚の人が会社に入ってきたら、ファッションを特別なモノと思っている人たちに、良い意味でカルチャーショックを与えてくれるだろうと思います。少し前に文化服装学院に講義に行った時、アバターの話をしたんです。そうしたら、中国から来た留学生が、「自分のアバターに、ものすごい課金をしている。アバターを友達に見せびらかす時は、バレンシアガの洋服を着てる時と同じぐらい高揚する!」と教えてくれました(笑)。そのぐらい、良くも悪くも、ファッションは手段であって、それをどう使うかは人それぞれ、自由なんですよね。若い人を中心に、そのフラットな感覚と良い意味での軽さが業界全体に拡がれば、もっとオープンな業界になっていくだろうなあっていう気がしています。

僕自身は回り道も沢山しているし、会社が「ダメ」って言うことなんて今もしてるし。無駄なことをいっぱいやればいいと思いますよ。本当に無駄なことは、いっぱいやったほうが絶対楽しいです。それは間違いないです。


ーとなると、学生時代に彼らに学んでおいて欲しいことは何だと思いますか?

世の中で何が起こっているのかを、常に意識して欲しいと思っています。アメリカで言えば、2017年にドナルド・トランプが大統領になったことが本当に大きな契機で。そこから「多様性ってなんだろう?それをファッションでどういうふうに表現したらいいんだろう?」と皆が考える時代になったんですよね。そしてたった15歳のグレタ・トゥーンベリにすべての大人たちが怒られてしまった(笑)。いよいよ地球がやばいと気づかされ、急にサステナブルという言葉が広まって、慌てて過剰生産を見直しています。社会の動きと連動して千変万化していくのが、ファッション業界のいいところです。少なくともラグジュアリーと呼ばれるファッション業界のトップオブトップの世界には、半年おきに新しいコレクションを発表して、自分たちの考えをアップデートするという機能がまだ残っていて、消費者に問いかけるフォーマットとしてのファッションショーも存在しています。半年おきに世の中に問い続けるシステムを強いることによって、その時代の感覚を如実に反映する構造を作ったのだと解釈すると、すごく良い機能を果たしているなあって思うんですよね。こんなに頻繁に世間に問いかける業界って、他に無いでしょう? 車や携帯なんかも、ゼロから作り直すことなんて、めったにない。ファッション業界のフォーマットは、ある意味、他の業界から見たら、羨ましくもありカッコ良いものなんだと思います。

ー村上さんにそう言っていただくっていうのが、誰よりも説得力があると思って伺いました。

学生からも同じ様な質問は良くされるんですが、同じ様にお答えしています。でも少し気になるのは、みんな、間違えたくないし、失敗したくないし、怒られたくないみたいな恐怖がすごく強いなということ。僕自身は回り道も沢山しているし、会社が「ダメ」っていうことなんて今もしてるし(笑)。無駄なことをいっぱいやればいいと思いますよ。本当に無駄なこと、いっぱいやったほうが絶対楽しいです。それは間違いないです。僕の前の仕事(新聞記者)なんて、本当に今の仕事にどれだけ影響しているかって言ったら、原稿書くのが早いぐらい。ビューティを最初に担当したときは泣いたし、デジタル担当になった時は後ろ髪を引かれる思いでした。でもどれも全部必要なステップだったと思うし、結果、いろんなことを広く浅く経験できたことは、本当に今につながっている。そういうところは会社に感謝しています(笑)。

ー村上さんはインタビューなどで「ファッションは拡張していく」と言っていますが、それは異分野の「こと」や「もの」や「人」を取り込んでいくことの大切さを提案していると思っていいですか?

誰もが急にZOOMを使わなきゃいけなくなった時に背景をア ベイシング エイプ(A BATHING APE)がいち早く作ったり、ロレアル( L'Oréal)グループが美肌フィルターを開発したりという現実は、まさに拡張し始めたファッション&ビューティの象徴的な事例だと思うんです。だからこれからも自己表現とか自己高揚、自己肯定のサポートツールを開発できると思っています。そういうものに対して敏感でありたいし、積極的にトライして欲しいなあと思っています。衣服の概念を越えるくらいファッションの定義が拡張されて、みんなに関係のあることとして認識されたらいい。「5年先にはアパレルの売り上げが半分になっても、バーチャルウエアの売り上げがそれを補っていて、次の5年でその比率はもっと変わってくると思います!」なんていう企業が出てきても、いいんじゃないかなあって思っていますね。

ーファッションの世界で一番のネックはテキスタイルだと思っています。産地は、次世代を育てる意欲を持った70代や80代の人々の熱意に支えられていると感じます。もちろん若い世代が一致団結して自分達の魅力に気づき、それを発信しはじめてもいます。いずれにしろ答えは、渦中にいる彼らの中からしか出てこないんですよね。その方向性が決まったあとなら、私達もお手伝いできる。

産地、特にOEM企業はいろんな難しい問題を抱えていますね。その多くがプライベートブランドを作り始め、そのプロモーションでSNSに挑戦していますが、やり方はイロイロあると思っています。例えば生活者とのコミュニケーションはMakuakeに任せちゃうとか、です。しかも方法は、これからもっと増えてくるはず。自分たちでしっかりと考えている気概のある人たちは、生き残っていけるだろうと思います。ニット屋さんが壁紙を作ったり、ランプシェードに挑戦したり、洋服にする予定だったニットを全然違う形に利用したっていいんです。

今の若い子に言いたいのは、特にSNSからの情報だけで、世界を知ったような気にはならないで欲しいということ。


ー確かに、結果を急ぎすぎる人は、過去の成功パターンを聞かされると惹きつけられてしまうのかもしれませんね。注意が必要です。ところで、『GQ』『VOGUE』『BRUTUS』といったメディアの編集長がそろって変わりましたね。ペーパーからデジタルへ、そしてぺーパーとデジタルをどう共存させていくかが、どの出版社にとっても最重要課題なのだと感じています。村上さんは、新編集長たちと年齢も近いんじゃないですか?

そうですね。僕ら世代の編集長が増えた実感はすごくあります。ペーパーもデジタルも両方経験しているからこそ、デジタルの良い点も悪い点もしっかりと認識した上で情報発信したいですね。

スマホって「自分の世界をもっと知る」にはめっちゃ便利だけど、「自分の知らない世界を知る」には、めっちゃ不便なんですよ。今の若い子には、そう伝えたいです。SNSが駆使できると、世界を知った気になれるじゃないですか。でもそれは絶対に嘘。だってSNSのタイムラインに流れてくる情報は、自分がフォローしてる人の情報なんですよね。フォローしてる人なんて、所詮、自分の世界と、まあ頑張って自分の隣の世界ぐらいの人です。自分が全く知らない世界の情報は、絶対にタイムラインに出てこないんです。そういうアルゴリズムなんです。反論する人は「ハッシュタグ検索がありますよ」とか言うけど、ハッシュタグ検索こそ、自分の知っている世界の言葉で検索するわけで。自分の知らない世界の検索ワードなんて、思い浮かばないんです。

つまりSNSは、自分が全く知らない世界とエンカウントするのが本当に難しい。そういう意味では、新聞とか雑誌みたいなペーパーメディアは、ページをめくることで知らない情報にエンカウントするチャンスがある。ペーパーとデジタルには、それぞれの役割があるって思います。だから、もっと、もっと強く発信して行きたいなあって思っています。

ー非常に個人的な意見ですが、ペーパーメディアのほうで、通算2000号を記念した特大号がありましたよね? あれは本当に面白くて、保存版含めて3冊買って、学生にも薦めているんです。デジタルは常にアーカイブされるという特徴があると思いますが、それとは別に、変わりようの無い過去の出来事が、分かりやすく年表になってアーカイブされていて欲しいです。さらにデジタルでしかできない、何枚も扉が開くような重層的な作りの年表が欲しいと思っているんです!海外の人も見に来るような!

なるほど......。受け止めましたっ!

村上 要 Kaname Murakami
1977年、静岡県生まれ。東北大学教育学部を卒業後、静岡新聞社に入社して社会部記者を務める。退職後、渡米してニューヨークの州立ファッション工科大学でファッション・コミュニケーションを学ぶ。現地での編集インターンやアシスタントを経て、帰国後にINFASパブリケーションズに入社。2017年に『WWDJAPAN.com』の編集長に就任。21年から現職。

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