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【TOP INTERVIEW: 「アキラナカ」マネージング・ディレクター&mipick代表 堀田彰文】 ファッションを数字で読み取り、システム化する!

ファッションブランド「アキラナカ(AKIRANAKA)」のビジネス面を支えるキーパーソン、堀田彰文さんが今回のゲストです。日本をベースに活動するデザイナーズブランドの業務効率化を支えるためのシステムを開発。この4月に発表を予定しているという堀田さんにお話しを伺いました。

「アメリカに留学して最初にお世話になった会社で、 『ヴィンテージ・オークション(Vintage Auction)』っていう古着のオークションサイトの運営に携わる機会がありました。」


ー実は2019年に「アキラナカ」のクリエイティブディレクターの中章さん(以下、ナカさん・ナカ)をお招きして、CREATORS TOKYOのデザイナー達に向けての講義をお願いしたんです。ナカさんのいままでの経験がすべてオープンに共有された、素晴らしい内容でした。その際に、堀田さんがナカさんと共に開発した、業務効率化のためのシステムについて簡単にお話くださったんです。ナカさんが堀田さんの存在をとても心強く感じている様子が良く分かって、これは絶対にご本人に会わなければと思いました。と同時に、堀田さんの現在に至るまでの経緯も、少しお聞きしないといけないと思ったんです。なので、とても基本的なところからスタートしたいのですが、ご出身はどちらですか?

そうですね、僕は愛知県名古屋市の出身です。ナカは三重県で隣の県なんですけど、 縁があって14歳ぐらいから交流がありました。

ー大学は国立の名古屋工業大学を卒業されていますよね。その後、渡米されますが、どういうお考えがあってのことですか?

僕は工学部を卒業したんですけど、ビジネスがすごくやりたかったんです。在学中から、貿易というか、国際ビジネスにすごく興味が沸いてきてしまって。それで、まずは渡米してMBAを取得したいと考えたんですね。とはいえ単純に留学して勉強するだけではなくて、並行して仕事の経験も積みたいなと考えたんです。それでTOEFLとかGMATとかを取得しながら、現地で「ファーリー・エンタープライズ(Farley Enterprise)」(以下、ファーリー)という貿易関係の会社でアルバイトをしたんです。1995年からスタートした会社で、Eコマースも絡んでるような仕事内容でした。それをもっと軌道に乗せるために、パートナーシップとしてフルタイムで参加してくれないかというオファーをその会社からもらったんですよ。それはもう、僕にとってすごくいいオファーだったので参加したわけです。MBA取得の準備もしていたんですけど、途中で方向転換して仕事を始めちゃったわけです。そこで「ヴィンテージ・オークション(Vintage Auction)」っていう古着のオークションサイトの運営に携わりながら、更に古着以外のアメリカの製品も海外にオンラインを通して販売するサイトの運営や、そのための物流システムなどのプロジェクトに参画していきました。それが1998年から2002年頃のことです。

ー90年代後半の日本は、まさに古着ブームでしたものね。

ちょうど日本では“古着バブル”と言われた時代です。ヴィンテージ・オークションは、アメリカ産の衣類を本国並みの値段で買える、アメリカの古着のデパートのようなサイトでしたが、個人が安心して取引できるネットオークションという発想自体が、当時はとても斬新だったんだと思います。まだ今ほどのネット社会じゃなかったので、今思うと信じられないですが、日本の雑誌にイーベイ(eBay)さんとか楽天さんとかと一緒にインタビューされたりしたこともありました(笑)。

僕もナカも、もともと古着が好きだったんです。古着がきっかけで、僕は物流の道に進んで、ナカはそれを自分でカスタマイズすることから始まり、デザイナーの道に進んでいった。今一緒に仕事をしているのも、そういったことがルーツにあるのかもしれません。

ー話が元に戻りますが、貿易への興味は、いつ頃から、どんな形で芽生えたんですか?

アメリカと日本のビジネスをやっている知り合いもいたりして、何となく考えていることはあったんですけれど。「ものを動かす」ということを、自分でもやってみたいっていう気持ちがありました。物流にすごく興味があったんです。アメリカに渡って、アメリカから日本に向けての貿易をしたいっていう気持ちは、すでに大学時代から自分の中でイメージがあって。それに生意気な性格だから、会社勤めとかには向かないタイプだと思ったんです。自分でやりたいことをやる方が向いてると思っていた。多分、ナカも、そういうタイプですね(笑)。

ーそれで2002年に、国際物流オンラインシステムを開発する「アクセス・テクノロジー・ソリューションズ(Access Technology Solutions)」(以下、アクセス)を立ち上げられたんですよね?

ファーリーで出会ったアメリカ人のエンジニアと2人でアクセスを開始したんです。その会社は古着専門ではなくて、一般的な物流を扱う会社でした。当たり前のことなんですが、物の流通には送料が鍵なんだなってことは分かっていました。でもFedExさん、DHLさん、UPSさんといった大手クーリエ(国際宅配便)会社を使うとどうしても高いんですよ。Tシャツ1枚を買おうにも、送料が高くて割に合わない。まとまった数量があればいいけれど。そういう現状をどうしたら打破できるか?ということを、ファーリーにいた頃からすごく考えていたわけです。そんなときに、そのエンジニアと新しい物流のシステムを作ってみようと考えた。簡単に言うと、発注するトラック会社とか航空会社とか通関業者とかを、メニューから自由に選んで組み合わせることができるシステムを作れたら、もっと安くできるんじゃないかという仮説を立てたんです。それで実際にやってみたら、本当に当時の業界最安値と言えるほどの送料が出たんですよ!手前味噌ですが、本当に、これは革新的だったと思います。当時はそれで、佐川さんとかヤマトさんにも注目していただいたりしました。かゆいところに手が届くサービスが実現できたわけです。その会社で10年ぐらい、物流、特にどれだけ安く世界中に出せるかを、テクニカル的に攻めるみたいなことに集中して取り組みました。アクセスには2012年まで、ちょうど10年いました。僕が会社を辞めた後も続いています。

「ナカが面白いのは、今でも昔と少しも変わらないところですね。すごく理念を大事にしてて、お金の追求じゃないんですよ、彼。そのスタンスはずっと変わらない。」


ー堀田さんご自身の夢と時代感がぴったり合った感じですが、その後、帰国して「アキラナカ」に入るべく、ナカさんに会いに行かれたんですよね?

なぜ日本に戻ろうと思ったかというと、一つの大きな理由は愛国心が芽生えちゃったんですよ。2011年に起きた東北の震災(東北地方太平洋沖地震)や、ナインイレブン(9.11)のニュースもアメリカで見ていたわけですが。アメリカの企業のために色々やってきたから、これからは日本の企業のためにやっていきたいっていう気持ちがふつふつと湧いてきて。ナカともいろいろ話をしてて、そろそろ40歳になるし、何か一緒にやりたいって連絡をとっていたんです。ちょうど、ナカの方も起業して4、5年経った頃で、だんだんブランドも軌道にのってきてるっていうことで。それで今までの「アクセス」での経験を生かして、日本の企業のために日本発のものを改革していきたいと考えて、2013年に日本に帰ってきたんです。

ーナカさんは若手デザイナーへの講義でも、堀田さんとのやり取りを少しだけお話ししてくださって。「堀田が、アメリカから自腹で飛行機で何回も来てくれたから、真剣に考えないわけにはいかなかった」とおっしゃっていました。二人で話し合いをする中で、ナカさんからの印象的な言葉はありましたか?

ナカが面白いのは、今でも昔と少しも変わらないところですね。すごく理念を大事にしてて、お金の追求じゃないんですよ、彼。そのスタンスはずっと変わらない。ファッションブランドをやっていても、もっと儲けようと考えるよりも先に、もっともっと良いものづくりをして、世界に日本のものづくりを伝えたいと考えている。その思いが本当に強くて。だから二人が仕事をする場合も、それが会社の理念となってないと一緒にはできないって言われたわけです。そうじゃないと、いずれ一緒にできなくなる時が来ると思うと。彰文はアメリカでビジネスをいろいろやってきたけど、それはビジネスとしての利益の追求だったんじゃないかと思うって言われて。確かにそうなんですよ。実際、 ビジネスとして会社を大きくすることが目標で、やってきていましたから。だから、「自分の理念はもう多分一生変わらないから、それに彰文が賛同してくれるんだったら一緒にやろう」っていうのを最後に言われました。

ーナカさんがアントワープにいた時、アントワープは小さい街だから、クリエイター同士がものすごい情報を共有するとおっしゃっていました。自分が経験したことを他人と共有していく。伝えていく。その行為に損得がなくて、アントワープ全体で上がっていこうよっていう考えが根底にあったと。そういうことを自分も日本でやりたいし、特にデザイナーズブランドとして活動している若手にこそ共有していきたいと、最初に言ってくれました。

ナカはもともとそういう理念とマインドを持ってるんです。学校で教鞭を取ってた時期もありますしね。あれは彼の天職だと思ってて、人に教えたり、共有したりっていうところにすごく価値を見出しているし、優先度が高いんですよね。どれだけ忙しくても、後輩にコンサルしたりとか。そういうことをずっとやっていたんですよ。僕なんか「忙しいんだから、やめたら?お金にならんよ、こんなことやっても」って言うんだけど、彼の中ではとても重要で、日本のものづくりを活性化しないと、結局は自分に返ってくることだと言って聞かない。日本のものづくりがこれで衰退してしまったら、うちのブランドも成り立たない。だからもうこれはチームワークなんだってことを僕は散々言われて。今は理解していますけど、当時はすごい合理主義者だったから。無駄なこと全部カットしよう、そんな余裕はないよ、みたいな感じだったんですよ。でもナカは本当にずっと変わらない。お金じゃないんですよね、彼の価値観は。

「まずはエクセルを卒業できるようにするためのシステムを作ろうと最初に思いました。月単位、年度ごとといった縦割りの考え方ではなく、1年から数年を通してのシーズン単位、製品単位で横割りで見えるシステムを作らないといけないと感じました。」


ーそうしてご家族と共に帰国されて、「アキラナカ」のお仕事と並行して、ご自身の会社「マイピック(mipick)」もスタートされたんですよね。

はい。当時はだいたい半々くらいでしたね。今はアキラナカの方が比重が大きいですけど。

ー初めはブランドのファイナンス部分を担当されていたのですよね?そこから派生して「デザイナーズブランドの業務のシステム化」に取り掛かりますが、それはナカさんと「アキラナカ」のスタッフの動きを見て感じたことからスタートしたのでしょうか?

当時、1つのエクセルデータにスタッフ数名が打ち込んでいたんですが、全員がエクセルが得意ってわけじゃないからミスも起きるし、入力が重複していたりして。システム畑にいた自分から見ると、申し訳ないですが、無駄が多いなというのが第一印象でした。

ーものづくりをする人は手間を厭わないというか、根性があるから。堀田さんのような存在が現われなければ、きっと、ずっとそれなりにこなしていたかもしれませんね。

僕がそれまでやってきたことっていうのが、もうとにかくシステム化なんですよ。合理化、効率化、そしてそれをどうシステムに整えるかっていうのが、ずっとやってきたことなんです。だから自分の会社は、すごいデータ化して、システムシステム!っていうマインドじゃないですか。その目でファッションブランドを見ると、やっぱり全然違いましたね。僕の目線は、ある意味偏った見方だとは思うけれど、こういうところをシステム化すれば、多分グッと効率が良くなるよ、といったことを最初は伝えて行きましたね。ナカもそれに関しては賛同してくれて「じゃあ、やれるところからちょっとシステム化していこうか」みたいな感じでした。始まりはそんな感じだったんです。

ーそのシステム化の作業は、どこから取り組んだのでしょうか?

まずは生産のところですね。たとえばそれまでは、50型の製品を作るために、それぞれの生地を何メートル買って、5、 6型ずつぐらいは同じ生地を使い、これとこれの芯地と裏地は同じ種類で色違いを何種類使うとか。そういった内容を全部エクセルに打ち込んで計算していたわけですが、仕様や用尺が1つ変わるたびに、打ち直すといったことを、これまではずっとやってきたわけです。下手すると2、3日かかっていて、ものすごい作業量と時間なんです。特に、生地計算が簡単に正確にできたら、作業効率はだいぶ変わると確信しました。だからまずはエクセルを卒業できるようにするためのシステムを作ろうと最初に思いました。

もうひとつ僕の中で引っかかったのは、生産のコストを常に明確に捉えきれていないという点でした。ファッションブランドって、企業もそうですが、6ヶ月ぐらいかけて物を作るじゃないですか。サンプル製作から売り上げが入るまで、9ヶ月ぐらいかかることもある。だからシーズンがレイヤーしてきてしまっていて、生産コストを月単位で割って考えてしまうと、本当にどれだけのコストがシーズンごとに製品ごとにかかっているのか、見えにくいんです。会計ソフトでは分からないんですよ。生産コストにまとまった金額がポンって入っていて、その月では黒字でも、その次の月に急に赤字になるとか。売り上げが伸びてくると、必然的に投入金額は増えますし。更にシーズンごとの出入金額も、くっきりと分かれているわけではなくて、重なってレイヤー化していくわけじゃないですか。だからこそ、月単位とか年度といった縦割りの考え方ではなく、1年から数年を通してのシーズンごとの横割りで見えるシステムを作らないといけないと感じました。

ー確かに若手デザイナーの売り上げが急激に伸びると、とたんに黒字倒産の不安が出てくることがありますね。

3~5年といった長いスパンで予想を立て始めると、ある時期に急激に売り上げが伸びて投入金額が増えたとしても、そこは銀行に融資を受けるタイミングだな、といった考え方ができるようになりますよね?そういった予想を立てずに、急にお金が回らないタイミングが来てしまうと、最悪倒産するしかなくなってしまう。長いスパンでの予想を立てて、それにのっとって進めていくっていう考え方が大切なんですが、それをするにはシーズンごとのコストが出ていないと難しいんです。それで考えたのが最初のプロトタイプです。シーズンでかかるいろんな生産コストを最初にシステムに打ち込んでしまう。そうすると、シーズン合計の原価が出て、アイテムごとの原価も出るんですよ。結果的に、この商品の原価を少し下げないといけないとか、上代を上げないといけないといった細かい調整が事前にできるようになる。それをデータ化して可視化することで出てきた数字をもとに、もう一度使う生地や仕様、時にはデザインをも調整していく、ということができると、非常に大きな違いになります。

ーそのシステム作りも約7年かかったと聞きました。やはりちょっとずつ、スタッフの方々の意見を取り入れたりして試行錯誤されたんでしょうか?

そうですね。先ほど言ったとおり、最初は生地計算と、おおまかにコストを出すということができるという、その2つに絞って構築したんですけど、やっぱり1つに連動させないと使い勝手が悪いということで、結局全部の工程を一気通貫にしたんです。詳しく言うと、生産情報管理➡サンプル制作➡生産コスト➡展示会・受注➡顧客管理➡量産製作➡在庫➡納品・請求➡レポート➡倉庫機能といった感じに。3、4年前頃にはこうした全工程が入ったものが完成していたんですけど、あとの改良は使い勝手ですね。「アキラナカ」の1ブランドだけだと何か手落ちがあるかもしれないので、数社のヒアリングも入れながら、製品化を進めています。今年の4月に、製品化出来る感じで、でもそこでまた3、4社に使ってテストしていただいて、さらにブラッシュアップして秋頃にプレスリリースかなと思ってます。

※ 数字はデモ用サンプル

ーすごく期待してます。特に若手のデザイナーズブランドは、デザイナー1人ですべての仕事をしている人がほとんどだと思うので、彼らは喜ぶはずです。これからも、デザイナーの気持ちが分かるデジタルな人、システムが作れる人っていうのが、もっと現れるといいですよね。堀田さんのように、異業種の人の視線から生まれた業務改革がなされる必要が、今後ますます必要と感じます。そして実際に使ってもらうことで、堀田さんのお仕事の、次のステップもありそうですね。

これ以外にも、やりたいことが実はいっぱいあって。このシステムにもすでに開発を入れているんですが、簡単なAIを入れた、いわゆるマーケットリサーチですね。様々なブランドのカテゴリーや価格、生地情報までを、情報収集して、それをもとに、例えば「アキラナカ」の4万円のコットンのパンツっていうふうに打ち込むと、同じような材質で並びのブランドのものが、パッと出て来るっていう仕組みにしたいんです。それをもとに、コンサルというかアドバイスができるようなシステムも今作っています。

4月に発表するものは、生産コストをはじめとする生産管理が売りになっていますけど、実はもっとフォーキャスト(売り上げ予想や見込み)が出るような仕組みにしたいんですよね。先ほど話に出た数年先が予想できるデータ、それこそシステム化できたらいいなって言うのがあります。もう1つは製品構成ですね。一発でMDマップが出るようにするシステムは、今年中に出来るんじゃないかなと思っています。

「システム開発に7年かかった理由って何だろうと考えたら、やっぱりヒアリングが難しいんですよね。クリエイションの現場に付き添って、理解を深めるしか方法はないから、その手間にどれだけ時間を費やすことができるかがポイントで、お金儲けだけ考えていたら、なかなか取り組めないニッチな仕事でもあるわけです。」


ーコロナ禍となって、堀田さんが、これからファッションの世界はこうなるべきだなと思うことはどんなことでしょうか。

やっぱりオンライン化がぐっと進みましたよね。これはもう皆さんご存知の通りです。ECがちゃんと出来ているブランドや会社は生き残ってますし、商品を店舗で買うのが普通という感覚も大きく変化してきています。そこに対してどう手を打っていくかっていうのが、やっぱり今後の生き残りの境界線になってくるかなと思います。「アキラナカ」も展示会など、あらゆることをデジタルでこなせるように頑張っていますが、デジタルでの展示会では、商品を理解していただくためのあらゆる手段をとっても、やっぱりなかなか伝わらないことがあるんですよね。そういった状況の中で言うと、オンラインでどれだけリアルに表現していけるかっていうところ、そしてそれをオフラインとどれだけうまくリンクさせていけるか、国ごとのローカライズも含めてですが、というところが大切になるかなと思います。

ーシステムが本格的にリリースされるのが秋頃で、購入後のサポートみたいなことは考えていらっしゃるんですか?対面での説明会とか、ユーザー同士の交流会とか。どこまでもアナログ発想で申し訳ありませんが...。

基本的には、できるだけユーザーフレンドリーにしたいんですよ。「サポートついてます、その分、高いです」っていうのが、システム的としてもう違うというか。それ以前に、見ればだいたい分かるっていうシステムにしないといけないと、すごく思ってるんです。ヘルプ内容を見れば大体分かるっていうふうに持って行きたい。そうすれば、若手ブランドでも取り入れやすい価格帯に設定できると思うからなんですが。このシステムを導入するコストが経営を圧迫してしまうようでは、本末転倒ですよね。

ー日本のデザイナーズブランドに必要だと思うことは他にありますか?

生意気な言い方かもしれませんが、特に若手ブランドのデザイナーさんには、ビジネス面でのサポートが必要だろうなと感じます。デザイナーさんはやっぱりデザインを勉強している方たちなので、経営の勉強はしてない方がほとんどじゃないですか。そこを出来るだけシステムでサポートしたいっていうのはひとつありますね。

海外に関しては、パリから戻ったナカのフィードバックを聞くんですが、その時にすごく思うのが、海外って一言で言っても、いろんな国があるということ。だから日本と海外っていう設定が、もうちょっと通用しないと思うんですね。日本の他に、ごまんという国がある。主だった国だけでも数十ありますよね。たった数十の国でも、体のシェイプも違えば、気候も違う。例えば韓国とかは日本人の体型と近いし、気候も近いからそのままでもいけるかもしれないけれど、じゃあ中東で売れるかというと、もう全然ボディシェイプが違う、気候も違う、価値観も文化も違います。オケージョンも全然違いますよね。その辺のことが、この仕事をすればするほど分かってきました。日本中心に考えたら、細めの女性が多いけれど、その人たちに似合う服を作ってしまうと世界では通用しないということも。やっぱり世界で活躍されてるブランドはそこについては本当に妥協を許さない。そういうことを分からずに、デザインの革新性とか新しさ、そういうものだけで攻めようとしても難しい。その辺の違いをデータ化できるといいなと考えています。このボディシェイプだとこの国には合うぞみたいなことが。

ーデザイナーが自分の服を「この国に売りたい」って思った時に、ちょっと能天気な表現かもしれませんが、ファッション版『地球の歩き方』みたいなものがあると、確かに嬉しいですよね。

そういうのを教えてくれるところがあまりないから、おそらく現状では、デザイナーが自分1人でそういう情報収集をしていると思うんです。そういう情報こそ共有されると良いなって思います。そうすれば「チーム日本」として世界で戦えるじゃないですか!

ー先ほどからお話しを聞いていると、とにかくあらゆる問題点を数字で解決して行くっていうのは画期的ですよね。なぜ今までできなかったのか不思議です。

システム開発に7年かかった理由って何だろうと考えたら、やっぱりヒアリングが難しいんですよね。システムを作る時って、システム化する案件の“定義”ができないとダメで。普段からファッションが生み出される現場を見て、その作業の意味や問題点を理解できないとヒアリングした内容の意味も分からないわけです。クリエイションの現場に付き添って、理解を深めるしか方法はないから、その手間にどれだけ時間を費やすことができるかがポイントで、お金儲けだけ考えていたら、なかなか取り組めないニッチな仕事でもあるわけです。

ー「アキラナカ」ではサンプルが上がってモデルフィッティングをする時には、すでにあらゆる数字がはじき出されていて、それを全員で共有しながら、モデルがウォーキングしているその現場で変更と決定作業をしていくと聞きました。たとえば価格を抑えるために、デザイン調整をしていくといった作業があると。

生産チームの担当者は項目ごとに常にデータ化していて、生地、付属の値段、用尺、結果上代はこれくらいになりますっていう役割ですよね。たとえば「100着生産する前提だと縫製賃はこのくらいですが、もし20着しかつかない場合、縫製賃も上がってこのくらいの原価率になってしまいます。このデザインの場合、その想定は必要だと思います。」とか言う役目な訳です。全員がそろっている現場でそれを言うのは、時に勇気がいること。でもお互いに冷静に数字を意識しながら、自分達の意見をちゃんと言い合えるっていうのは、健康的な企業の在り方だと感じています。

このシステムは、弊社の中から生まれて、弊社の中で実際に使って試して、それがある程度根付いてきています。自分達が良いと思って取り入れていることだからこそ、他のデザイナーにもお勧めできると思っています。もちろん、オペレーションを変えるのって大変なので、最初に産みの苦しみはあるんですけど。使い始めは、データを入力するだけでも大変ですからね。ですけど、それを1回やってしまえば、そのあと、絶対に楽になるっていうのを体感して欲しいし、使えば必ず分かっていただけると信じています。

ー産地や生地屋さんにも流用できそうな考え方ですよね?

すごく分かります。例えば、生地はすごく無駄になってると思うんですね。なぜかというとデータ化が全部できてないから。どこに何が余ってるか分からないとか。ブランドでも分からないんですもん。我々もデータ化して初めてわかるんですよ。生地屋さんでもきっとそういう部分があると思います。大手はデータ化も進んでいるかと思いますが、できてないところも多いかと。それって縫製工場さんでも同じようないろんな問題があって。だから今ブランドをシステム化してて思うのは、縫製工場さんとか生地屋さんとチームでやっていかないと、うちだけシステム化しても完結しないということ。納品代行の倉庫さんとかとも結構データ連携させています。ブランド側がシステム化していても、取引先が手入力していたら、本当に意味が無い。倉庫さんとか生地屋さんとか、徐々に徐々に取り組んでいっていますが、それが全部終わらないとやっぱり完結はしないと思います。

「物流については、ずっと本業でやって来ましたが、とても安く海外に出せる仕組みっていうのを、今も作って提供しているんです。そして今、その仕組みをファッション用に作り替えています。」


ー色々なかたにお話を聞けば聞くほど、これからはますます、オールジャパンとして結束していく必要があると感じます。たった一つの取引先の印象が、日本全体の印象になってしまう可能性があるわけですものね。

日本のブランドや産地には、素晴らしいクオリティがあるんですよ。でもアメリカに比べるとやっぱり、PRが足りない。国民性が謙虚だから。もっと自慢すればいいのにって、いつも思いますもん。ほんと誇りを持ってやっていいと思いますよ。日本のものづくりは素晴らしいですから。

ー堀田さんとその仲間たちの仕事は、これからまだまだあるという感じですね。

あと僕はファッション以外に、越境ECをやってる会社のシステムサービスにも取り組んでいるんです。日本のeBayセラーのかたを対象としたイーロジ(eLogi)というサービスもその一つなんですが。物流については、ずっと本業でやって来ましたが、とても安くしかも簡単に海外に出せる仕組みっていうのを、今も作って提供させてもらっています。そして今、その仕組みをファッションブランド用に作り替えています。これは多分、すごく便利になると思いますよ。うちは越境EC用の取引のボリュームは持っているんですが、そこでファッション系のものも一緒に扱わせて欲しいと、大手クーリエ会社と交渉して、同じレートで使わせてくれることになったんです。「BtoB」も「BtoC」も使えるレートで、これはかなり安いです。これから海外に進出しようと考えていたり、Eコマースに本気で取り組もうと思ったときには、やっぱり物流にかかる金額が肝になると思うんです。海外に関しては、これからおそらくボーダーがなくなってくると思いますから、その辺でも、ブランドのお手伝いができるんじゃないかなって思っています。こちらのリリースは夏ぐらいになると思うんですけど、乞うご期待です!

ー日本のブランドにとって、海外がますます身近な存在になったら本当に嬉しいことです。堀田さんとナカさんの二人三脚の旅も続きますね。

僕が彼をすごく好きなのは、若い頃から自分を持っていて、ものづくりとか、より良いものを展開するビジョンがすごく明快だから。羨ましいと思う時があります。僕はどうしても会社の利益を考えちゃうタイプなんで。彼はそうじゃない。もっとなんか、大きい視野で物事を見てますね。「アキラナカ」に入って10年近くになりますけど、改めてすごく良いパートナーと巡り合えたなって思っています。

堀田彰文 Akifumi Hotta
1972年、愛知県生まれ。95年 名古屋工業大学卒業。98年に渡米。2002~12年まで、現地で国際物流オンラインシステム開発の会社「アクセス・テクノロジー・ソリューションズ(Access Technology Solutions)」を起業。2013年に帰国。同年より「アキラ ナカ」にマネージング・ディレクターとして参加。平行してオンラインシステム開発のマイピック(mipick)を起業し、同社代表取締役。



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