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大迫・酒井・武藤・パトリッキが揃ったときにやるべきサッカーとは J1第26節vsヴィッセル神戸 マッチレビュー

試合サマリー

前半

繋ぐ神戸にカウンターを狙うサンガ。
天馬を中心に強度高く守り、クリアから相手のミスを逃さず原が決めて先制。これは有難い展開だと考えていたところで、GKからのロングボールを後逸したところから上がってきたクロスで失点。

同点になってからは、神戸は右サイド(サンガ左サイド)から、サンガはハイプレスと奪ってカウンターから得点を狙います。
お互い決定機はありましたが決めきれず1-1。

後半

後半開始直後、大迫のプレスバックからのボール奪取から神戸に決定機。フリーのパトリッキがシュートを放つも、ギリギリ枠を外れて助かります。

ほっとしたのも束の間。
後半7分、初瀬が見せたロングボールが試合の流れを変えることとなります。パトリッキがファーストタッチでペナルティエリア左へ進入し、福田を抑えながらシュート。このシュートがゴールネットを揺らしリードを許します。

反撃に出たいサンガですが、長短のパスを織り交ぜる攻撃とハイプレス守備で大苦戦。神戸の猛攻が続く中細かいチャンスを作りますが得点は奪えず。
洗練された大迫の鹿島りをみせつけられ試合終了。1-2での敗戦となりました、

PickUp:作られた個人勝負・感じさせれられた能力差

前半開始早々はサンガのペースで。
前半の得点時はもちろん失点後も悪くない流れでしたが、30分すぎで雲行が怪しくなり、後半からはずっと神戸のペースで進んでしまいました。
ターニングポイントとなった京都・神戸の戦い方の変化を取り上げていきます。

①大迫のタッチ数を増やす

京都は天馬を先鋒に置いた強烈なプレスを軸に、イヨハ・武田・金子を生かしたビルドアップでペースを握りました。
しかし、中途半端なビルドアップを引っかけられチャンスを作られていた神戸がロングボールを軸とした組み立てにシフトチェンジ。25分ぐらいから露骨にボールが頭の上を超え始めます。

天馬は天馬でも空を飛べない天馬が松田天馬です。頭上の遥か彼方の蹴り飛ばされるボールにプレスをかけることはできません。武器の一つであるハイプレスが封じられます。
(ビルドアップが上手くいかないと見るやロングボールへの切り替えを前半中に実行できるのは、京都と神戸の大きな差です)

ロングボール戦術の採用により神戸が得られるメリットは、ハイプレス回避だけではありません。大迫がボールに触る回数が増えるのです。

このnoteでよく例えに取り上げているペップバルサの話。
就任1年目のグアルディオラが取った戦術の目玉の1つが、スリートップの中央にメッシを配置することでした。

トッティのような「トップ下でパスが得意な選手」を1トップに置く0トップというのはありましたが、ウィンガーを中央に配置しての0トップは稀で、奇抜な発想が注目を集めました。

この奇抜な発想の戦術が採用された理由はシンプル。
チームで1番上手い選手(レオ・メッシ)を1番ボールを触れるポジションに置くべき。と。
とてもシンプルながらとても有効な考え方です。

0トップが成功したかどうかは今さら私が語るまでもありません。
(バルサのタイトル歴を見れば済む話です)

これをヴィッセルに当てはめて考えてみましょう。
一番ボールを触らせるべき選手は誰か?
大迫勇也に決まっています。空中でも地上でも。

「大迫に当てて大迫を起点に展開しゲームを作る」

マイボールにできたのであればそこから攻撃を始めればよく、失ったとて相手陣地の深いところにボールを置いて守備をスタートしハイプレスの餌食にすればよいだけです。
GK→DF→MF→FWの過程を辿ることになり、切れ目(矢印)のたびに失うリスクを抱えるビルドアップなど必要ありません。

チームのベストプレイヤーがボールに触る回数が増えるメリットを得て、引っ掛けてショートカウンターを受けるリスクを低減した神戸の攻撃は活性化します。

大迫(10番)に入る矢印に注目してみましょう。

前半0~15分と後半0~15分の比較

京都が押していた前半0分~15分はU字型に周回させることができていて、大迫(10番)に入る矢印はわずか。

前半30~45分
後半30~45分

一方で京都が押されてしまった他の時間帯の大迫に入る&大迫から出る矢印の多さが露骨に増えています。

大迫はもちろん、右の佐々木大樹に長いボールを供給。特に初瀬からサイドチェンジ気味に佐々木に入るボールの処理に苦しんでいました。
当てて落としたところを大迫が拾うもよし。酒井高徳が拾って大迫に当てるもよし。そんな光景が思い出されるパスネットワーク図です。

巧みにボールを収めては広げてを繰り返す大迫により京都はDFラインを押し下げられ、間伸びとともにペースを失う一因となってしまいました。

②引きつけて剥がすロングパス

前半こそコンパクトに陣形を保てていましたが、間延びによりハイプレスがかわされはじめ、痺れを切らして単騎でGKへ突撃する場面が多くなってしまいました。

GKとセンターバックを中心に、自陣深いところでパスを回すことで相手を食いつかせ一気に剥がす擬似カウンター。
三苫擁するブライトンの得意技。身近に例えるなら去年レイソル戦でサンガが実行しグローバルでも注目された得点シーン。

サンガはGKが持てば食い付くため、ヴィッセルはリスクの高いパス回しをする必要はありませんでしたが。基本的な考え方は同じです。
ディフェンスラインで奪えそうで奪えないスピードと精度で繋ぐ。少しでも前に当てるのが難しいと感じれば前川に戻すだけです。

前川に戻してからもシンプル。
サンガが食いつかなければビルドアップをやり直し。食い付かれれば大迫・佐々木めがけて蹴り飛ばす。

失点も結局この形でした。
1失点目はGKからのロングボールを麻田が後逸したところから。
2失点目は奪えそうな雰囲気に誘われて初瀬で刈り取ろうとし、前にグッと重心がかかったタイミングで一発で全部裏返されてしまいました。

「前から追いかけるのであれば後ろも高い位置を取らないといけない」
セオリー中のセオリーです。
しかし、DFラインが高い位置を取れば裏を狙われるリスクも当然高まります。
ここでパトリッキに話を移しましょう。

強烈なスピード×テクニカルなドリブル。
に目を奪われがちですが、何より厄介だったのはポジショニングです。

頭から出ていた汰木は足元で受けたがりで、守備もそれなりに頑張るため低い位置に陣取りがちでした。低い位置を取る汰木のポジショニングは前へ厳しく当たる福田のプレッシャーと噛み合い、サンガが右サイドで主導権を握れたことと繋がります。

一方でパトリッキは「試合を決める」ことに特化。つまり、守備やビルドアップのために戻ったりなどしないのです。

前に張り続けて攻撃に専念し福田の裏を狙い続ける。
これが失点と同じくらい厄介で、前半押し込んだ右サイドで攻撃どころか奪うポイントすら作れなくなってしまいました。

左:汰木 右:パトリッキ

裏を狙われるのであれば後ろは引けばよいのでは。
と言いたいところですが、前から追うのを諦める必要があります。
アビスパ戦では追わないことでコンパクトな守備を実現しましたが、あれは2点リードの状況があってこそ採用できる戦術です。

点を取りに行きたい。しかし前からは追えない。
となったときに、サンガが切れる手札はありません。勝ちたいなら前から追うしかないのです。
不用意な失点が悔やまれます。

厳しい時間帯だった後半15〜30分。びろびろに間伸びさせられてしまいました

引っ掛けて得点できたことと、やけに頻繁に生まれるバックパスで「今日は前からいける日だ」と思わされてしまいましたが...。

振り返って考えると
後ろでのビルドアップは全て自陣に引き込むための釣りだったのでは。
繋いで崩す気など最初からなかったのでは。
サンガの前線を引っ張り出し間延びさせることで、FW3枚が個人で勝負するスペースを与える狙いがあったのでは。
と思わされてしまいました。
(初瀬のミスは違うと思いますが)

レイソルがマリノス相手に打った「CBがボールを持ってもほったらかしにする」作戦。相手に持たせる「つい繋ぎたくなる」仕掛けをデザインする発想が面白いなと。
(サンガ相手には強烈なハイプレスを準備してきていたり。井原さんの前線プレスの引き出しは多いなあと感心させられますね)

全くの再現やコピーは難しいにせよ、相手の得意を消して自分たちの土俵に持ち込む工夫を考えてほしいと感じています。
曹貴裁体制で3年目で考えるべき時期にも来ているはずです。

③徹底スカウティング

サンガのサッカーを効率よく壊したければ、言い換えると「1人だけターゲットを絞って潰すとしたら」誰がよいでしょうか。

空中戦で圧倒的な勝率を誇るパトリック?
ボールだけでなくチームを動かせる武田将平?
A代表歴のある川崎颯太?

どれも違います。アンカーのポジションで攻守において中心としてチームを支える金子大毅です。

明らかに神戸の選手は金子を狙っていました。正確な数は取れませんが被ファウル数はチーム1のはずです。

左から右に15分刻みで並べています。上が前半下が後半

受け手出し手の両方での金子に絡む矢印の多さ。

前と後ろに右と左。各選手の中間に位置し反対側にいる選手にボールを届け、リンクする役割を担っていることが分かると思います。

原、武田やパトリックも危険なプレイヤーですが、そこにボールを供給させなければよく、抑えるべき根元の部分は金子であるとバレてしまっていました。

チーム最多のパス源を抑えるのは当然と言えば当然

全体的にフェアプレーのゲームで、どちらかといえばサンガの選手の方が荒いプレーを続けていたのに、神戸の選手が唯一ラフにチャージする先が金子でした。

後ろからぶつかったりシャツを引っ張るのはもちろん。ファール後に謝るどころか挑発的な態度で自陣に戻っていくのはなぜかと疑問に思っていたのですが…。

メンタルに悪影響を与えるところまで含めて狙っていたのかもしれません。
熱くなりがちな金子の性格まで考慮されていたのであれば大したものです。
きちんとした分析担当がいるんだろうなあ(お賃金高そうだなあ)と感じました。

総括すると

良い食材が集まったのであれば、余計な手を加えずシンプルに調理した方がおいしい料理が出来上がります。
とびきりのイケメンや美人であれば、妙な企画などせず顔を大きく映して流行りの音楽に乗り踊っている方がエンゲージメントが取れます。
Jリーグでは規格外とも言える、欧州5大リーグ経験のある円熟期に入ったクオリティの高い選手たちを揃えることができたのであれば…

もうこの先の話は見えてますね。
妙な戦術や美しいサッカーに固執せず、個の能力を最大限に引き出すシンプルなサッカーに徹した方が結果が出るのです。

良い素材が揃ったのであれば加工はシンプルに。
世の理ともいえる勝ちパターンです。

とはいえ言うは易し行うは難し。
お金をかけてJ2では上位の予算を投下した結果、目と鼻の先までJ3に迫られた経験を持つ我々は、良い選手を揃えてかつ選手のポテンシャルを引き出すことの難しさを知っているはずです。

何より、間伸びして選手間の距離を作ってしまい個人勝負の場に持ち込まれ、個人能力の差をまざまざと見せつけられてしまうような戦い方をしたサンガのまずさが問題です。

ハイプレスを狙い続ければ対応される。
大迫・武藤・汰木(今日ならパトリッキ)を中心としたプレッシングで失うとショートカウンターで大ピンチになる。
パトリックであっても単純に放り込めば山川・本田なら対応できてしまう。

全部、5節のサンガスタジアムでやられたことと同じです。
にもかかわらず同じことを再現してしまいました。
プランAであるハイプレスが封じられたとき、プランBでどう戦うか。いつまで経っても解消されない問題です。

相手のサッカーの面白さどうのこうのより、自分たちの不足に目を向けるべきです。
「勝った相手チームにどう思われるか」と「最終的に何を成し遂げたか」。
大事なのはどちらかなんて言うまでもない話ですね。そもそもの話として。

個人評価

・先発

GK 94 ク ソンユン 5.5
豊川に当てて得点に繋がったシーン以外で、キックがなかなか味方に合わず。2失点のうち一つでも止めてくれていたら…。酷な要求でしょうか。

DF 3 麻田 将吾76' 4.5
慣れないサイドでビルドアップが上手くいかなかったり、大迫にやられてハイボール処理を誤るのは仕方ありません。しかし足に違和感を抱えていると思われる状況でプレーを続けてカバーが間に合わないのは許容できない姿勢です。見せてほしいのはそんな頑張りではない。

DF 6 三竿 雄斗76' 5.5
佐々木とのマッチアップに加え酒井高徳にも対応が必要で、厳しい展開になってしまいました。らしくないロストも。

DF 20 福田 心之助 5.5
全てが福田のせいではないにせよ、失点に強く関与してしまいました。
パトリッキが戻らないなら背後のスペースを突いて初瀬との2対1を作り、嫌でも戻らないといけない状況を作る選択肢も取れたことも反省要素の一つ。
Jでトップクラスの速さを持つ切り札と対峙して感じた衝撃を次に繋げてください。

DF 24 イヨハ 理 ヘンリー 6.0
大迫を相手にしても引かず、ビルドアップでも起点になり。2失点ながら決して悪いパフォーマンスではありませんでした。

MF 7 川﨑 颯太 5.0
技術面でのミスがとても目立ちました。効いてるなと思わされる場面も限定的。

MF 16 武田 将平71' 5.5
スタートは良い動きでしたが徐々に失速。FWが間に合わないと見るや相手のDFラインまで突撃してくれるのは助かる場面もありますが、乱発して体力を失っては本末転倒です。

MF 18 松田 天馬65' 6.0
序盤のハイプレスでゲームを作ったのは上で書いたとおりです。パスでも武田を使い武田に使われ、起点になっていました。

MF 19 金子 大毅 5.5
相手から狙われるのは穴として突かれているのでなく、サンガを壊すための核と考えられているからです。チームの中心は自分であることの自覚と責任を感じて更に向上を。被ファウルでイラついてメンタルを崩してはいけません。

FW 14 原 大智 6.0
前を向いて流石な場面を作る一方で、ハイボール競り合いではなかなか勝てず。ボールが入らずイライラしたのか不用意なファールも目立ちました。

FW 23 豊川 雄太65' 5.5
プレッシャーがハマらず初瀬にアシストを許し、決定機でも決められず。良いシュートでしたが...。

控えメンバー

DF 4 井上 黎生人65' 5.5
足の怪我が大事でなくて良かったです。
徐々に戻していってください。

MF 25 谷内田 哲平76' なし
良いところを見ているものの、味方と合わない場面が...。パフォーマンス自体は悪くないと感じます。

MF 44 佐藤 響76' なし
短い時間でしたが良い突破を見せました。三竿から再度レギュラーを奪い返せるか注目しています。

FW 13 宮吉 拓実71' 5.5
味方と息が合わないなと。コンディション自体は良さそうなので今後に期待です。

FW 9 パトリック65' 5.5
珍しく空中戦で苦戦しました。サンガスタジアムでも勝てなかったので、山川・本田のCBが苦手なのかもしれません。

以上です。
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