見出し画像

美容師国家試験に「まつ毛エクステ」が導入される見通し

「美容師の養成のあり方に関する検討会」において、美容師の国家試験内容を見直す議論が進められています。
これにより実技試験のオールウェーブは検討・整理となり、まつ毛エクステが採用される見通しに。

■美容師国家試験の実技内容を見直しへ

2021年、自民党有志議員らによる「美容サロンに関する議員勉強会」が国に提言を行ったことで美容師の国家試験科目を見直す議論が始まりました。
厚生労働省は美容業界の有識者や専門家を招き「美容師の養成のあり方に関する検討会」を開催。
2022年3月に開催された第3回では美容師国家試験の実技内容をより実践的なものにするため、課題の見直しを行う方向でまとまったとのこと。

■JABSでは緊急アンケートを実施

2022年1月に開催された第1回の検討会でまず議題に上がったのが実技試験の内容や学校教育の見直しでした。
現状のままでは、

◎美容師免許を取得しても即戦力にならない
◎即戦力にならない新人美容師はサロン経営の負担となる
◎美容師本人の給与面にも影響が出る

といった問題があるとのこと。
そのため、即戦力になりやすいようにまつ毛エクステンションの実技導入や、サロンワークに近い実務実習を求める声が上がったそう。
この要望には賛否両論で、

◎即戦力を育てることが教育ではない
◎すぐ役立つ技術は、すぐに役立たなくなる
◎試験強化の変更は年単位の負担がかかる大きなこと

などの慎重な声も多かったとのことです。
これを受けて動き出したのが一般社団法人日本美容サロン協議会(JABS)です。
2022年3月10日開催予定の第2回に合わせて緊急アンケートを実施すると発表しました。

・JABSとは

日本美容サロン協議会(JABS)とは、2017年設立の美容業界団体です。
ロビー活動に注力し、理事には美容室チェーンの経営者が名を連ねています。
自民党有志議員らによる「美容サロンに関する議員勉強会」にも参加しており、こうした地道な活動が今回の検討会開催に至ったといえます。
第1回での議論により、現場からの声が必要と判断したJABSは美容師を対象に緊急アンケートの実施を決定。
結果を第2回検討会で共有するとしました。
質問事項は次の通り。

◎現場で使っている技術
◎美容師国家試験の実技試験
◎まつ毛エクステンションの現状
◎美容学生による実務実習

回答期限は2023年2月28日。
美容師なら誰でも回答可能とし、JABSとのかかわりは問わないとのこと。

・第3回にて当面の方針を決定

検討会は2022年1月13日に第1回、3月10日に第2回が開催されました。
主な議題は美容師国家試験の実技試験と美容実習を現状に即したものにし、人材育成をより推進させるというもの。
3月30日に第3回が開催され、当面の方針が決定されました。
その内容は次の通り。

◎国家試験(実技試験)の改善
◎養成段階の知識技能の取得の推進
◎養成段階から就業後の人材育成の連携・接続

これにより、実技試験に「まつ毛エクステンション」が導入されることとなり、「オールウェーブ」に関しては2023年度までに検討・整理されることとなりました。

■そもそもオールウェーブとは?

廃止の方向で検討されることとなったオールウェーブとは、オールウェーブセッティングとも呼ばれるヘアセットの一つ。
パーマ技術がまだ普及していなかった1960年代に流行しました。

・手作業で髪を巻いていく

オールウェーブは髪全体にローションをなじませ、手作業で髪を巻いていくのが特徴のヘアセットです。
位置によって少しずつウェーブのつくり方を変えていくので髪全体に立体感が生まれ、まるでパーマをかけたような見た目になることから人気に。
しかしパーマ技術の浸透により徐々に姿を消し、今ではほとんど見ることがなくなった髪型です。
実技試験では決められた位置に決められたとおりに巻いていかなくてはならず、立体感の出し方や毛先の処理などが細かく採点されます。

・オールウェーブの習得には時間がかかる

オールウェーブは髪全体に立体的なウェーブをつくらなくてはならず、しかもそれをすべて手作業で行わなくてはなりません。
クシで髪を分け取ったら指先で一房ずつ巻いていきます。
実技試験に合格するには高いスキルが必要なため、オールウェーブの習得には時間がかかります。
美容学校ではオールウェーブの授業に年間10%以上の時間を充てているところも。
そこまでして習得した技術が実践で活かされることがほとんどないというのが現状です。

・美容師は下積み期間が長い職業

国家試験に受かり、美容師資格を取得してもすぐにスタイリストとして独り立ちできるわけではありません。
シャンプーやカラー剤の塗布、接客など多くのことを学ばなければならず、美容師は下積み期間が長い職業だといわれています。
しっかりと稼げる一人前の美容師になるには6~8年ほどかかるため、離職率も高いです。
JABSでは習得に時間がかかるわりに実践で活かされにくいオールウェーブよりも、実務に近いスキルを国家試験に取り入れてほしいとしています。

■オールウェーブは時代遅れだが・・・

活躍する場面の少ないオールウェーブについて検討・整理するという方針が決まりました。
流行の変化に合わせて試験内容を見直すのは必要なことです。
しかし、オールウェーブほど実技試験にピッタリなものはないという声も。

・美容師に必要な基本がすべて詰まっている

オールウェーブは髪全体にローションをなじませて梳かし、適量を分け取り、位置に応じて適切に巻いていきます。
人の頭の形や全体から見たバランスを理解していなければきれいに仕上がりません。
オールウェーブには美容師として身につけるべき基本の技術がすべて詰まっており、習得することでスキルの底上げが叶うでしょう。
ヘアセットとして活躍する場はほとんどなくても、身に付いた技術は無駄にはならないという意見もあります。

・練習がしやすい

実技試験に受かるには、何度も繰り返し練習をしなければなりません。
練習用のウィッグは1つ4,000~5,000円ほどします。
仮にカットやカラーといった実技試験が増えた場合、ウィッグ代の捻出に苦慮する学生が続出してしまうでしょう。
しかしオールウェーブならウィッグは1つあれば十分です。
何度も繰り返し練習できるので公平性の高い試験となるでしょう。

「時代遅れのオールウェーブは廃止すべき」という声が多いなかで、すぐに廃止とはせずに「検討・整理」にとどめた背景にはこのような事情も鑑みたものと推測できます。

■まつ毛エクステを実技試験に導入することに問題はない?

オールウェーブに代わって実技試験に導入される可能性が高いのが「まつ毛エクステンション」です。
検討会によりまとめられた方針案では、まつ毛エクステの実技試験導入のために必要な取り組みの推進を掲げています。
仮にまつ毛エクステが実技試験に取り入れられた場合、知識や技能に偏りが出ないよう、日本理容美容教育センターが傘下社員校に徹底するとなりました。
現在、美容学校によってまつ毛エクステの扱いはバラバラで、必修カリキュラムとしている学校は半数以下といわれています。
もしも実技試験に導入されるのであれば知識や技能の平準化が急務だといえるでしょう。
 

日本では美容師として働くには国家試験に受からなくてはなりません。
無事に資格を取得できてもすぐに活躍することはできず、長い下積み期間が必要です。
美容業界の離職率が高いのはこうした問題があるためだと指摘されており、美容師を目指す人が活躍しやすい環境づくりが求められています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?