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スピンオフ バンメンタンメン会 横浜野毛「三陽」「満福」「大来」

「おめーに食わせるタンメンは、さんざん飲み食いしまくったあとだ」
の巻


バンドの打ち合わせを、たまにはドラムス担当マヌーの地元、横浜でやろうとなり、桜木町に16時集合である。
♪桜木町は遠かった〜、来たときよりも遠かった〜
いや、まだ行きだけど、全然着かないので、暇つぶしに期待もせずに電車内で検索。
「桜木町 タンメン」
おっ、出た。テレビ番組で紹介されたとやたら書き込まれているのが、なんかつまらんが、看板にタンメンと書いてあるのが気に入った。
ようやく、到着。揃って半パン姿の還暦過ぎの3人。ギターのマツアミに至っては、猛暑日の太陽に輝きまくり、見ていると目が痛くなるレモンイエローのパンツ。まずは挨拶がわりに、五十歩百歩の互いの服装をけなし合う。
「じゃ、行くか」
俺のシマだ、任せろ。と言わんばかりに歩き出すマヌーを止める。
「行きたい店があるんだけど」
「なんだよ、もしかしてタンメンか」
当たり。
「せっかく来た以上は、手ぶらじゃ帰らないってことですか」
アツマミの指摘にも、反論なし。
「いいけど、だったらタンメン会としてちゃんと書いてくれよ」
「あー、面倒だな。タンメン会だとあるから、バンメン会ね」
「なんだ、それ」
「バンドメンバー、略してバンメン」
「なるほど、ハッハハー」
早くもマツアミのバカ笑いが飛び出す。
このあとの打ち合わせの思惑もあり、前からタンメン会に参加したがっていたマヌーに従ってやることにして、長い文を書いている次第であります。
「なんて、店だ?」
「大来。大きいに来るでダイライ」
野毛がシマのマヌーだが、知らないらしい。スマホで位置を確認。
「わかった。ダイキはあっちだ」
「ダイライだよ」
大通りを少してくてく。なんと、「準備中」の札が。
「やってねーじゃん、ダイキ」
「通し営業になってたんだけどな。ダイライだけど」
店内にいたオネーサンに、マヌーが声をかけ18時からとわかった。
「じゃ、それまで、連れてこうと思ってた店に行くか。そこも中華だけど」

派手なつもりのジイサンだが、この店の前では地味。


やってきたのは「三陽」。マツアミのパンツに負けない黄色の看板に「毛沢東もびっくりの餃子」の文字が写真と共に踊る。
「毛沢東、みんな知らないんじゃない」
と、マツアミが冷静なツッコミ。
「どう見ても中国のひとがやってる店だろ。でもマスターは滋賀出身なんだよ」
マヌーの説明においおいと思うが、看板をよく見ると、「愛知県三河風」とある。
「あ、愛知県か。隣じゃん、似たようなもんだ」
おいおいおい。
とにかく入店して、2階へ。

とりあえずビール、ではない者も1名。
左より、マツアミ、ぼく、マヌー。
毛沢東もびっくり。習近平はいかに。


「カンパーイ」
文化大革命級にパンチの効いたニンニクたっぷり皮厚めのギョーザをぱくつきつつ、ぼくが本日の本題を持ち出す。
「9月4日にライブをやるかどうかだけど」
自分のバンドのスケジュールを組んでいるマツアミは、対バンにもうひとつの自分参加のバンドである、我がネオシュワチャーズをブッキングしたがっている。マヌーは渋っている。表向きは練習時間が足りないと言っているが、集客のために利用されてるようなのが面白くないらしい。定期的にライブをすることが大切だと考えるぼくは、ライブをやるのは賛成だが、マヌーの気持ちもわからないではない。やるなら、みんな前向きでやりたい。
てな高校生レベルのことを5分ほど話したら、大人数の客が近くの席に案内されてきて、いきなり騒がしくなった。
「なんだよ、あいつらサラリーマンのくせに、こんな時間から飲みやがって。ああ、今日は土曜日か。ちぇっ」
マヌーがぷりぷりして、顔をしかめる。向こうも、なんだよ年金ジジイどもが、ちぇっと思っているかもしれん。マヌー以外、まだ貰ってないけど。
「席、変わっていい? あと、お代わりしたホッピーの中、もうちょっと量増やしてよ」
ハマっ子を自称するマヌーだが、態度は大阪人としか思えない。
「生まれは芦屋だから。なんて言うと、みんな引いちゃうだろ」
引くよ、ちゃんとした芦屋のひとたちが。

タンメンではありません。
これもタンメンではありません。
社長、違和感なし!


そんなわけで、話はうやむやに。結構飲んで、肉ねぎ炒めと焼きそばまで食べて、愛知県出身の店主と記念撮影して、店を出た。
まだ18時には間がある。
「カラオケでハモの練習でもするか?」
少しだが建設的なぼくの意見は、却下。
「もう酔いがまわってるから、無理でしょう」
「かわりに、レコードバーに行こう。リクエストできないけど、客の話を聞いてママが選曲する店があるんだよ」
まあ、今日は地回りのマヌーに従おう。なので、二軒目は「バー カモメ」へ。

ママも、違和感なし?


「一昨日、休んでたろ。来たんだよ」
と常連アピールから入るマヌー。さらに、
「黙ってたけど、バンドやってるんだ。このふたりは、ギターとボーカル」
だって。なんだか、バンマス気取り。だったらと、ぼくは先ほどのつづきを。
「で、次のライブをどうするかだけど」
5分間、それらしい話になる。
そこでママがかけたのが、サザンだった。ついぼくの口が滑ってしまった。
「マヌーが嫌いなサザンだよ」
「うーん、嫌いだよ」
ママはマヌーのサザン嫌いを把握していなかったようだ。常連なのに。ぷぷっ。
次にぼくの好きな庄野真代がかかったことで、話は完全脱線。マツアミが庄野真代はシティポップなのかどうかと言い出し、「飛んでイスタンブール」は名曲だということで、ぼくと意気投合。どうでもいい音楽談義に花が咲きまくり、マヌーにたしなめられる。
「うるさいよ。あちらのお客さんに悪いだろ」
自分が常連の店では、おとなしくしていて欲しいらしい。まあ、そうだわな。さっきの店では、ほかの客をうるさがってたわけだし。
ぼくは素直に、カップルのお客さんに詫びた。
「すみません。マヌーと違って、ぼくたち声が前に出てしまうんです」
マツアミが補足。
「ふたりとも、ボーカルなもんで。ハッハハー」
ちょっと、イヤミ。うふふ。
18時になったので、二軒目をあとにする。

写真提供、マヌー。


「じゃ、ダイキに行くか」
「ダイライだけどね」
「でもその前に、おれのオススメのタンメンがあるんだった」
「そこでもいいよ。タンメンさえあれば」
「うまいんだけど、移転してキレイな店になっちゃったんだけど、いい?」
「うまければ、いいよ」
「おれ的にはね」
ちょっと弱気になりつつも、連れてきたくてしょうがなさそうなマヌーである。

強引にマヌーのオススメ店へ。


だから来ました。その名も「満福」。
「おれはギョーザだけでいい」
と、胃袋も弱気になってきたマヌーに対して、マツアミは若い。まだまだ年金が貰えないだけある。あるいは長年の飲酒生活で、脳みそがイカれかけている。
「飲むと満腹中枢が破壊されるので、ぼくはカレー焼きそばを食べます」
ほくはもちろん、タンメン。
ビールを飲みつつ、ぼくは話を蒸し返す。
「で、ライブの件だけど」
3分ばかり話したら、こちらも店の名前も覚えられないほど脳みそがイカれているマヌーが、途方もないことを言い出した。
「やりようによっちゃ、「ゴールデン街シルバーガイ」は、ヒットする可能性があるんだよな」
「は?」
「ゴールデン街シルバーガイ」とは、我がネオシュワチャーズ初めてのオリジナル曲である。この曲含めて、現在8曲しかレパートリーのない我々だ。ヒット?
マツアミも乗っている。
「CDつくりましょう。「ハワイとトケイとラブコメと」も出来たし。あと一曲つくって」
「ハワイとトケイとラブコメと」は、二曲目のオリジナルだが、つい二日前にバージョン1がLINEで送られてきたばかりだ。
マヌーも妄想が高まる。
「三曲目はおれが作詞する。「野毛ブルース」だな。決まった」
うーん、安直だ。一曲目、ゴールデン街だし。

出来上がりつつある。
こちらも出来上がりつつある。
ようやく、タンメン。
またも、ギョーザ。
カレー焼きそば、かた麺。迫力あり。


そこへタンメンが登場。
横浜のタンメンらしく、キャベツではなく白菜が使われている。ただし、モヤシが多い。そして、細麺。スープはわりとしっかりしている。
と、思う。なにしろ結構飲んでいるので、マヌーとマツアミほど脳みそはやられていないが、舌はお疲れ気味だ。でも、染みる。
腹一杯で、三軒目を出た。
「じゃ、締めにダイキに行くか」
「なぬ? マヌー、食べられるのか?」
「おれは飲むよ。イタちゃんがタンメン食べるんだよ」
「もう、食べたよ」
「でも、行きたいんだろ、ダイライに」
「おっ、合ってるよ。でも腹一杯だって」
マツアミがひと言。
「ぼくは満腹中枢が破壊されてるんで、いけますよ。ハッハハー」
「行こう。今日逃したら来ないんだから」
「来る。1年後とかに」
とか言ってる間に、はい、「大来」に到着。

やっと、来れた。
いや、来てしまった。


「ホッピーとイタちゃんにタンメン」
慣れた感じで注文したマヌーだったが、店主から返ってきた返事は、
「うちはホッピーないよ。居酒屋扱いされたくないから」
ごもっとも。この店、マヌーが知らなかったはずだわ。ウーロンハイはあったので、マヌーはそれを注文。ほくはビール。あと、ギョーザ。さらにマツアミが追加。
「肉野菜炒め」
「タンメンも少し食べてくれ」
「いいですよ。ハッハハー」
タンメンが来る前に、最低限の打ち合わせは済まさないと。
「まとめるけど、9月4日はライブやるんでいいのかな」
マヌーが渋々うなずいた。
「もう、やるんだろ。わかった、やる」
「ハッハハー」
本日の目的達成。

またまたギョーザ。
タンメンではありません。
これが食べたかったやつ。


そしてもうひとつの目的、タンメンも出てきた。
こちらも白菜で、豚バラ肉が多め。「満福」との一番の違いは、麺が中太麺なこと。こちらのほうがスープとよく絡むが、腹にも溜まる感じがする。マツアミに手伝ってもらい、なんとか完食。たぶん、美味しゅうございました。
四軒目にして、目的のタンメンを腹に押し込んだぼくは、時刻は21時前なのに、もはやくらくらのおねむである。
本牧の「ゴールデンカップ」に行くというふたりと別れ、おうちが遠いぼくは電車に乗った。こみ上げるニンニク臭いげっぶをこらえ、睡魔とも闘いつつの帰路はやはり、
♪来たときよりも遠かった〜
のであった。

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