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野村康生をめぐる対談2/SandSクロストーク「ユナイテッドという在り方、そして純粋三次元思考とは」

本企画は、SandSが参画しているアーティスト野村康生氏のサポートプロジェクトであり、ユナイテッドのメンバーであるSandSの第二弾企画として、収録した対談を記事にしたものです。

対談概要

参加者:浅見和彦、高井勇輝、林直樹、佐々木星児(SandS)

新時代のアーティスト像「ユナイテッド」

浅見:今回僕らは「ユナイテッド」っていう新しいアーティスト像の仮説に行き着いたわけだけど、改めてその経緯を振り返ってみようか。

高井:アートに限らないけど、段々「個人」から「チーム」の時代になってきているよね、という話がきっかけだったね。

浅見:VUCA(先行きが不透明で将来の予測が難しい)時代で、様々な課題が1人の専門家や1人のスキルでは段々解けなくなってきて、多様なバックグラウンドを持つ人たちが協力して立ち向かう必要性が高まってきたっていう。

林:課題自体も複雑化してきているよね。モノを売ることひとつをとっても、環境への影響とか、格差につながらないかとか、文化の搾取にならないかとか、絡み合う課題をケアしなきゃいけない。そういう課題を解くためには、偏った狭い視点だけではなく、多様な人たちと複合的に物事を考える必要があるから。

佐々木:そう。社会運動は社会と密接に紐付くから、“Dimensionism”っていう概念をムーブメントにしていくためには野村さん1人だけではなく、チームで動かしていくことが重要なんじゃないか、そしてその中でも、アーティスト+アシスタントみたいにヒエラルキーのあるファクトリー型でもなく、アーティスト同士がチームアップするコレクティブ型でもなく、アートの境界を越えて研究者や他分野のクリエイターともオープンに共創する在り方がこれから面白いんじゃないかと話していて、それを「ユナイテッド」と名付けた。

林:ちなみに、アートの世界以外で「ユナイテッド」的なものって何かあるかな?

浅見:企業の垣根を越えたり部署横断して共創する「オープンイノベーション」とか「オープンコラボレーション」って呼ばれるものは比較的近いんじゃないかな。あとは、行政や市民と多様なクリエイターで一緒につくっていくコミュニティ活動も近いかもしれない。

林:なるほどね。個人的にはコミュニティの方がよりオープンエンドで来る者拒まずというか、ユナイテッドの方はもう少し強い個人の集まり、みたいなイメージがあるな。

高井:コミュニティはコミュニティの成員であること=コミュニケーション自体に比重が置かれるけど、ユナイテッドの方が目的志向というかプロジェクトっぽい側面も含むんだろうね。

佐々木:「ユナイテッド」っていうワードはサッカーチームからインスパイアされて付けたけど、その中でも中心となる人物や思想を受けて何かしらアウトプットしたりアクションを起こしたら、サポーターの中でも中心的に運営にコミットするファン組織「ソシオ」みたいな位置付けになるのかも。

浅見:サポーターのことをよく「12番目の選手」みたいな言い方をするけど、サッカーファン的には自分たちのことをコミュニティだと思っているの?

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高井:特に自分やサポーター仲間でコミュニティを作っているとは思っていないと思う。外から見たらコミュニティに見えるんだろうけど。
ただ、「ファン」と「サポーター」はちょっと区別しているかも。個人的な感覚だけど、「ファン」はもちろんチームを好きで応援していることに変わりはないけど、どちらかというとライトに楽しみを享受している消費者に近い立ち位置のイメージ。でも、選手を応援して後押ししたり、グッズを買って収益に貢献したり、「12番目の選手」というチームの一員の自覚を持って、何らかの形でサポートする役割を担っているという自負があるのが「サポーター」なんだと思う。

林:そのままでユナイテッドの定義に通じそうな話だね。

高井:コミュニケーションに比重が置かれるのが「コミュニティ」、ある目的達成のために集うのが「プロジェクトチーム」だとしたら、野村さんのつくろうとしている・描こうとしている世界や可能性への共感で集うのが「ユナイテッド」なのかもね。コミュニケーションベースでも、目的ベースでもなく、共感。

林:ユナイテッドは共感でつながっている「状態」ってことか。そしてその中でコミュニケーションが発生すればコミュニティにも見えるし、何かをつくろうとアクションを起こせばプロジェクトにも見えると。

高井:そうだね。そしてその中でも、ユナイテッドの中心点である野村さんと一次の隔たりでつながって、相互に影響を与え合いながら一緒に活動を広げていける距離にいるのが「ソシオ」なのかもね。

佐々木:じゃあソシオも「状態」なんだね。試験とか資格ではなく、共感でつながれば誰でもユナイテッドになれるし、逆に忙しくなれば一時的にソシオじゃなくなることもある、有機的でゆらぎのある共同体。

林:なるほど、ユナイテッドの定義はだいぶクリアになったな。

野村康生とSandSの「共感」

佐々木:アーティストである野村さんの活動は、新しい概念や新しいものの見方を考えていくっていう意味では、そもそも僕らSandSの活動と結構近いんだよね。

高井:観光者的な新鮮な視点で、スペキュラティブにクリティカルに物事を捉え直すってこと自体がアート的なアティテュードだよね。

林:それでいうと、野村さんのDimensionismで僕らが面白さや共感を感じたところはどこなんだろう?

高井:Dimensionismは系譜としてはピカソとかデュシャンに連なるんだと思うけど、そもそも絵画っていう表現自体が、3次元のものを平面=2次元に落とし込む「次元操作の芸術」なんだよね。次元を下げて再構築することをファイブレーションっていうらしいんだけど、そうすることで次元は扱いやすく理解しやすくなると。
野村さんが着目したのはその先で、4次元とか5次元とかのより高次元も、ファイブレーションして提示できれば人類は知覚できるようになるんじゃないかというところ。その先に広がるであろう人類の新たな可能性にはワクワクするよね。

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マルセル・デュシャン『階段を降りる裸体No.2』

浅見:それでいうと、VRとかARが当たり前になって「空間を身にまとう時代」になると、物事の見方が変わると思っているんだよね。
例えば、ウォークマンが登場して外でも音楽を持ち運んで聴けるようになって、同じ場所でも聴いている曲によって感情が変わるじゃない?海辺でレゲエを聴いたら「ビールでも飲みたいな」って思ったり、逆にしっとりした曲を聴いたら昔の恋愛を思い出してセンチメンタルになったり。それって音楽を持ち運べるようになったことで、それまで持ち得なかった人類の感覚や感性が覚醒したってことだと思って。XRも視覚情報をハックすると世界の捉え方が変わって、街とかコミュニケーションの在り方も変わって、新しい人類の能力が覚醒することにつながるんじゃないかと。
野村さんも高次元の表現や捉え方を提示することで「すごいだろ!」って言いたいわけではなく、それによって受け手の何かが変わることを目指しているんだろうね。

そして生まれた概念「純粋三次元思考」

佐々木:そして、ユナイテッドの一員である僕らSandSが、Dimensionismと野村さんから着想を得たのが「純粋三次元思考」だという。

純粋三次元思考
我々の暮らす世界には、重力がある。つまり、我々の暮らすこの三次元空間には、実は上下方向のバイアスがかかっている。
純粋三次元思考とは、そんな究極的に当たり前の先入観や固定観念すら取り払い、超観光的かつ超思索的に物事を捉える思考法である。

高井:そうそう。高次元知覚による人類の可能性を追求するのが野村さんのDimensionismだとすると、SandSの純粋三次元思考はその派生なんだよね。
野村さんの作品にハーフミラーの鏡合わせで高次元知覚を疑似体験できる『Pion』という装置があるんだけど、それを突き詰めていく中で、「地球上には重力があり常に縦方向のバイアスがかかってしまっているから、高次元知覚の疑似体験をより本当のものに近づけていくためには、純粋な3次元空間=宇宙で体験する必要があるのではないか」ということに気付いたと。
そして、さらに言えば「純粋な3次元空間に身を置けば、我々の思考や価値観も重力バイアスから解き放たれて新たな知覚が開くのではないか」っていう派生の仕方だね。

佐々木:「ピラミッドの頂点」とか「上座・下座」とか、確かに上下の価値観ってめちゃめちゃ日常に染み付いてるよね。それが重力バイアスなのか。

浅見:重力バイアスからの開放って、例えば人間が宇宙に住むようになったときに「これまで地球で暮らしていたときには考えもしなかったけど、食事のときに椅子もテーブルも全然当たり前のものじゃないし、食べ物の形やサイズももっと色んな可能性があるんじゃないか」みたいな話で、そういうクリティカルな考え方は実際に宇宙に行かなくてもできるし大事だよね、っていうのが「純粋三次元思考」ってことかな。

林:確かに、実際に宇宙まで行かなくても、海外に行くだけで座敷の上座・下座みたいな常識も取り払われるしね。

高井:純粋3次元空間=宇宙とか重力バイアスっていうのも極論のメタファーなんだよね。どんな場所でも、究極的に当たり前の先入観や固定観念すら取り払って、新鮮な目で物事を捉えるっていうのがSandS(Speculative and Sightseeing)の「観光的(Sightseeing)」ってことなんだと思う。

佐々木:極論、新しいビジネスを生み出す起業家とか、それこそアーティストとかは、みんな純粋三次元思考的な活動をしてるんだよね。

浅見:誰かの常識や、現状の何かを覆したいと思ってやっているという意味では、みんな同じ「ユナイテッド」だね。

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