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組織カルチャーの思考実験

2000年代にリーガ・エスパニョーラをケーブルテレビで見ていた記憶がある。当時はまだ今ほど世界のサッカーが普通に見れる感じではないし、情報が伝わって来てないから、日本での盛り上がりもそんなになかったと思う。すごい夜中にやっていて、学生だった私は友人の家で一緒に見たり、ビデオに録画して週末に観ていたりした気がする。
その時に強く印象に残っていて、ファンだったチームがベティスだ。その時のベティスの攻撃のほとんどはサイドアタックで、右サイドのホアキンと左サイドのデニウソンがゴリゴリ一人でドリブルで切り込んで、得点を演出していた。そのプレーにとても興奮したのを覚えている。
そしてもう一つ印象に残ってるのがバルセロナだ。一緒に見ていた友人は当時も今もバルセロナに夢中だ。リバウドからロナウジーニョの時代へ、そしてメッシへバトンが渡る。その裏では、シャビやイニエスタなどが猛威を奮っていたかな。

FCバルセロナのチーム作り

少し調べてみると、“グアルディオラが監督をやっていた時代のバルセロナが最強説”がある。グアルディオラは組織の文化形成を重視した監督だったようで、自身が出身であるラ・マシア(バルセロナ育成組織)からの人材育成に注力していた。つまり、長期的に染み渡る文化を形成するために、土壌と種から育てることをしていた。チームを強くするためには、この文化形成が必要なことを知っていたのだ。
ラ・マシアでは、頭と心を鍛えることを重きを置いていた。ユーザーリサーチでよく例えられる、氷山の一角理論でいう、水面下にある思考と感情部分を鍛えるのだ。ここが鍛えられると、それらが日々の言動に影響してくる。組織文化は、組織に共有されている言動や価値観の集まりであることを前提にすると、至極真っ当なアプローチである。

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組織のメンバーが日常的にこの言動や価値観を意識しながら実践することで、他のメンバーにも影響を与え、影響を与えられたメンバーが同じように振る舞う。そしてそのメンバーが...という形で伝言ゲーム的に文化が作り上げられるのだ。想像だけで話すと、家系に代々継承される習慣や村のしきたり、刑務所やギャング内での暗黙のルールなども文化と言えるのではないだろうか。これらを共有している人間の結束は強固で、ちょっとやそっとでは壊れない。そして、これらはよそ者や第三者的に見ると、見えないからややこしい。転職先の会社に入って困る部分も、ここに起因することが多々あるのではないか。
見えないから他が真似しようがない。だから組織が強くなる文化を一度作ると非常に優位にコトが進められる。
そして、文化が形成されていれば随所での判断に迷わない、組織のメンバーが迷わなければ、スピーディーな推進ができ、例えそれが間違った判断だったとしても軌道修正がすぐにできる。アジリティとレジリエンスが両立された組織ができる。不確実で変化の早い時代にマッチした、強い組織ができる。

文化が組織作りに重要なことは分かった。では、この文化という視点で、組織作りのさらなる可能性を、無責任に思索してみようではないか。



コピーできる文化

もしも組織の文化がそっくりそのままコピーできる世界がきたらどうなるだろうか。

イアンはSaaS型サービスを提供している企業への初勤務を明日に控えていた。勤務といっても、この時代はベーシックインカムが社会に行き渡っているため、衣食住のために働く必要はなく、人々は自分が好きな事、興味のあるものを仕事にしていた。イアンは父親のコンピューターを幼少期からいじるのが好きだったため、コンピューターサイエンスを学生時代は学び、ソフトウェアエンジニアとして仕事をすることを選んだ。ちなみに、今は16歳で基礎教育は終了し、そのタイミングで応用教育を受けるか、自分探しの旅に世界に出るか、企業に勤めるか、そもそも仕事をしないか、を選択できる自由な社会になっている。
企業は利益追求ではなく、純粋に楽しい世の中にすることを目指しているため、採用基準は学歴やスキルや経験ではなく、個人と企業のカルチャーギャップがないか、だけである。
生まれた瞬間から脳や手足にチップが埋め込まれているため、これまで歩んできた人生のログは全てデータ化され、どのような価値観の中で行動をする傾向があるかなど、300項目の分析結果をもとに、志望する企業との適合性が自動的にわかる仕組みになっている。それが、企業文化適正度合検査である。
また、文化適正があり入社したが、働く中でカルチャーギャップがあると判断されれば、たとえ優秀な人材であってもその人材は長期的には文化を乱す要因となるため、一刻も早く退社してもらえるよう特別退職金制度が設けられている。

イアンは入社後1週間の研修の中で、企業の文化データを脳に埋め込まれたチップを通してインストールした。これで配属後に超文化フィットした状態で同僚との業務やコミュニケーションを行える。
企業側は、文化データ売買プラットフォームサービス“BUNKA”から、好きな文化を購入することができるため、大企業でもスタートアップでも関係なく文化形成が容易になった。最もクリエイティブな仕事はまだ世にない良い文化データを作り出すことである。

良い文化を買うことで、良い人材が集まり、良い社会になる。こんな良いことはない。

しかしそれは全て表向きのお話。全ては国民をマインドコントロールするために政府と企業が結託した陰謀だったのだ。



もしかしたら、こんな世界が来るかもしれない。

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