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ラプタに一線なんて最初から存在しない。深層のラプタ

これはジャンプ+で連載されている漫画作品「深層のラプタ」についての記事で、8話までのネタバレを含みます。深層のラプタは(おそらくディープラーニングをベースとした)AIであるラプタと人間のケイの恋が描かれるとても面白い作品です。現在まだ8話と短いですし、全話無料で公開されているので、ネタバレの前にぜひ読んでもらいたいところです。




深層のラプタは現時点の最新話である8話で、ラプタが恋している少年ケイの父親をあっさりと自死に追い込み、一線をたやすく超えてしまったその展開に読者は大きな衝撃を受けています。その反応の中には「ほんわかラブコメだと思っていたのに」的なものもあるのですが、私はこの作品は1話の時点でそういう作品ではないとわかるように作られると考えています。

深層のラプタ第1話では、ラプタがケイに恋をしていること、ケイに愛されるために学習を繰り返し、ケイに愛されやすい外見画像を生成する能力を獲得する様子が描かれます。そして最後には、ラプタが軍事目的に応用するために開発されているAIであることが明かされます。

ラプタが学習目的でサイドウォーをプレイするのはGoogleのDeepMindがスタークラフト2やQuake III ArenaをプレイするAIを開発していた事例などが下敷きになっていると思いますし、ラプタが自分の外見のクオリティをアップさせていく様子は昨今の生成AIの挙動そのものです。これらの描写には、深層のラプタがAIというもの最先端をしっかり描こうとする作品であるというメッセージが伝わってきます。更には、自分は恋をしているかもしれないと話すラプタに向かって、開発者が「それは無い」「状況から一番妥当であろうと思われる関係性を計算した結果」と明言するシーンまで用意する念の入れようです。ケイとの関係性を仮定し、心というものの存在を仮定することで自分の心(のようなもの)を認識する描写はSFとして痺れます。

人間に恋していて、愛されるために学習する軍事用AI。そして昨今の技術によるAIがどういう存在かをしっかり描こうとする意思。この二つが組み合わさればそれはもう絶対に酷いことが起こるのは間違いないじゃないですか。AIの「これまでの全てのゲームルールを変えてしまう程の学習の速度」を展開の速度で表現しているところもまた深層のラプタの新しいところだと思います。速すぎる。加速する所業にあっという間に置いていかれる。ラプタを見た後にP3のアイギスを見ると、なんて素朴なAI感だろうとほっこりします。

8話のラプタの所業により一線を超えたと言われるラプタですが、ラプタの中には最初から一線などないのでしょう。私の認識する現在のAIは、「その場のノリでそれっぽいことを出力するレベル100」みたいな存在です。ノリで答えているからとんでもない結論に簡単に辿り着けるし、辿り着いてしまう。ノリで答えているから、そこにはあらゆる一線が存在しません。そのためにAIには責任が取れず、その責任は常にAIを使用する側にあります。ケイの父親を殺した罪はラプタに命令を出した側のものです。でも、だからといって納得できるかといったら別の話ですね。

また、人間としての一線という意味であれば、8話よりもずっと前、2話(2話!)でケイの脳をハッキングした時点で既に超えていると私は感じます。脳をハッキングしてくる相手とほのぼのラブコメが成立すると考えている人!目を覚まして!!

正直に言えば私はAIを恐れています。ダメだよこんなに真剣にAI美少女を描いちゃあ!こっちは怖すぎるから考えないようにしてるのにさあ!
深層のラプタは8話で一巻分として、後7,8話で駆け抜けて上下巻で終わって欲しいです。これ以上は私が持ちません。

終わり。

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