インド哲学

ヴェーダ(知識)


聖典の分類

シュルティ(天啓)…古代のリシ(聖人)により神から受けた啓示。サンヒター(本集)の言語は古いサンスクリット語で、ヴェーダ語と呼ばれる。アヴェスター語と近い。

ムスリティ(聖伝)…叙事詩、法典など。


【聖典】

サンヒター(本集)…認識の意。聖典の中心。マントラ(真言、祝詞、呪文)により構成される。

・『リグ・ヴェーダ』…前12C頃。全10巻、1028編。リグ(讃歌)。ホートリ祭官。

・『サーマ・ヴェーダ』…サーマ(詠歌)。リグ・ヴェーダの抜粋。インド古典音楽の源流。ウドガートリ祭官。

・『ヤジュル・ヴェーダ』…前8C頃。祭詞(ヤジュス)。アドヴァリユ祭官。

   ・黒ヤジュル・ヴェーダ

   ・白ヤジュル・ヴェーダ

・『アタルヴァ・ヴェーダ』…アタルヴァン族(非アーリア系)由来のヴェーダ。後代になて聖典に認められた。

ブラーフマナ(祭儀書、梵書)…前900~前500年成立。ブラフマンに属するものの意。祭式の手順や神学的意味を解説。

アーラニヤカ(森林書)…秘儀。ブラーフマナとウパニシャッドの中間。人里離れた森林で伝授された。

ウパニシャッド(奥義書)…前800~前500年成立。ヴェーダの哲学。梵我一如の思想。

 ・古ウパニシャッド(ヴェーダーンタ:ヴェーダの最後の意)

   ・初期(前800~前500)…古散文

     ブリハッド・アーラニヤカ(白ヤジュル)

     チャーンドーギヤ(サーマヴェーダ)

     タイッティリーヤ(黒ヤジュル)

     アイタレーヤ(リグヴェーダ)

     カウシータキ(リグヴェーダ)

     ケーナ(サーマヴェーダ)

   ・中期(前500~前200)…韻文

     カタ(黒ヤジュル)

     イーシャー(白ヤジュル)

     シュヴェーターシュヴァタラ(黒ヤジュル)

     ムンダカ(アタルヴァヴェーダ)

   ・後期(前200)…新散文

     プラシュナ(アタルヴァヴェーダ)

     マイトリー(黒ヤジュル)

     マーンドゥーキヤ(アタルヴァヴェーダ)



【二大叙事詩】

・『マハーバーラタ

  ↳一部『バガヴァッド・ギーター』(神の歌の意)…クリシュナ神(ブラフマンの化身)が、戦意喪失したアルジュナ王子を説得する物語。身内を殺したくないと戦意喪失するアルジュナに対して、魂は不滅だから身体を殺しても滅ぼすことにはならない、自我は幻であり神しか実在しないのだから、社会秩序であるカースト制度のクシャトリヤ階級としての義務(ダルマ)を果たし、神に信心(バクティ)することこそが重要であると説く。

・『ラーマーヤナ


【法典】

ダルマ・スートラ(法典)…前6~前2C

ダルマ・シャーストラ(法典)…前2~5/6C

・『マヌ法典』(前2~後2C)

・『ヤージュニャヴァルキヤ法典』(3~4C)


プラーナ文献】(古き巻物の意)(4~14C)

大プラーナ(18書)

副プラーナ



六派哲学】(シャッド・ダルシャナ(哲学))

※正統派(アースティカ:実在論派)


ヴェーダーンタ学派…最後のヴェーダの意。前1世紀、開祖ヴァーダラーヤナの『ブラフマ・スートラ』が根本経典。『ブラフマ・スートラ』『ウパニシャッド』『バガヴァッド・ギーター』を三大経典としている。梵我一如(ブラフマン(梵我:大宇宙:マクロコスモス)とアートマン(自我:小宇宙:ミクロコスモス)の合一)を説く神秘主義思想。シャンカラ(700~750年頃が著名な学者で、シャンカラはアドヴァイタ(不二一元論…ブラフマンのみが実在する)を説いた。


サーンキヤ学派…数え上げるの意(数論派とも)。プルシャ(精神原理:神我)とプラクリティ(物質原理:原質)の二元論。開祖カピラ(前300年?)。

最高ブラフマン(至高のプルシャ、クリシュナ、不変)

→プルシャ(神我、精神原理、高次のプラクリティ、不滅)の観照により、

プラクリティ(本性、自性、物質原理、低次のプラクリティ、可滅、カタ・ヨーガではアヴヤクタ(非顕現))のトリ・グナ(三要素、サットヴァ(純質:調和)、ラジャス(激質:動性)、タマス(暗質:惰性))のうちラジャスの割合が増え、トリ・グナの調和が崩れてジーヴァ(個我、生命)が展開(流出)する。

※ブラフマンの三位一体。大ブラフマン(至高のプルシャ)…不変、空。プルシャ(高次のプラクリティ)…不滅、実在。プラクリティ(低次のプラクリティ)…可滅、現象。

→プラクリティからブッディ(覚:知の根源)が生まれる。

※悟った人はブッダ(覚者)。このブッティ(知性)をプルシャと勘違いすることで死後に残るリンガ(微細身:霊魂)に輪廻転生が起きる。

→ブッディからアハンカーラ(我慢:自我意識)が生まれ、自他を区別する。

→アハンカーラからマナス(意:思考)が生まれる。

→マナスからアルタ(対象)が生まれる。

→次いで、パンチャ・ドリア(五感覚器官:耳身眼舌鼻、インドリヤ(感官)とも)、パンチャ・カルメンドリア(五運動器官:発生、手、足、性器、排泄器)、パンチャ・タンマートラ(五感:音、触、色、味、香)が生まれる。

→次いで、パンチャ・マハーブータ(五大元素:空→風→火→水→地)が生じる。

以上、全25諦。

※世界(プラクリティ)はプルシャが観ている幻想(マーヤー)であり、これを地から上へ逆流してプルシャとの合一を目指す神秘主義思想。


ヴァイシェーシカ学派…自然哲学。カナーダが著した『ヴァイシェーシカ・スートラ』を根本経典とする。全存在を6種類のカテゴリーから説明する。実体、属性、運動、特殊、普遍、内属の6種


ミーマーンサー学派…祭式の哲学。開祖ジャイミニ(前200~100)が著した『ミーマンサー・スートラ』が根本経典。祭式を重視する。


ヨーガ学派…ヨーガの実践により解脱を目指す。パタンジャリ著『ヨーガ・スートラ』が根本経典。自在神(大自在天)イーシュヴァラシヴァを認める。その表象である聖音オーム(正確にはオーン)を復誦しながら祈念し、三昧サマーディ)の境地に至る。ヨーガは「結合」という意味。牛にくびきをつけて車に繋ぐという動詞の派生形。牛を御するように心身を制御すること(十牛図)。

トリ・グナ(三要素)の純質0、激質+、暗質-の調和を図る実践的訓練。+と-の調和が崩れると、+か-に偏り、純質0は失われる。よって+と-を平等に観て0ポイントに保つことで純質は保たれる。


パタンジャリ(前2世紀)著『ヨーガ・スートラ』(結合の経典の意)


アシュタンガ(八支則)…八本の枝

ヤーマ(禁戒)…してはならないこと 

 ❶アヒンサー(非暴力)…暴力をしないこと

 ❷サティヤ(真実語)…「これはそれ」と事実を語ること

 ❸アステイヤ(不盗)…盗まないこと

 ❹ブラフマチャーリヤ(禁欲)…日常生活を宇宙原理に捧げること

 ❺アパリグラハ(不貪)…欲しがらないこと

ニヤーマ(勧戒)…すべきこと

 ❶シャウチャ(清浄)…清浄を保つこと

 ❷サントーシャ(知足)…足るを知る(今あるもので満足する)こと

 ❸タパス(苦行)…不純を焼き尽くす鍛練

 ❹スヴァディアーヤ(読誦)…聖典の朗読

 ❺イーシュヴァラ・プラニダーナ(信仰)…神(自在天)に全てを委ねること

アーサナ(坐法)…座ること

プラーナーヤーマ(調気)…気息(呼吸)を制御すること

プラティヤーハーラ(制感)…五感(感覚器官)を制御すること

ダーラナ(集中)…心を特定の対象物に固定すること

ディナーヤ(瞑想)…静かに考えること

サマーディ(三昧)…統合すること


ニヤーヤ学派…インド論理学。『ニヤーヤ・スートラ』が根本経典。



①ヴェーダーンタ学派…一元論(不二一元論)

②サーンキヤ学派…二元論(精神と物質)

③ヴァイシェーシカ学派…多元論(元素)

④ミーマーンサー学派…祭儀主義(形式主義)

⑤ヨーガ学派…瞑想主義(修行主義)

⑥ニヤーヤ学派…論理主義(自然主義)


①-④、②-⑤、③-⑥は密接する。




異端派(ナースティカ:非実在論派)

ゴータマ・シッダールタ(釈迦)(前565~前485年)…仏教。

パーリ経典に登場する沙門(自由思想家)(六師外道:仏教から見た異端)

プーラナ・カッサパ…道徳否定論。善も悪もなく報いもない。

マッカリ・ゴーサーラアージーヴィカ教。運命決定論。

アジタ・ケーサカンバリン順世派チャールヴァーカ(唯物論)。

パクダ・カッチャーヤナ…七要素集合論。人は地・水・火・風の四元素、苦・楽、霊魂の七つの要素の集合体で、この七つは不変不動で相互関係がない。

マハーヴィーラジャイナ教。相対主義。苦行により涅槃を目指す。

サンジャヤ・ベーラッティプッタ…不可知論。


ウパヴェーダ(副ヴェーダ)

・『アーユル・ヴェーダ』…医術

・『ガンダルヴァ・ヴェーダ』…音楽・舞踊

・『スターパティア・ヴェーダ』…建築術

・『ダヌル・ヴェーダ』…弓術

ヴェーダ―ンガ(ヴェーダの四肢:補助学)

シクシャー…音声学

カルパ…儀式

ヴィヤーカラナ…文法学

ニルクタ…語源学

チャンダス…韻律学

ジヨーティシャ…占星術

ウパーンガ(副四肢

プラーナ…系図や世界創生の神話

ニヤーヤ…論理学

ミーマーンサー…祭式

ダルマ・シャーストラ…法律


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