ピアジェの発達段階論

ジャン・ピアジェ(1896〜1980、スイスの心理学者)

発生的認識論』1950

◆発達の仕組み
シェマ(スキーマ)…認知の枠組み、心的構造、概念のこと。外界と相互作用する時に個体が用いる行動・認知のパターン。

同化…外部からの新しい情報に既存のシェマを当てはめて、対象を同一化すること。

調節…外界に合わせて既存のシェマを修正すること。

均衡化…同化と調節を行い、シェマの誤差や不一致を修正することで、認識精度を高めること。

◆発達の4段階(発達段階論)
❶感覚運動期(0〜2歳)
 ①反復の練習(0歳〜)
 ②最初の習慣(1ヶ月〜)
 ③見ることの把握と協応(4ヶ月半〜)
 ④二次的シェマの協応(8〜9ヶ月)
 ⑤第三次循環反応と新しい手段の発見(11〜12ヶ月)
 ⑥心的結合による新しい手段の発明(18ヶ月〜)
❷前操作期(2〜7歳)
❸具体的操作期(7〜11歳)
❹形式的操作期(11歳以降)


【感覚運動的知能の準備と組織化】
感覚運動期(0〜2歳)
Ⅰ. 感覚運動的知能の準備期(0〜8ヶ月)
①反復の練習(0歳〜)
・生まれたばかりの乳児は、生得的な「反射シェマ」(原始反射)を行う。例えば「吸啜反射」(口で指や乳首を咥えると舌で吸う)、「モロー反射」(驚くと手を痙攣させて万歳の仕草をする)、「把握反射」(手足を刺激すると握り返してくる)などがある。この反射活動が「シェマ」(認知の枠組み)であり、反射シェマの練習が安定化すると次に「循環反応」(反復)の発達段階に移行する。

②最初の習慣(1ヶ月〜)
動作シェマ」を確立することで随意運動ができるようになると、二つ以上の「シェマの協応」が見られるようになる。例えば、掴むシェマと吸うシェマを関係付けて新たなシェマ(前概念的なシェマ)を作り上げる。こうして、シェマは多様化していく。
第一次循環反応」(自分の身体に限定され、動作を適応すること自体に興味を持って反復を繰り返す)により、習慣的な動作シェマ(目的シェマ)が形成される。身体を動かしてその感覚を楽しむ。例えば、「注視」、「追視」、「指しゃぶり」、「ハンドリガード」(自分の手の運動を興味深く見る)など。

③見ることの把握と協応(4ヶ月半〜)
自分の存在の外部に興味を示し、「第二次循環反応」(結果を生じさせる目的で反復を行う)を示すようになる。例えば、ガラガラをたまたま掴むと音が鳴ったことで、また音を鳴らそうとして手を振る動作を反復するなど。まだ「目的シェマ」と「手段シェマ」は未分化なので、意図性は事後的に結果を楽しむ段階に留まる。
対象の永続性」(6ヶ月〜)…物を隠して見えなくしてから再び取り出して見せても、それが同じ物だと認識できるようになる。モノ自体(モノのシェマ)の成立と言える。例えば、「いないない」と顔を隠しても、その後ろに同じ人物が存在することを理解するようになる。
模倣行動: ⑴手の運動と発声の模倣期」(〜8ヶ月)…直接見ている相手の手の動きや声を模倣できるようになる。

Ⅱ. 感覚運動的知能の組織化期(8ヶ月〜2歳)
④二次的シェマの協応(8〜9ヶ月)
二次的シェマの協応」…目的シェマと手段シェマが分化して関係付けされ、意図的な行動が生まれる。
模倣行動: ⑵顔の模倣期」(8〜12ヶ月)…自分では直接見れない自分の顔の表情を、相手の表情に近づけることができるようになる。

⑤第三次循環反応と新しい手段の発見(11〜12ヶ月)
第三次循環反応」…動作が異なると結果が異なること(因果関係)を理解する。新奇な現象を再現するために条件を変えて「試行錯誤」したり、能動的に「探索行動」をしたりする。こうして新たな手段シェマを発見していく。

⑥心的結合による新しい手段の発明(18ヶ月〜)
表象機能」…「シェマの内面化」が進み、「心的表象」(頭の中でイメージされた対象)が確立する。
模倣行動: ⑶延滞模倣期(遅延模倣期)」(18ヶ月〜)…相手の動作を表象として記憶して、後から模倣できるようになる。


【具体的操作の準備と組織化の時期】

前操作期(2〜7歳)
自己中心性」…主観的な視点からしか物事を見れない。相手の立場を想像できない。
中心化」…目立つ部分にのみ注目する。背の高いコップに同じ量の水を入れても背の高いコップの方に多く入っていると思い込む(保存性の未発達)。
実念論」…自分の物の見方が絶対だと思い込む。
アミニズム」…あらゆる物に命や心があると思い込む傾向がある。物に話しかける、一人芝居をするなど。
人工論」…自然物も人間が作ったものと思い込む傾向がある。

象徴的思考期」(2〜4歳)…現象にない物を他の物に置き換えて表現できるようになる(象徴機能)。表象機能(シニフィエ:意味されるもの)と象徴機能(シニフィアン:意味するもの)の発達によって、言葉や記号を理解し、表現できるようになる。例えば、絵を描くとき、目の前にない物でも思い出して描けるようになる。また「(象徴遊び)ごっこ遊び」に夢中になる。
直観的思考期」(4〜7歳)…「家は地面から生えたのではなく人間が建てた」という風に、空想でなく理性によって思考できるようになる。ただし、まだ中心化の特性を有していおり、論理的思考には至っていない。
他律的道徳観」(5〜9歳)…他人の作ったルール(法)に従う。それは絶対に変えられないものだと思い込んでいる。行動の意図よりも結果を重視して善悪を判断する。

具体的操作期(7〜11歳)
論理的思考を獲得しはじめる。具体的な体験であれば、実際に手指を動かさなくても、数的・量的な情報の処理を頭の中で行えるようになる。
保存の概念」…背の高いコップから背の低いコップに水を入れ替えても、水の量が同じだと認識できるようになる。
脱自己中心性」…相手の立場を想像できるようになる。「三つ山課題」(特徴の違う三つの山の模型を見せ、違う位置に立った場合の景色の見え方を同うテスト)によって測定できる。
自律的道徳観」(9〜10歳)…絶対的な善悪ではなく、他人の視点からも考えられるようになり、自分自身の中にあるルール(法)に従うようになる。単なる結果でなく、行動の意図や状況を考慮に入れられるようになる。


【形式的操作の準備と組織化の時期】

❹形式的操作期(11歳以降)
Ⅰ. 形式的操作の準備期(11〜14歳)
形式的演繹」…直接的な観察から得られた情報からではなく、頭の中で形式的な推論(抽象的思考仮説演繹的思考命題論理組み合わせ思考)ができるようになる。「ケリーはアリーより背が高く、アリーはジョーより背が高いとしたら、身長が一番高いのは誰?」という質問をして、絵を描かなくても答えられるかどうかで測定できる。

Ⅱ. 形式的操作の組織化(14歳以降)
形式的操作が全体システムとして組織化される。

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