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完全リモートワークが、勇気のある決断だと言えるのか?






編集部の橋本圭右です。


出社か、自宅かで、迷う日々が続きます。


行くのが偉いのか。
行かないのが偉いのか。
どっちにしろ、そもそも偉くないのか。



以前の記事
にも書いたとおり、
いまは編集長という立場でありながら
会社の固定デスクを没収され
フリーアドレスならぬ、アドレスフリーの状態であります。


それなのに、どうするんでしょう。
会社に行って。


トイレで仕事?
社内で歩きスマホしながら仕事?
持ち主が戻ってくるまでそこで仕事?


そんな妖怪みたいな働き方が
働き方改革だと言えるのでしょうか?





なにいってんだー
会社員なんだから
つべこべいわず会社に行くのは当然。
それともなにか、
スーツすら着ない出版社の人間なんかは、
どこかで自由業っぽさを気取ってやがるのか。

…と、
脳内の仮想高齢男性から厳しい言葉を浴びせられ、
身を固くします。





たしかに
二日酔いだろうが親不知が暴れようが
ドラクエの発売日だろうが、
「なにがなんでも会社に出向く」
のが
昭和の高度経済成長時代から連綿と続いている
会社員の美学だったはずである。




いや


しかし、未曾有の事態。




これからこの世が
どんなふうに姿を変えたとしても
「我々は未来永劫、本を作ることはできる」
という確信を得るために、


完全リモートワークで本を作ったらどうなるか?



を体験することにしました。


あ、ただ
「完全リモートワーク」といっても
犬の散歩をしたり、
ほっともっとまでお弁当を買いに行ったり、
免許センターに違反者講習を受けにいくのはよしとします。
単に“仕事の都合で、外で人に会わない”というだけ。


しかしどうしても、
編集者が
外に出なくてはいけなそうな用事として、

取材、
著者やクリエイターとの打ち合わせ、
撮影、
装丁会議、
原画の受け取り、
本屋さんで資料になる本を買う、
イベントとサイン会、
出版関連のパーティー、
同業者との飲み会、
めちゃくちゃ怒らせてしまった人への謝罪、
とにかく誰かにやる気を見せる

…などが考えられます。


それらのアクションたちを
どうにか工夫して、
「自宅でも可能」にできれば、
完全リモートワークは達成されるであろう
という予測を立てました。



ちなみに
編集者の仕事って

(気になるあの人に連絡をしてお茶にでも誘おうか?)
みたいな有閑マダムらしきシーズンもあれば、
(いつ終わるか不明だけど終わるまでは寝られま10)
みたいなただの拷問といえるシーズンがあるのですが

今回は、
たまたま拷問といえるシーズンとぶつかっていたことだけは補足しておきます。




さて、

どうだったか。





①取材

全然問題なし。
ネットがつながりにくい時間帯はあったものの、
「ZOOMを使って録音」でほぼ支障ありませんでした。
お互いの都合に合わせて、適当に時間を区切れたりするし、
リスケのリスケのリスケからのキャンセル、
くらいやらかしても
ブチ切れられることはなくて本当によかった。

なによりいまは
「いまはZOOMらしいね」
みたいなムードが
全国的に広まっているおかげで、
誰に対しても気軽に「オンライン取材」を提案できるのがありがたい。


もちろん、
現場に行かないと体験できないこと、
実際に会ってみないとわからない空気感、
みたいな肌感も含めての取材なので、
一度は現場に出向いた方がいいとは思うのですが、
自宅で対面のインタビューが無料できるなんて、
そんな未来は今のうちに味わっておかないと。




②著者やクリエイターとの打ち合わせ


打ち合わせとは?
簡単にいうとな、
「どういう方針でいきたいか」を話し合って決めて、
「そのために誰がいつまでになにをするか」という宿題を与え合う場なんだな。
わかったな?
っていつかどこかのかっこいい先輩に教わったことがあります。


そんな神聖なる打ち合わせのかわりに、
(著者さんからの提案で)
「ChatWork」「Googleスプレッドシート」「Dropbox」
という3つのツールを使うことにしました。
なんですかそれ?
いや、うそでしょ、絶対うそうそ。
高いITリテラシーをお持ちのnote読者様が
「スプシとは…?」なんて思うはずもありませんから割愛。

ともあれ、
この3つを使わずに、
以前のようにメールだけでやり取りしていたら、
こんな短期間では絶対に本なんて作れなかったと思います。
どんな短期間だったかも割愛。

どうしても
チャットだけではうまく説明できないときは
相手の家庭に土足で踏み込む気持ちで
ChatWork、
ZOOMやGoogleミート、Skype、LINE通話あるいは普通に電話、
ありとあらゆる通話ボタンをポチりました。


③撮影


ZOOMをビデオオンにして、
スクショでOKって…
できないですね。
リモートワークで撮影、できないです。
どうしても遠隔でやりたいなら
現地にカメラマンを派遣するしかありませんが、
著者さんを「密」にしておいて、おまえさんはなにやってるんだ?

みなさん、どうしてるんだろう。
どうするんだろう。
野外? ロングショット? フェイスシールド?



③装丁会議


わざわざプリントアウトしなくたって、
子供の頃から思い描いていた憧れの未来こと2020年は、
遠く離れていても、
同じ画面をあなたといっしょに見られる時代です。

そのため、

あんまり支障がなかった気はしますが、
最終的に刷り上がったカバーとオビを
自宅に送ってもらって
束見本(カバーとオビを巻いてみる用のダミー本)に巻きつけてみる
という実物の確認だけは、
ひとりぼっちでしかできないんだ。


④原画の受け取り


データでもなく、郵送でもなく、
作家様のご自宅まで原画や写真を取りにお伺い…
というケースが
数年前まではときどきありましたが、
いまはよく考えると、まったくありません。
ぼく個人的に、ご自宅まで「今からタクシーで取りに伺います」とか
「バイク便飛ばします」とかって、
編集者気分を味わえるから言いたいセリフなんですけど。


⑤本屋さんで資料になる本を買う


そんなのAmazonで済むじゃんねー
と思ってたのですが、
明確な目的買いじゃないと、
Amazonだけを駆使して「良さそうな資料」を探すのって
わりと困難だと思いました。
「立ち読みページ」を手がかりにしたものの、
「Kindleのサンプル」もめちゃ落とししたものの、
購入の決め手にはなりにくかった。
結果、
Amazonを漁れば漁るほど
(リアル書店に行って、現物を見てから買いたい)
という気持ちが強まり、
欲しい漫画の最新巻を買うついでに、本屋で資料を買いました。



⑥イベントとサイン会、
出版関連のパーティー、同業者との飲み会


先日のスナックサンクチュアリもオンラインでしたが、
イベントだったらネットでもできますね。
同じルーム内では
全員に向けて発信することになるので
同じ趣味の人を見つけて熱く語り合うとか
(ごぶさたしてます)(ああどうも)みたいな目配せをするとかが
難しかったですが、楽しかったことには変わりありません。


一方、出版関連のパーティや、同業者の飲み会は、
まったくお誘いがなくなりました。
こんな時期だからさすがに自粛してるのか。
それとも、
主要メンバーだけで秘密裏に行われていて、
ぼくは主要メンバーではない、というだけかもしれませんが、
誘われても行きたくないのに、
誘われないとさびしい飲み会というものが存在するんだなと気づきました。



⑦めちゃくちゃ怒らせてしまった人への謝罪、誰かに本気を見せに行く


「先ほどZOOMのリンク送っておきましたので、
10時ごろつないでいただけますか? 謝りますので」


なんてDMを送れば、
速攻でブロックされそうですが、
いまは違う?
お詫びの菓子折りを、Amazonギフトで送っても許される時代?
じゃあインスタのストーリーに

私ふとした瞬間、
はっと、あなたを感じる
本を出したい、
気になってるよずっと


なんて24時間で消える縦読みポエムを
アップしたところでどう?
…それはそれで今どきはあり?

なんにしても
(えーわざわざ来てくれちゃったの? 別にいいのに…悪いね)
という反応を引き出すのが重要であるような気がするのですが、
いまは来ないでいてくれる方が、
ありがたがられたりするから、
もう謝罪したり、本気を見せることはあきらめよう。




以上です。


というわけで、
いくつかあきらめなければいけない
アクションはありますが、
できないなら、できないで、
とりあえずなんとかなることばかり。
編集者の仕事はリモートワークでいけますね!
おしまい。



…って
結論を出しかけたところで、
落とし穴にはまりました。

それはあまりにも地味過ぎる落とし穴でした。




スキャンとプリントアウト。



本を作るためには、
どうしてもPDFではなく、
「紙で見る」という工程が入ってきます。
なぜかというと、なぜだろう? 


本がある程度できあがってくると、
編集者はとにかく紙で見たくて見たくてたまらなくなるのです。
赤ペンで修正を入れたくてたまらなくなる。
するとその修正箇所を誰かに見せるために、
スキャンもしたくてたまらなくなる。
編集者という病でしょうか。

そりゃ
スキャンもプリントアウトも、
近所のコンビニでできるでしょうよと言われたら

できますね〜と即答いたしますが、


コンビニの
コピー機はいつでも空いているわけではないんだ。
そして、いつ空くかもわからない。

ちょうど給付金の時期だったこともあってか、
高確率で先に使っている人がいて、自分の後に並ぶ人もいました。
長く一人で占拠できない雰囲気がありながら、
それでも10分待っても前の人が終わらなくて、
業を煮やして他のコンビニに移動してみれば、
そこでも誰かが占拠していて、
また次のコンビニへいったらコピー機が故障中で、
みたいなことをくり返し、最大7軒回ったことがあります。
そのたびに、
なんとなく悔しいからアイスを買ったり、
唐揚げを買ったりしていたので、一時的に少し太ったかも。

なんにしても、

一度にそんなに大量にプリントアウトできないし、
硬貨しか受け付けてないところも多かったし、
なによりも割高で、
会社で出力するのだって無料ではありませんが、
コンビニで盛大にカラー出力なんてしたら1部につき箱根で一泊できるくらいかかるから、モノクロで、できれば裏表印刷で、なるべく回数を減らそうか、縮小したら見えなくなるかあ、とか迷った挙げ句、

最後の最後、

そんな
ちっぽけな悩みにとらわれながら、
コンビニで十円玉の数を手の中でかぞえているような行為自体、
リモートワークからはじまる
「場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」
っていうテレワークの主義に反している
気がして、
セルフ緊急事態宣言は強制的に解除。


マスクして、家を出て、電車に乗って、
久しぶりの出社にどきどきしながら、
どーんとプリントアウト(2部)したら、

すっきりしました、


というわけで、




なにが言いたいかと申しますと、







直接会って雑談するのって楽しい





橋本圭右(はしもとけいすけ)
1974年東京生まれ。サンクチュアリ出版編集長。宣伝部長。
好き=ボードゲーム、AKIRA、山歩き、任天堂、犬、ラーメン、ハンバーガー、スーパー銭湯、カオスな町、ビリヤード、ジムニー、アメカジ、テクノ、コーヒー、筋トレ、建物、公園、竹の伐採、横浜DeNAベイスターズ。



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