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地質学考

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地質学考5 モデルとしての地質図は客観的か?

地質学考5 モデルとしての地質図は客観的か?

 自然科学は,実験・観察によって自然の性質を調べることから始まります.科学史と科学教育の日本の泰斗である板倉聖宜先生の定義によれば,実験・観察とは,仮説を持って自然に働きかける行為です*6.実験・観察によって自然に働きかけをした結果,得られた自然の性質を「データ」とよびます.自然科学のデータは実証的・客観的で,かつ再現性があることが求められます.ただ,実証的・客観的で,かつ再現性というのはデータの

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地質学考4 地質学は視覚言語を多用する

地質学考4 地質学は視覚言語を多用する

 前回,地質学の調査データには,視覚的な質的情報が多いということを書きました.この部分をもう少し掘り下げてみましょう.
 18世紀から19世紀にかけての地質学史を研究したラドウィック( M. J. S. Rudwick, 1932- )によれば,地質学は視覚的なもの,例えば地図,断面図,カラースライド,いろいろなグラフ,などを多用することが特徴だとしています.*5 こうした視覚的なものを用いて意味

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地質学考3 地下世界の地図をつくる

地質学考3 地下世界の地図をつくる

 前回,地質学は,地下の可視化をするのが第一歩ということを書きました.岩盤を覆い隠している土や植物をとりのぞいたときに,地下がどう見えるか,というのは「地質図」とという地図として表現されます.地質図は,地表面の凹凸の形と,地下の岩盤の種類の違いの境界の交線として表現されます.この交線を作図する方法を「地質図学」といい,地質学教室では必ず習う講義になっています.
 この方法を編み出したのは,「イギリ

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地質学考 その2 見えないものは分かりづらい.

地質学考 その2 見えないものは分かりづらい.

 日本語で書いているので,読者のみなさんは日本語ユーザーと思いますが,日本国内で,地質学にふれる一番の機会は,学校の理科の勉強だと思われます.日本の小学校では,6年生で地層や火山・地震について勉強します.また,中学1年生で,同じく地震・火山・地層・化石・プレートテクトニクスについての学習があります.多分,日本人の常識としての地質学は,これらの勉強がもとになっているはずです.
 中学校理科よりも少し

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地質学考 その1 地質学は自然科学だろうか?

地質学考 その1 地質学は自然科学だろうか?

 「専門は何か」と問われたとき,私の答えの1つは「地質学」です.
 ふりかえってみれば,小学生の頃から地元の博物館主催の化石採集に何度か行ったことがあり,地質学に関連したことが嫌いではなかったのは確かですが,専門として学ぶようになったのは大学に入ってからでした.
 自然科学というのは,人間をとりまくものが,どのようなしくみで動いているのか,ということを知りたいという素朴な欲求から生まれたものと思わ

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