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PTTスイッチ

コミュニケーション

昔々、アマチュア無線をやっていた。
誰かと音声で交信するときにはマイクに向かって話すのだが
自分が話すときにはPTTスイッチをONにする。
PTTというのはPush To Talk のことで
「話すために押す」スイッチということ。
ONになっている間はこちらの声が相手に届く。
電話のようにお互いが同時に話したり聞いたりはできなくて
糸電話のように片方が話している間、もう片方は聞くだけだ。
だから話の区切りで相手に「マイクを渡す」ときに
「どうぞ」(英語ではover)と言う。

「6号線は渋滞しています。どうぞ」ピッ
「了解、迂回します。どうぞ」ピッ
昔のドラマなんかでやっていたこういう場面の
「ピッ」という音はこのスイッチの切り替えの音だ。

そして中には長々とひとりで話し続ける人がいる。
最近の活動状況や機器の話にとどまらず
身の回りのことや思い出話や自慢話などなどなど。
その時はその人のPTTスイッチがONのままで
そうすると話を聞かされている相手は聞く一方で
言葉をはさむことも相槌を打つことすらできない。
だから、礼儀としてというより実用上必要なこととして
「一人で長く話し続けない」
ということがお約束なのである。
会話は言葉のキャッチボールだと実感したものだ。
言葉は「やりとり」することで
内容の軌道修正をしたり・確認しあったり・信頼関係を築いたりの
コミュニケーションが取れる。

さて、無線に限らず
PTTスイッチがONのままロックしているような人は結構いるもので
もちろんそういう人には
こちらのOFFしてくださいという声が聞こえるわけもない。

そういえば
小松左京のSF「復活の日」で
一人生き残った子どもが家の無線機で助けを呼びかける場面があった。
発信は出来るのだが、PTTスイッチを入れたままなのでせっかく受信したのにこちらから応答ができない。普段、父親から触ってはイケナイと言われていた無線機だったので、使い方がよくわからなかったのだ。
その子はいくら呼びかけても返事が無いので、孤独に耐えかねて父親の銃で自殺してしまう。
なんとも歯がゆく辛いエピソードだった。

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