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あのお城に行きたい

子育ての風景

小学校に入ったくらいのこと。

裏通りを抜けて道路に出ると、ずうっと遠くに「お城」が見えた。
それは物語の挿絵のような背の高い灰色の塔で
縦に四角い窓が4つ並んでいた。
そんなに遠くまで行ったことは無くて
すごいなあと思って眺めていた。

あるとき何かで父に叱られて
「出て行け!」と言われたので言われたとおりに家を出て
いつもの裏通りを抜けて道路に出たら「お城」が見えた。

そうだ、お父さんにお家から出て行けと言われたんだから
あの「お城」に行こう、と思ったらわくわくしてきた。

そちらに向かって二、三歩行ったところで
兄が追いかけてきて「帰ろう」と言う。

「え?だってお父さんが出て行けってゆったから」
「いいから、帰ろう」
「だってお父さんが-」
「いいから、帰るの!」

というわけで「お城」に行く夢はあえなく絶たれてしまった。

それから数年後、行動範囲は広がっていき
ある日「お城」に行ってみようと思い立った。
まっすぐまっすぐ歩いていくと
だんだん「お城」が近づいてきて…

それは灰色の4階建てのアパートだった。

その後何十年もそんなアパートに住むことになるとは知る由もない。

大人になってから地図で調べてみると「お城」までは1㎞弱。
それは、知っていることと知らないこととの距離だった。

子どもの成長というものは種々様々な意味で
夢を現実化していくことなのだと思う。

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