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凹んだ湯たんぽ

子どもの頃の湯たんぽは金属製だった。
楕円形で表面が波型になっていて、ブリキだったのだろうと思う。
家族の人数は多い方だったので、湯たんぽは人数分無くて布団が温まったら隣の布団に移動させてと融通してはいたがそれでも5個はあったはずだ。
冬の夜にはそのいくつもの湯たんぽに熱湯を入れるものだから
一度には入れられなくてヤカンや鉄瓶を総動員しても足りずに
石炭ストーブの上に水を入れた湯たんぽを載せて直接沸かしていた。
沸くのにはそれなりに時間がかかっていたが油断しているといきなり噴きあがって、ストーブの鉄板の上でさびで茶色くなった湯玉がやかましい音を立てて跳ね飛んだ。
「あぶないよ、ほらほら、あぶないあぶない」
家族の中で一番小さい私は周りから危なっかしく見えていたのだろう。さすがにこういうときは大人が吹き出す熱湯のしぶきを我慢しつつ床に下したが、普段は私も染みの付いたナベつかみを両手にこの恐ろしく熱い金属の湯たんぽをガス台やストーブから下ろして金属製のフタをきっちりと締めた。金属製の小さなネジブタには環が付いていてそれを指でつまんでぎゅうっとねじるのだが、これが子どもにはナカナカに力仕事で、それでデレッキ(火かき棒)を環に差し込んで「てこ」にして回した。これも力加減が必要で、力いっぱい回せばいいというものではない。環はすでに少し歪んでいた。
さてそこで
この湯たんぽが、新品以外はみな上面が凹んでいたのである。
昔は、布団の中の湯たんぽを踏んづけてしまうからだと思っていたが
昨日ふと
熱湯を入れた湯たんぽが冷めて中が「陰圧」になったのではと思った。
そういえば40年くらい前にはもう湯たんぽは金属製から合成樹脂製に入れ替わりつつあって、その頃買った合成樹脂製の湯たんぽは朝になると上面が凹んでいた。
極寒の地に住んでいたので一人に一つの湯たんぽが必要で、湯たんぽの容量が確か 3ℓ だったので、合わせて 6ℓ の熱湯を作るのはもったいなくて入れるお湯の量は2ℓ程度だったと思う。要するに湯たんぽの中に 1ℓ 分の空間が空いているから、熱湯を入れてフタを閉めるときには空気がほぼ追い出されてしまうのだ。
そういうワケで
朝になってぬるま湯になってしまった湯たんぽの中は陰圧になって、そうすると大気圧によってつぶれてしまうのだ。朝、湯たんぽのお湯で顔を洗うのは冬のありがたさだったが、洗面器にお湯をあけようとフタを開けると隙間から「しゅー」と空気が吸い込まれて上面の凹みがいくらか戻った。そして夜に熱湯を入れると再び元の形に戻るのである。
このように思い出すと
子どもの頃ウチにあった5個くらいの湯たんぽを熱湯で満杯にするわけにはいかなかったのだろうと。きっと2ℓくらいずつ入れて・冷めると凹む、を繰り返していくうちに、さしもの丈夫な波型のブリキ板も凹んでしまったのではないか。
いや、確かに踏んづけたことは踏んづけたけど。

現在はお風呂に入らない日でも、温かい・寒くない家のおかげで
小さな600ml の湯たんぽで充分に布団の中が温かいのである。
ありがたや断熱構造 ♪

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