煮えた熱帯魚
皆さん、ベタという熱帯魚をご存知だろうか?
残念ながら、もう絶対に飼えない……そんなエピソードが私にはある。
小さな動物は、人間以上に繊細な生き物。
不注意や無知だっただけでは済まされない、取返しのつかない結果を招くことに。
ペットを飼っている皆さん!
これからの季節は、特に注意を払っていただきたいお話です。
ベタとは?
別名:闘魚とも言われていて、見かけによらず気性が荒いので複数が飼いは難しい。熱帯魚屋さんの店頭で、小さな瓶に一匹だけ入れられた鮮やかな赤や青色をした小さい魚を見かけたことはないだろうか?
このベタという種類は、初心者向けの熱帯魚で、大きな水槽も入らず温度管理も難しくないことから、手軽に飼いやすい熱帯魚として知られている。
ベタ類は、キノボリウオ亜目の魚の共通の特徴として、エラブタの中に上鰓器官(構造が迷路に似ていることから「ラビリンス器官」とも呼ばれる)という空気呼吸をする器官を持ち、口を空気中に出して空気を口の中にいれ、そこから直接酸素を得ることができる。
このため水中の溶存酸素が少ない状況でも生存できることから、コップやグラスに入れその状態で飼育もできると市販されている。
癒しをくれたベタ君
ある日、友達Mちゃんがゴールデンウィーク中に田舎に帰省するので、1週間ほど預かってほしいと「真っ青なベタ」を一匹、小さなガラス瓶ごと手渡された。
特別な世話はなく、毎日決まった少量の餌を与えるくらいなので、二つ返事で引き受けた。
尾ヒレや背ビレをゆらゆらと漂わせて、優雅に泳いでるベタ君は、いかにも元気そうである。
女一人暮らしの生活に、朝起きて最初に目にする生き物が熱帯魚である。
目の前でたった一匹泳いでるだけでも、何だか心が落ち着き癒されるようだった。
魚にはとんと興味はなかった私だが、熱帯魚を飼う人の気持ちが少しは理解できるような気がした。
灰色になったベタ君
その年のゴールデンウィークは晴れ続き。ベタ君を預かって、3,4日か過ぎた頃である。
フリーターの自分は祝日なんて全く関係のないシフト勤務だったが、その日はたまたま休みだった。誰かと会ったわけでもなく、一人でぷらぷら買い物に出かけたのだが、昼過ぎから気温がみるみる急上昇して、まるで夏日のように。
汗だくになりながら、夕方16時すぎに我が家に帰り着いた。
窓を締め切った四畳半の部屋は、この暑さで温かく蒸した空気がむぅっと籠ってしまっていた。
昭和43年建築の、風呂なしトイレ共同の安アパートは換気扇さえ付いてない。窓を開けようと部屋の奥に足を進めると、ベタ君が入っているガラス瓶が目の端に入る。
何気なく見て、窓に向かおうとしたが、なぜかもう一度ガラス瓶に目を向けた。
「……ベタ君がいない?なんで?」
と思ったのは、錯覚でちゃんと居た。
水面に。
全く動かず浮かんでいる、ベタ君。
そして、あの真っ青なベタ君の姿でもなくなっていた。
灰色、つまりグレーになっていた。
咄嗟に、私はガラス瓶に指を突っ込んだ。
水はいつもの水ではなく、生温かいお湯になっていた。
「…まさか、煮えたちゃった?」
べタの適切な水温は25℃前後らしい。
測らずとも、明らかに魚が泳げるような温度ではない。
いろいろな言い訳が頭によぎるが、私の完全な不注意だった。
本当にごめん、ベタ君。
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