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エッセイ:なかったことに

※つらかったこと、嫌だったことを、なかったことにしたい方はお読みにならぬよう、くれぐれも。



僕をだましてもいいけど
自分はもう だまさないで

『サヨナラCOLOR』SUPER BUTTER DOG


躓くのに、石はいらない。
生きていれば誰もが躓く。時には転ぶ。転び、転がり、転がり落ちる。落ちるときはどんどん落ちる。どん底まで、落ちることもある。
死がよぎることも。

死にたくなったら下を見ろ、俺がいる。といった映像作家がありましたが、ナイスですね。どん底まで転がり落ちた経験があればこそ、寄り添うこともできるのでしょう。誰でもこうはいかない。

老いや病、障害、怪我、死はひとが生来的に嫌悪するものであり、同様に、解雇、事業の失敗、破産、醜聞、破局、数え上げていくと切りがありませんが、駄目になった人を見て、ひとは安堵するものである、他人事であれば。
優越感にひたり、蔑み、ふと笑みが零れるものであります。

駄目になったのは自分ではない、あいつなのだと嬉しくなるものです。災悪に見舞われたのは、痛い目に遭ったのは、罰が下ったのはあいつなのだと。自分は生き残ったという安堵。悪いのはあいつで、自分は正しいのだという錯誤。自分のせいではないという解放感。いくつになっても人は子どものままです。そうして他人の不幸を味わいたがる。

かれらは、駄目になったあなたの元へ嬉々としてやって来る。ズカズカと踏みこんで来る。
何度もやって来る。
時には善意を装って。
あるいは手の平を返して。
あなたの不幸を味わうために。
弱いものを前にした時、その人の本性があらわれる。往々にして醜悪である。
ですが、くだくだしくはもう書きますまい。あなたの味わった屈辱、それだけで充分です。忘れられるものではないでしょう。

とはいえ屈辱を与えた側は大抵憶えていないものでして、たとえ憶えていたとしても、蒸し返されるのは不快であり、あなたは一人、多勢に無勢。なかったことにされるのがオチであります。ですがあなたは憶えている。
であれば、なかったことにする、否認するというのは悪手です。向き合うしかない。向き合い、相手との関係性を改め、怒りや憎しみといった感情を抱いているのなら、そいつに向けましょう。チクリとだけ。誰とでも仲良くせねばならぬといういわれはない。許すいわれも。最悪なのは矛先が自分に向かうことです。
だから怒っていい。
憎んでいい。
チクリとなら、やり返してもいい(多分)。

自分を貫くのは勇気がいりますが、己の感情を肯定できるのは己だけです。
正しく怒り、正しく憎むことが自分を貫く勇気を与えてくれるなら、それでいい。
憎んでいい。

以上、溢れんばかりの憎悪を鎮めるため、文を連ねて参りました。されど溢れんばかりの憎悪はぜんぜん鎮まりそうにもありません。本稿が、誰かの一助になれば幸いです。お読み下さり、ありがとうございました。




否認とは自己欺瞞である

でもかわいいから許します





憎しみに疲れたら、サヨナラも