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ひのめの少女 黎明01

コンテンツの更新がないのも寂しいな~と思ってましたが、過去アカにアップしてた摩明の話を推敲してたやつがあったんですよね〜。アップを何となく躊躇ってたのですが、この機会に上げておきます。続くかどうかは不明ですが……。

★★★

男は、天地が逆さまになったような感覚に襲われた。目眩でもおこしてぶっ倒れたのか、とも思ったが、ずきずきと左肩が痛む。
……どうも、投げられたかなにかしたらしい。
しかしその事実……、といっても推測の範囲だが、それに男は納得できなかった。自分を投げたらしい存在、それは目の前にいる小柄な少女としか考えられなかったのだが、こんな華奢な少女が100キロ超の自分をやすやすと投げるなど有り得ない。
(……一体なんだってんだ?)
男は痛む左肩をさすりつつ起き上がり、少女を改めて視界に入れた。
外見から察するに中学生ぐらいか、と思った。ベビードールのようなきめの細かい肌に、その大きな瞳が少女特有の可愛らしさを引き立てていたが、なぜかその少女からは年齢にそぐわない、威圧感といったものが感じられるのだ。
ふと、自分を赤い光が男を照らしているような気がした。真正面、少女のほうからだ。
なによりもその赤い光がもたらす圧倒的な違和感が男を包んでくる。……そして違和感は形を変え、それは恐怖、という感情をもって男に襲い来る。
「貴方でしょうか?このあたりの土地を荒らし回ってい歩いていたのは。これ以上ここを穢してほしくはないのですよ。とりあえず、どこか他所に行っていただけませんか?」
そのやたら丁寧な言葉が逆に鼻につく。
男はそのイラつきに加えて恐怖の感情を隠す意味もあったのか、少女に荒っぽい言葉を投げつけていた。
「アホかお前?あの地震のあと、足立区(ここ)が閉鎖区となった以上、今現在土地の権利を主張してもどうにもなんねぇんだよ。だからこの場所は俺のモンだよ!」
一呼吸おくと、嘆息まじりに少女は男に言い放った。
「……残念ながらこの場所は現在、貴方の持っている狭小な物差しで測られてはいないのです」
「何だと?!」
少女はわけがわからないことを言い放った。さらなる言い分がこうだ。
「まあ、貴方のような方には目に見える形でお示ししたほうがよろしいかもしれませんね。……これならどうですか?」
少女は首にぶら下げていた円(まる)いもの……、青銅の鏡だろうか。それに触ると目を閉じて、つぎにおおよそわけのわからない言葉、そう、見えない何かに話しかけているようだと言えば判りやすかっただろう。奇妙な言葉をつぶやいていた。……男はこの言葉を聞いたことはなかったハズだが、聞いた途端意識が蕩けたと同時に、もう捨てたはずの郷愁の念にかられたのである。その後少女が目を開くと同時に、風が吹きはじめた。見ると少女の瞳はルビーのように真っ赤に光っていた。
ありえないことだが、風が少女を中心とする形で吹いてきたのだ。くわえてそれが男に圧力をかけてくる。まるで従属しろと命じるかのように。
吹いてきた風のせいで目を閉じていたが、うっすらと目を開けたらそこには信じられない光景が広がっていた。細いがとても鋭い真っ赤な文字が、空中になにやら図形のようなものを描いていたのだ。それから風はぴたりと止んだものの、その真っ赤な線は最終的に球形を形作り、空中に浮かんでいる。
ーーありえない、こんなことあるもんか……!
そう否定したかったが、その常識の範疇外にある図形は男の脳裏に焦げるほどの焼き付きを残した。
「………………」
男はずしゃ、といった音と同時に膝を崩し、あとは倒れることしかできなかった。

球体は、男が倒れるとその役目を終えたとばかりに自身の体積をしぼめていき、やがてなくなった。すると周囲に満ちていた赤い光もなくなり、同時にそれまで空間に響いていたきいい……ん、という金属をこするうような音も止んだ。
「話が通じる相手であれば、そのほうが良かったのだけれど。今はわずかなりとも時間が惜しいから……」
そうつぶやくと、そのあと少女は黙ってしまった。自らの戒めへの意味も込めているのか。150センチと少しほど、という小さな身体であったが、纏うその雰囲気が気安く話しかけるのを躊躇させる、気高さがあった。とはいえ物腰にとげとげしさ、いやらしさはなかった。

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