H1901

「性に目覚める」という言葉について考えた。ここでいう性は俗に言う”いやらしいこと”だろうが、それに目覚めるというのはどういうことなのか。いやらしいことだということに気がつかず興味を持つことを指すのか、そうと知ってて故意にその領域に足を踏み込むことなのか。いずれにせよ周りの大人たちにはこの変化が訪れたことを安易に漏らしてはいけないということは理解できる。性の目覚めが人に知られてはならぬ秘密が増えることを意味しているのなら、私はまさに今寝ぼけ眼を擦っているといったところか。

「…こういうことよくするの？」
そう声をかけられて我に帰る。含んでいたものから口を離し手の甲で拭いながら「初めてですよ」と答えた。男は訝しげな表情をしながらも、目の前の体をまさぐる手の動きはとまらない。
「発育いいよね、サイズいくつなんだっけ」
「どうでしょう。ちゃんと測ったことがないのでなんとも」
そもそも、肥大した乳房を支える下着を自分一人で買う年齢ではないのだ。心のどこかにチクリと痛みが走る。
春から新しくなった登校先にいまひとつ馴染めず暇を持て余していた私は、見知らぬ誰かにその役割を見いだすことを思いついた。小娘の退屈を紛らわせるという任務に抜擢された彼は、ひとまわり以上年が離れており同じ関東圏に住んでいるということしか知らない。同様に向こうも私に対して多くは尋ねなかった。互いに身の上を明かしたがらない男女が親しくなる方法といえば、限られている。だから今もう決して小さくはない体を狭い車内で折り曲げ、名も知らぬ男の股に頭を沈めている。
「筋がいいんだね、気抜くと出そう」
男の言葉に吹き出しそうになるのを堪えつつ作業を続けた。陰茎全体をくまなく舌で愛撫し、時おり唇を内側に巻き込みんで自分の唇ごと口の中のものに歯をたてる。そのまま上下に頭を動かしながらちらりと表情を伺うと、気持ちよさそうに目を細めた男と視線が交わる。乳房をくすぐっていた男の右手が私の後頭部に触れる。ストロークを深くという合図だと理解し、その通りにした。途端に咥えていたものの硬度が増す。「初めてですよ」といった私の台詞が頭の中で繰り返される。本当に初めてなのだろうか、と自分でも疑心暗鬼になるくらい次にすべきことが予測できる。唾液をたっぷり絡め、わざと口の中の音が聞こえるように顎の力を緩めながら動きをはやめた。品のない水音と湿った息遣いだけがきこえる車内。雨のそぼ降る梅雨の時期、立体駐車場の片隅で私は初めて男の精液を口の中で受け止めた。