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H1904

「君のお母さん、なかなかきつい人だね」
螺旋状の階段を登りながら小声で耳打ちされた。まったくだ、と心の中で同意をする。何処の馬の骨ともわからぬ男を連れ込む私にも確かに非はあるが、年頃の娘の交友関係を根掘り葉掘り暴こうとしてくるのには、自分の親ながら過保護すぎて窒息しそうになる。
「さすがに部屋の中には入ってこないと思うけどね、まあ楽にしてよ」
後ろ手に部屋の扉を閉め、客人に座るよう促した。緊張した面持ちの青年がベッドの端に腰をかけるのを確認したあと、自分もその隣に座りしげしげと彼を観察する。がっしりとした体型に髪を短く刈り上げ、体育会系そのものといった風貌で、こんがりと日焼けした肌には玉のような汗をいくつもかいていた。
「ごめんね、この部屋空調なくて暑いでしょ?」
「あ、全然平気だよ」
「そっか」
その先の言葉を待ったが、青年は突然壁の染みに興味を持った様子で沈黙してしまった。会話が途切れたのならそれで良い、今からすることに言葉なんていらない。そう考えながらおもむろに右手を相手の太ももに乗せてみる。ふと目線を落とすと、青年のジーンズの前が盛り上がっていることに気がついた。
「…しないの?」
相変わらず一点を見つめたまま、微動だにしない。
「苦しそうだから、出してあげるね」
返事を待たずに前に回り込みベルトを緩めると、顔に似つかわしくないファンシーな下着が顔を出した。あっという間にそれも脱がし、はち切れんばかりに勃起したものと対面する。酸味のある汗の匂いと濃厚な恥垢の匂いがするそれの先端はすでに充分に湿り、てかてかと光っていた。頬の内側がじんわりと痛み、口の中に唾液が溜まっていく。ゆっくりと唇を開きそのご馳走にありつこうとしたその時、
「……何しているの」
扉の隙間から覗く怯えた目を捉え、私たちは凍りついた。

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