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指す将順位戦8th自戦記 B級2組 7回戦 (vs たろいも6級[995])

今期もいよいよ後半戦に突入。
対戦相手は前期と同じく全員初手合だが、そもそも指す順初参加の方もチラホラ見られる。
この一期一会に合わせて自分の将棋も拡張していきたい。


【対局前】

◇対局相手の印象

居飛車党
居飛車を指す割合が多いが、純粋居飛車党ではなくたまに振り飛車も採用している印象。
相居飛車の場合は横歩取り角換わりの本筋から少し逸れた将棋、対抗形の場合は右四間飛車を好んでおり、棋風は攻め将棋に見える。
また熟練の観る将であり、アマチュア大会の配信にもコメントを残しているのを見かけたこともある。なのであらゆる戦法に精通していそうで本局何が飛び出すかは予想出来ない。

◇対戦成績

初手合
たろいも6級は今期が初参加。

◇事前準備

オールラウンダー気質のプレイヤーに対してはこちらから注文をつけにいくことが多かったが、本局はあえて普段の自分の将棋で迎え撃ってみようと思う。
その上で最有力の戦法はしっかりと対策しておく。

 [▲先手番]

こちらが先手番の場合は横歩取りになる可能性が高い。
再びやさい式相掛かりで勝負するのも良いが、本局は純粋に横歩を取ってみようと思う。

横歩取り使いとの対局は前期もあり、そのときも通常の横歩取りにしようか迷ったが、マイナー戦法のタイムアドバンテージが秒読みルールでどこまで通用するのかを知るためにやさい式相掛かりを選択した。

本局は逆に王道の指しまわしでの風当たりを体感してみたい。
やさい式相掛かりで先手が面白くなさそうな変化が見つかったことも大きい。(追記:その変化自体は先手の指し手を変えることで解決しました)

たろいも6級の棋譜を見たところ4四角戦法をよく指していることがわかったのでそこは重点的に対策しておく。


想定局面①

【追記】
感想戦でnaokiさんから

ntkwmk > 25手目角打ちまでは本で見たことありましたけど
ntkwmk > これってどこまで定跡なんですかね?

とご質問をいただいたのでその後の展開が載っている動画を私の知る限りで以下に挙げさせてもらう。
4四角戦法そのものやその対策を知りたい方は大変勉強になるので是非参考にしていただきたい。

(↑この配信では▲7五角打はかなり後半に出てくるので時間がない方はそこから見ても勉強になると思います(4時間8分辺りから))

他にもJack氏の動画があって、私はそこで知ったのだが現在は削除されてしまっていた……。

Pen_light(非公開)、行雲流水(削除)、魚屋(削除)と将棋研究系のブログや動画が削除されていると悲しくなる。
後世のために残しておいてくれても良いのよ??


 [△後手番]

こちらが後手番の場合は角換わりを受けることになる可能性が最も高い。
たろいも6級の棋譜では旧型右四間飛車を狙う指し形がよく指されていたので最低限対策しておく。

想定局面②
▲4五歩を突く形は▲4五桂を消してしまっており先手からの仕掛けが難しい。
▲4六角を設置する形も千日手になりやすい。


~対局前まとめ~

先手番横歩取り4四角戦法を堂々と迎え撃つ。
後手番角換わりで千日手を狙って先手番に繋げるか、無理に動いてきたところを咎める。
実際それ以外の戦法をここで使われる可能性も全然あるのでそのときは出たとこ勝負。ゆかなか竜王戦は基本的にこのスタイルなのだが、指す順で有効かどうか、もしそうなったら試してみたい。




【対局開始ッ!】

先手:SaisokuAmanogawa(1521)
後手:* Taroimo(1450)

↓対局の棋譜と一手ごとの振り返りは下記のリンクからどうぞ!!

https://shogi.io/kifus/257330







【対局後】

 【急所の局面】(44手目△2六飛まで)


[基本図]

本譜はここで▲2七歩と飛車成りを防いだが、ここで▲8五桂という好手があった。

以下手が広いが、攻め合いの手から順番に見ていこう。

まず本譜防いだ飛車成りにはどう指すのか。

[基本図]以下 ▲8五桂 △2八飛成 ▲7三桂不成 △3九成香 ▲6一桂成 △同玉 ▲7三桂 △5二玉 ▲7一龍 △4九成香 ▲6九玉 △3四歩 ▲4一金 →[結果図A]

[結果図A]

▲7三桂不成が狙いの一手で、金を避けると龍で銀を取られるので対処が難しい。
飛車を成ったからには攻め合うがもう一度▲7三桂と打ってやはりこれが厳しい。

△5二玉に代えて△6二玉の方が一見受けに利いていそうだが、以下▲7一龍△同玉▲6一金△8二玉▲8三銀△7三玉▲7四馬まででピッタリ詰みとなる。

なので△5二玉で一手余裕を作って△4九成香と攻めるが▲6九玉と避けて何もない。
逃げ道を作るなら△3四歩くらいだが冷静に▲4一金と縛っておいて、[結果図A]以降は王手ラッシュしか手がなく先手勝ち

つまり飛車成りは防ぐ必要はなかったのだ。

では飛車を成らずに△2八成香と第二の手段で攻め合うのはどうか。

[基本図]以下 ▲8五桂 △2八成香 ▲7三桂不成 △3八成香 ▲6一桂成 △同玉 ▲7三桂 △5二玉 ▲7一龍 △4九成香 ▲6九玉 →[結果図B]

[結果図B]

△2八成香に対しても同じように▲7三桂不成→▲6一桂成△同玉▲7三桂で桂馬の方が早い。

後手目線での[結果図A]との違いは銀を手にしていることと飛車が先手陣の上部に通っていることで、[結果図B]の方が条件が良さそうに見えるが実際はこれでも先手玉が寄ることはない。
そもそも持ち駒が少ない上に先手陣が広く馬も手厚いのでどうしようもない。
[結果図B]以下△3四歩にはやはり▲4一金の縛りで先手勝ち


純粋な攻め合いでは後手に勝ち目はないようだ。

次は受けの手を見ていく。

[結果図A][結果図B]と見て▲7三桂不成が強力だとわかったのでそれを受ける△6二銀にはどうするか。


[基本図]以下 ▲8五桂 △6二銀 ▲7三桂成 △同銀 ▲8三馬 △6二玉 ▲6一龍 △同玉 ▲7三馬 △6二桂 ▲7四桂 △5二飛 ▲6二桂成 △同飛 ▲7四桂 → [結果図C]

[結果図C]

△6二銀に▲7三桂不成は△7一金が少し気になる。以下▲9一龍で悪くはないが、決めきるなら△6二銀に▲7三桂成と今度は成ってしまうのが良い。
仮に▲7三桂成に△7一金は▲6二成桂△同玉▲7四桂 △5二玉▲7一龍で必至

よって△7三同銀と取るが▲8三馬が銀取りを見せた追撃。以下△6二銀と取られそうな銀を引くのは▲7二馬で、龍が玉を睨んでいるので△同金とは取れない。
よって▲7三馬と▲7二馬を同時に受けようと△6二玉とするが▲6一龍と龍を切って△同玉▲7三馬が強引な決め手。
簡単な詰めろだが、後手の持ち駒が桂馬と飛車で受けに適していない。あとは上記の通りに進んで[結果図C]まで粘るがいよいよ手段が尽き この変化も先手勝ち

ちなみに同じく受けの手として▲8五桂に△6二玉も考えられるが、▲8三桂で、△8二銀には▲同龍、それ以外には▲7一桂成でやはり先手勝ちになる。


攻めても受けてもダメとなると、残る希望は攻防手。
最後に2つの攻防手を見ていきたい。

まずは△2五飛と飛車を引く手。
▲7三桂不成に△6五飛と馬を取って攻撃防御共に大幅な戦力ダウンを狙う、攻めでもあり受けでもある手。


[基本図]以下 ▲8五桂 △2五飛 ▲5五桂 △6二玉 ▲7三桂成 △同玉 ▲8三龍 △6二玉 ▲6三龍 △5一玉 ▲4三桂不成 △4二玉 ▲3一桂成 →[結果図D]

[結果図D]

△2五飛には▲7三桂不成でも実は良いのだが、代えて▲5五桂の方がわかりやすい。
馬取りを防ぎつつ攻めにも利いてている攻防手返しだ。
6三も7三も弱いのでそこを補強しようと△6二玉と受けるがそれでも▲7三桂成で、△同玉に▲8三龍△6二玉▲6三龍が押せ押せの進行。馬と桂馬の利きで龍を取ることが出来ない。
金銀も低く玉も下段にいる場合は桂不成が強く、[結果図D]は馬には龍の紐が突いており、次に▲6一龍と▲3二成桂の2つの狙いがありどちらかは必ず通る形なので後手は収集がつかず これは先手勝勢だろう。


最後は▲8五桂に△8六飛という攻防手。
実はこれがソフト最善手で、飛車成りから左右挟撃態勢を整えつつ、▲7三桂不成の攻めには△8一飛▲同桂成△6二銀を用意している。

これに対して先手は2つの進行を選べるので順番に見ていく。

[基本図]以下 ▲8五桂 △8六飛 ▲8七歩 △8五飛 ▲同龍 △2八成香 ▲5五桂 △3八成香 ▲同金 →[結果図E-1]

[結果図E-1]

一つは▲8七歩と飛車成りの方を受けてしまう手。
ここで△2六飛と戻るのは先手に歩を打たせただけになってしまうので▲7三桂不成として良い。2八に飛車を成られても成香が来ても問題ないことは[結果図A][結果図B]で確認した通りだ。

とはいえ飛車が逃げられる場所がないので△8五飛と桂馬を取ってしまう。[結果図E-1]まで進んだ局面は非常に手が広く研究しにくい。
評価値的には先手大優勢で、局面を見ても先手が悪い道理はないが△2六桂やから嫌みをつけられたり△7四銀のような手をどう見るか。


[基本図]以下 ▲8五桂 △8六飛 ▲5五桂 △8九飛成 ▲6三桂不成 △4二玉 ▲6九金
→[途中図E-2-a]

[途中図E-2-a]

もう一つは△8六飛に▲5五桂と攻め合ってしまう手もある。

△8九飛成には▲6三桂不成と王手してから▲6九金と引くと急に堅くなる。
[結果図E-1]と違うのは、後手は△2八成香→△3八成香が入っていないので持ち駒がなく、その分先手としては手が読みやすいというところだ。
[途中図E-2-a]以下△3四歩と退路を作るのは▲7一桂成△5二金▲7二成桂△3三玉▲6六馬△2四玉が一例でやはり後手は持ち駒がない。

そうなると、[途中図E-2-a]から△2八成香と持ち駒を求めて攻める展開はどうなるのか気になるのでもう少し進めてみよう。

[途中図E-2-a]以下 △2八成香 ▲7一桂成 △3八成香 ▲6一成桂 △4九成香 ▲同玉 →[結果図E-2-a]

[結果図E-2-a]

△2八成香には全く受けずに▲7一桂成から攻め合って大丈夫
[結果図E-2-a]以下は▲7二龍と王手しつつ桂馬を手に入れて、△3三玉と逃げるのは▲5五馬△4四X▲4五桂と早速桂馬を使って攻めを繋げるのが有効で先手勝ち

▲8五桂△8六飛▲5五桂の攻め合いに△8九飛成と指したのがこの変化だが、では飛車を成る前に△2八成香を入れれば駒補充が間に合うだろうか?
検討してみよう!


[基本図]以下 ▲8五桂 △8六飛 ▲5五桂 △2八成香 ▲6三桂不成 △4二玉 ▲7一桂成 △3八成香 ▲6一成桂 △4九成香 ▲同玉 
→[結果図E-2-b]

[結果図E-2-b]

飛車成りの前に△2八成香に対しても完全に無視して▲7一桂成からの攻め合いで問題ない
[結果図E-2-b]以下△3四歩にも[結果図E-2-a]と同じように▲7二龍(あるいは▲5五馬△4四X▲7二龍。意味としてはほぼ同じだが一応▲5五馬が先だと△4四歩の場合▲同馬が必至になるという効果はある。bでなくてaの進行でも使える。ここはお好みでどうぞ。)で桂馬を手に入れて同じ筋で先手が勝ちになる。

このように▲8五桂△8六飛にはE-1の変化とE-2の変化が選べるが、個人的にはE-2の方がわかりやすくて好みの展開だ。


以上の変化は、研究が外れた局面と最善手の延長で接続するので、そのまま研究範囲の拡張として利用できる。

本局をきっかけに深くまで知見を広げ 新しい手筋を知ることができ、非常に勉強になった。


◇本局を振り返って

横歩取りの研究がぶっ刺さってその優位を保ったまま勝ちきるという 自分の理想としている将棋を指せた。
終盤だけ少し陰りがあったが……形勢自体は常にプラスのまま終局まで運ぶことができた。
マイナー戦法は多少の評価値を犠牲に大幅に持ち時間を削れるのでやる価値あり、と今まで考えていたが、本局王道の横歩取りでやさい式相掛かりの将棋よりもっと持ち時間の差が開いたのは予想外だった。
これは今後の将棋の作りに影響を与えそうな……。

◇最後に

相手が戦法を変えたくなるほど完膚なきまでに勝利して、それを繰り返して 全人類正統派居飛車党計画!みたいなことを冗談で考えていたら この将棋がたろいも6級の戦型選択に影響を与え始めたようでちょっとドキドキしてます。
プロの将棋はほぼ全員全ての戦型を高いレベルで指せるのが前提で、だからこそ未解明の課題局面をぶつけるというのを繰り返しているのだと思いますが、私の棋力帯だと一つの指し方を押し進めている相手に対してどう正解手順を突きつけるか という戦い方になるのでそこが性質の違うところですね。
これが居飛車だと結構感覚掴めてるんですが、振り飛車に対して、なんというか マウントの取り方(?)がまだわからないので(単純に評価値が悪かったら萎えるという質でもないと思うので)その辺りの感覚を磨いていきたいと思っています。
特に今期は振り飛車党とあたる機会が多いので頑張ります。それじゃあ。

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