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花の名前、黒酢の煮込み

「この花は?」
「ヒメキンギョソウ、だったかな」
「いい香りだねぇ」
「あそこにテイカカズラが咲いているんだわ」

出掛け先の駐車場から目的地までの道、愛犬との散歩道。
聞く父と答える母がゆっくりと歩く光景は度々で、子どもの足で追いかけていた後ろ姿をいまだに時々思い出す。

幼い私にはそのやり取りが、日常のなんてことない端っこからこの世界を解き明かしていくような、魅力的な秘密のメソッドのように見えた。

そんな両親に憧れたのだろう私は、登下校の道すがら見つけた草花を調べては名前を覚えることをはじめた。
ヒメオドリコソウやらセイタカアワダチソウやら、見つけては「あ、あれは!」と悦に入っていたこともよく覚えている。

花の名前やその香り、鳥の声、月の満ち欠け。

昨日と変わらない今日として過ごしてしまいそうだけど、感度を上げ、知識や経験につなげることは、日常の解像度を上げて豊かにしてくれる。
そんなことを身をもって感じられる環境で育ったのは幸運だったのだなと、いまさらながら思う。

その教えは私の中に生きていて、時々近所のスーパーでひとり遊びをすることがある。
いつもと売り場の回り方を逆にしたり、普段は通り過ぎる棚をじっくり見たり。日々当たり前に通う場所でも、商品や棚の作り方など何かしらの発見がある。
遠くに旅したり、新しく人と知り合ったりすることはもちろん大きな刺激になるけれど、こんなことだって立派なインプットだと、草花の名前からスタートした私は思うのだ。

そこで「黒酢で料理をしてみよう」と思いついた。世界の解像度を1つあげてみる試みだ。

餃子を食べたりアジアごはんの味変には少し使うけど、がっつり使ったことのないあいつ。
調味料棚で端に追いやられがちな、でも無くなるとまた買ってしまうあいつ。

バルサミコのイメージで、煮詰めてみたらどうだろう。
煮込みに使ってみることで、あいつの解像度を上げにいってみることにした。


▶︎手羽元とごぼうの黒酢煮込み

塩した手羽元を色よく炒めたら、酒を多めに入れ、黒酢、醤油、砂糖、生姜、八角、ひたひたになるくらいの水を加える。ぶつ切りにしたごぼうと葱、ゆで玉子を入れ、一度沸いたら弱火にしてふつふつと。
手羽元を好みのやわらかさまで煮たら具材を取り出して盛りつけ、煮汁は煮詰めて仕上げにまわしかける。


いやはや。なぜ今まであまり使わなかったのか。
煮詰めることで甘みが出て、八角の風味と素直にリンクするじゃない。黒酢、やるな。
火を入れずとも活用できそうなアイディアも、ぽこぽこと浮かんできたぞ。


情報過多と言われる世界を生きているけれど、どんな情報で自分の世界を彩るかは自分で選べる。 私はまだまだ草花の名前を知りたいし、手持ちの調味料を新しい方法で使ってみたい。

そんなふうにしてできていくお気に入りの世界で、できるだけご機嫌に過ごすため、今日もきょろきょろうろうろしています。


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