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詩誌「三」70号掲載【窓】石山絵里

朝起きて、窓を開ける。ガラスにうっすら映った眠たそうな顔。今日の寝ぐせはいつもより少しマシ。私の一日が始まる。その日の風は雨の匂いがかすかにした。梅雨がくる。向こう三日間、雨が続くらしい。いつも同じようでいて、少しずつ変わる景色。空の色は刻々と変わり、鳥の群れや鳴く声が遠ざかっていく。古い家が壊され、庭先のアサガオの本葉は日々増していく。この家に住み始めて十五年が経つ。何千回と開けてきたこの窓。遠い日。初めてこの窓を開けた日。目の前の景色は今とはまるで違っていた。この町に来た日。今の私。これから見る世界。私はこれから何を感じ、何を見ていくのだろう。雨の匂いの中に、土の匂いが混ざっている。そこに春の気配はもうない。雨が降り始める。窓から身を乗り出し、手をのばす。空から降りてきた雨粒が、私の手のひらに届く。アスファルトの色が、しだいに濃くなっていく。

2023年6月 三70号 石山絵里 作

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