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詩誌「三」74号掲載【世界の終末とチリトマト】正村直子
世界終末時計が残り九十秒だと伝えるニュー
スを聞いたとき、わたしはカップヌードルチ
リトマトの三分を待っていた(正確にはタイ
マーが残り二分十八秒を示していた。)。チリ
トマトを食べる前に、世界は終末を迎えるら
しい。もちろん、そんなわけはない。そんな
わけはないけれど。急いで誰かに電話で愛を
伝えようか。三分を待たずにチリトマトを食
べようか。ペンをもってメッセージを残そう
か。「戦争をやめて」「さよなら」あるいは、
「チリトマト」。
箸でおさえたカップ麺の蓋がほんの少しめく
れて、熱い湯気が漏れていた。スパイスとト
マトとジャンクな香り。タイマーをちらりと
見ると残り九十秒。さあ、どうやって生きよ
う。
2024年6月 三74号 正村直子 作
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