詩誌「三」66号掲載【いつかの夏】正村直子
太陽に焼かれたプールバッグはじんと熱くて
汗ばんだ肌に砂がはりついてちらちら光った
いつかの夏
いい子でもわるい子でもふつうの子でもなく
「なんでもない子」だったから
なんだかいつもポツンとしていた
バイバイを言ったのにあの子は振り返ってくれなくて
夏休みが終わるのがすこしこわい
雲のない空のうんと高いところまでいけば
生きられないほど寒いと先生は言っていた
ああ かき氷が食べたい
真っ白の日傘をさして
ピスタチオカラーに塗った爪先にサンダル
日焼け止めを塗りこんだ肌はべたついている
バイバイと気軽に言うだれかは少なくなって
夏休みはなくともどこへでも行けるのに私は
「なんでもない私」のまま
いつかの夏にポツンと立っている
遠いアスファルトの蜃気楼
逃げ場のない太陽のした
ああ かき氷が食べたい
2022年6月 三66号 正村直子 作
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