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幾何学模様の向う側

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2014年4月の記事一覧

青い海と赤い屋根

 気分が良い、今私は自由になった。まるで両腕が翼に なった様だ。このまま丘を走り続ければ、風に乗って空 へ飛び立てる気がした。そう、そんな感じに気分が良い のだ。  全速力で走り続ける。こんなに走ったのは何年振りだ ろう。視界がこんなに狭くなって、耳にかかる風がこん なに強いだなんて初めて気がついた。  今日は良い日だ。天気も良いし、季節を考えると随分 暖かい。心が軽くなる。身体も思った以上に動く。今日 は良い日だ。  なんてやっている場合じゃなかった。そう、私は絵を 書きに

スケッチブックに浮かぶ自転車

 電車に乗るまでの道が、こんなに長いだなんて、私は 初めて実感したかもしれない。右手に持ったニ脚の折り 畳み椅子が肘を伸ばし、堅くなった指ごと腕を持ってい って仕舞いそうになる。左肩には、スケッチブックと絵 の具。画材も私の肩を壊す気満々の様だ。  でも、私はこんな逆境に負ける訳にはいかない。今日 は諸手を振って、あの場所にまた行けるんだから。  朝、目を覚ますと、ベッドの横には動き始める直前の 目覚まし時計が私を見つめていた。威張り散らした様に 仁王立ちしている目覚まし時

太陽がのぼる街

 街頭の下に座り、道行く人々を見続ける。特別な目的は一つも無かったが、人を見るという行為そのものが、一つの目的だった。それほどまでに、此処には何も無かった。  人の話に耳を傾け、人の営みに目を配る。何もする事は無かったが、それだけでも、楽しむ事は出来た。ただ残念でならないのが、それ位しか楽しむ物が無いという事だろう。  街頭が街を照らし出してから何時間経っただろうか。太陽の代わりをしていたネオン達も、気が付けば半分以上が自己主張を止め、眠りについていた。 「潮時かな」