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CDO CLUB JAPAN×SAMURAI INCUBATE 第2回オンラインセミナー「不確実性時代のイノベーションを生み出す組織づくり」レポート

2020年9月17日、世界のデジタルリーダーが集まるコミュニティを運営する一般社団法人CDO Club Japanと国内外における様々な企業のイノベーションへの取り組みを支援する株式会社サムライインキュベートの共催により、オンラインセミナー「不確実性時代のイノベーションを生み出す組織づくり」が開催された。今回は、その概要をイベントレポートの形で一部抜粋してお伝えする。

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【第一部】アフターコロナ時代のイノベーション企業とは

まず、第一部では、「アフターコロナ時代のイノベーション企業とは」というテーマで、一般社団法人CDO Club Japan 代表理事 加茂​ 純氏と株式会社サムライインキュベート 代表取締役 榊原 健太郎氏による対談が行われた。モデレーターを務めたのは、株式会社サムライインキュベートの武田 理沙氏。

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登壇者のプロフィールは下記の通り。

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加茂 純 一般社団法人CDO Club Japan 代表理事 CDO Club Japan 代表&創立者
東京大学理学部情報科学科卒・イリノイ大学大学院アーバナシャンペーン校コンピュータサイエンス学科AI専攻修士。電通に入社し、インテル、マイクロソフト、アップルコンピュータの日本進出と事業拡大戦略を担当。「インテル入ってる」「Intel Inside」グローバルキャンペーン戦略の成功。電通退社後、セコイアキャピタルにて、Googleを生み出したマイケルモリッツ氏、LinkedInを生み出したマーククワミ氏、Facebookを生み出したマークアンドリーセン氏からの投資により、シリコンバレーにて、米HarmonicCommunications社を創業、アジアパシフィック地域統括担当副社長、日本支社長(1999-2003)。主な出版:「CMOマーケティング最高責任者」「刺さる広告」「企業の遺伝子は進化する」「インドビジネスのルール」「P&G 伝説のGMOが教えてくれたマーケティングに大切なこと」他多数

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榊原 健太郎 株式会社サムライインキュベート 代表取締役
1974年、名古屋生まれ。関西大学卒業後、日本光電工業、アクシブドットコム(現 VOYAGE GROUP)、インピリック電通(現 電通ダイレクトソリューションズ)を経て、2008年にサムライインキュベートを設立。2009年にファンドを組成し、創業期の起業家を中心に出資・成長支援をするVC事業をスタート。2014年に日本初のインキュベーターとしてイスラエルへ移住しブランチを開設。2018年にはアフリカ大陸拠点の子会社を設立。現在累計180社以上のスタートアップへ出資・成長支援を行う。

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武田 理沙 株式会社サムライインキュベート Manager
2014年専門商社に入社後、西南アジア地域向けの海外営業を経験。2016年末からは同地域での新規事業立ち上げ・投資業務に従事し、主に現地でのデューデリジェンスや現地企業との交渉を行う。2018年よりサムライインキュベートへ参画。大手企業の新規事業立ち上げ支援やオープンイノベーションプログラムの企画・運営に従事するほか、中国・深センのピッチプログラムやイスラエル等海外事業も担当し、技術探索・ソーシング・PoCなど海外スタートアップと大手企業の協業支援を行う。

CDOの役割とは?

まず、「CDOの役割とは何か」という武田氏の問いかけに対して、「CDOとは、Chief Digital Officer(チーフ・デジタル・オフィサー)もしくはChief Data Officer(チーフ・データ・オフィサー)を意味し、デジタル時代におけるイノベーションを生み出すための新たな専門職の一つと捉えることができる」と加茂氏は回答した。

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この見解を踏まえ、榊原氏は、「ビジネス上の課題を“より早く・安く・簡単に”解決するために、大企業とスタートアップを有機的に結びつけるような役割がCDOに求められてきている」と補足した。

次に、「日本企業を取り巻く経営環境とイノベーションへの取り組み」について議論が展開された。

榊原氏は、「データの活用以前に、Zoom、Slack、Gmail、Dropbox、Facebookといったコミュニケーションツールを社内に導入することで、全社員の脳内データをリアルタイムで可視化することがまずは重要」「面倒臭くて非効率な作業を簡単にすることがイノベーションの創出につながる」「デジタル庁が新設されたことで、今後、デジタル化が一気に加速する可能性がある」と発言した。

加茂氏は、自身のセコイアキャピタル在籍時の経験等を振り返りながら、「シリコンバレーでは、ある種、“異常”で“型破り”な人材によってイノベーションが生み出されてきたという歴史がある。人材の均質性を重視する日本企業から今後果たしてイノベーションが生まれてくるのかということに対して大きな危機感を個人的に抱いている」「第一線で活躍するCDOの間では、“DXの先”が議論され始めている。気候変動の問題も考慮しながら、‘’何のためにDXするのか”を考えることがますます求められる」と主張した。

この発言を受けて、榊原氏は、「DXを通じて、自身の人生そのものをより良くすることを意識すべき」「イスラエルでは、どんなに忙しい起業家でも17時には帰宅し、家族との時間を大切にしている。DXで業務を効率化するだけでなく、家族視点/地球視点を持って、自分や家族の人生をより良くすべき」と述べた。

この点について、加茂氏は榊原氏の意見に同意を示した上で、フランスに本拠を置く多国籍企業・ダノンが上場企業として世界で初めて株主価値の持続的向上と環境・社会課題解決の両立を定款に明記することを決定した事例を引き合いに出しながら、「SDGs的な視点を持って、地球規模の課題解決に取り組む姿勢を示すことがあらゆる企業に求められるようになるだろう」という見解を明らかにした。

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さらに、榊原氏は、「家族視点を持ちながらDXを推進することは女性活躍推進にもつながる」と主張する。この点について、サムライインキュベートでアフリカ投資を担当する武田氏は、アフリカで女性起業家が増えている事実に言及した上で、「日本で女性起業家を増やすにはどのような方法が考えられるか」という質問を投げかけた。

これに対して、榊原氏は、ミネルバ大学の事例を引用しつつ、「ある種、“クレイジー”で“破天荒”な女性の先生に生徒達を触れさせてあげることが第一歩」「人々の頭の中の固定概念を塗り替えるために、教育システムから根本的に変革する必要があるのかもしれない」と述べた。

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最後に、武田氏は、「イノベーションというのは必ずしも難しいことではなく、当たり前に変えるべきことを変えていくことから始まる。今後、我々もその推進をより一層サポートしていきたい」と述べ、対談を締めくくった。

【第二部】イノベーション組織への変革への壁と対処策とは?

続いて、「イノベーション組織への変革への壁と対処策とは?」というテーマで、一般社団法人CDO Club Japan 理事・事務総長 水上 晃氏と株式会社サムライインキュベート 執行役員 Enterprise Group 成瀬 功一氏の対談が行われた。

登壇者のプロフィールは下記の通り。

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水上 晃 一般社団法人CDO Club Japan 理事・事務総長
大手外資系コンサルティングファームにてIT・情報産業の戦略コンサルタントならびにデジタル分野のテクノロジーコンサルタントとして一線で活躍した後に、最高デジタル責任者のコミュニティの運営チームとしてCDO Clubに参画。同社以外でもデジタル分野のスタートアップの支援や自身でもデジタル分野の事業を複数運営

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成瀬 功一 株式会社サムライインキュベート Partner Enterprise Group
1985年生まれ、愛知県出身。2010年にメガベンチャーへ入社しメディア事業立上げ等に従事。その後、2013年に外資系コンサルティング会社へ移り、大企業の経営戦略やイノベーション、欧米スタートアップとのオープンイノベーション等に関わるプロジェクトを多数経験。並行し、2013年より、日本の複数スタートアップに対するインキュベーションを実施。2018年よりサムライインキュベートに参画。
ベンチャーキャピタルのナレッジ・ネットワークを融合した、新たな大企業イノベーションモデルを開発し、グローバルで展開している。

対談は、3つのテーマ「よくある失敗している企業の症例」「なぜイノベーションは失敗するのか」「解決のための糸口とは?」を中心に展開された。

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テーマ1:よくある失敗している企業の症例

まず、「よくある失敗している企業の症例」について議論が展開された。成瀬氏は、大手企業の新規事業を数多く支援してきた自身のこれまでの経験を踏まえ、「新規事業が失敗する場合、以下の4つの原因が主に考えられる」と言及した。

1. 新規事業を検討する際に生まれてくるアイデアが抽象的なレベルにとどまっている
2. 意思決定のスピードが遅い。また、プロセスについても従来型の方法に固執してしまっている
3. 担当者が人事ローテーションにハマってしまい、長期的な目線を持ちづらい
4. そもそも、十分なリソースを投入できていない

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テーマ2:なぜイノベーションが失敗するのか

次に、「なぜイノベーションが失敗するのか」について議論が展開された。成瀬氏からは、「自己満足な技術検証に取り組むだけで満足してしまっている」「イノベーションのタネはあるものの、芽が出ていないケースが非常に多い」「経営層のイノベーションに対するスタンスを変えない限り、抜本的な改革は難しい」「場合によっては、社外で育てる方が早い可能性もある」という指摘がなされた。

この発言を踏まえ、水上氏は、「経営層に対する説明事項があまりに膨大であることが原因で、空想的なストーリーが作り上げられてしまい、結果、不確実性の高い要素が絡み合った実現性の乏しい事業プランが出来上がってしまう」「他の事業部と連携しようと試みても、彼らの立場からすれば、手伝ったからといって給料が上がるわけでも無く、平日夜の時間や土日を使ってまで新規事業を手伝うケースは多くない」「そもそも、働き方改革の観点から、土日に業務に取り組むことは現実的ではない。それゆえ大手企業の中で上手くいっているプロジェクトは、やや非公式な性質のものが多い」という実情を述べた。

テーマ3:解決のための糸口とは

最後に、「解決のための糸口とは」をテーマに議論が展開された。成瀬氏は、「まずは、社外で成果を出し、成功したら、それを社内で取り込む。そのプロセスを通じて、新しい価値を提供する人材を育成していくことが必要」「その一方で、飛び地を作ったものの、本当に単なる‘’遊び”で終わってしまっているケースも少なくない」「日本が変わっていくためには、新しい価値を創出し、社会を変えていくような人材が恒常的に生まれるための仕組みをつくることが重要」と主張した。

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水上氏は、上記の発言を踏まえた上で、「既存の枠組みを超えてイノベーションを創出していかなければ、企業としての中長期的な競争力を失ってしまうという危機感から、ラボ組織を設置する組織が増えている」「いきなり全部を変革しようとするのではなく、種火をつくりながら、徐々に進めていくという選択肢も考えられる」という見解を述べた。

補足:CDO Club Japanとサムライインキュベートでは、イノベーションを阻むボトルネックがどこに存在するかを把握するためのプログラムを提供している。

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会員であれば、診断は無料とのこと。CDO Club Japanの会員登録は下記のURLから行うことができる。

URL:https://cdoclub.jp/

【第三部】ディスカッション

第三部では、「イノベーションに積極的な日本企業」「不確実性時代のイノベーションを生み出す組織づくり」というテーマを中心に、ディスカッションが展開された。

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まず、「イノベーションに積極的な日本企業」が登壇者から紹介された。加茂氏は、「(CDO Club Japanの会員企業でもある)SOMPOホールディングスに関しては、CDOを務めている楢﨑 浩一氏の存在が非常に大きく、イノベーション推進の文脈において、傑出した企業の一つと言える」「また、経済同友会の代表でもある同社CEOの櫻田 謙悟氏は、多忙なスケジュールの中、世界中を飛び回り、パランティア社をはじめとする海外スタートアップと密接に連携している。この姿勢は多くの経営者が見習うべき」「その他、出光興産や資生堂などの動きについても要注目である」と語った。

榊原氏は、イスラエルやアフリカでビジネスを展開している自身の立場を踏まえつつ、「ダイキン工業、リクルート、武田薬品、楽天、KDDIといった企業についてはイノベーションに対する本気度を感じる機会が多い」「その中でも、ダイキン工業については、社内における大幅な権限委譲が進んでおり、インド市場において、現地に溶け込むことに完全に成功している」「その他、イスラエルでジョンソン・アンド・ジョンソンとアクセラレータープログラムを開催している武田薬品、自社の事業ドメインと無関係の技術に積極的に投資するリクルート、30年後を見据えた専門部署を設けているJT、フィンテックでファイナンシャルインクルージョンを起こすべくアフリカ市場を狙うマルイの動向等は注目に値する」と述べた。

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水上氏は、「Chief Innovation Officer(チーフ・イノベーション・オフィサー)という役職を新たに設置した味の素の動向に個人的に注目している」と語った。また、同氏によれば、富士フィルムでは、どの事業部もイノベーションを推進することができるユニークな仕組みが構築されているという。その上で、「イノベーションのチャレンジを博打にしないという考え方が重要であり、市場とのフィッティングを重視するという観点で、大企業がスタートアップと連携を模索する動きも最近では出てきている」と述べた。

不確実性時代のイノベーションを生み出す組織づくり

最後に、「不確実性時代のイノベーションを生み出す組織づくり」については、成瀬氏によれば、ある大手企業の中では、新規事業を立ち上げたい人材を社内で募集すると、30代の方々を中心に何百もの応募があるという。この事実をもとに、同氏は、「『今のままではいけない』『何かを変えなくてはいけない』と考える若手層は確実に増えており、今後、ボトムアップで変革が始まっていく兆しが現れてきている」と述べた。

最後に、榊原氏は、「米国と違い、日本においては、新卒で大企業に入社することが“カッコ良い”ことであるという価値観がまだまだ根強い。加えて、周りに起業している人や新規事業に取り組んでいる人も多くない。しかし、成瀬氏の話にもあったように、大企業の中には本当に数多くの優秀な人材がいる。そういった方々と連携しながら、我々としても、イノベーションを生み出す仕掛けをこれまで以上に増やしていく必要がある」と述べ、本イベントを締めくくった。

執筆者:勝木健太(かつき・けんた)
株式会社And Technologies代表取締役。1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング/有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたり、大手消費財メーカー向けの新規事業/デジタルマーケティング関連プロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。キャリア情報サイト「FIND CAREERS」を起点として、「転職Z」「英会話教室Z」「プログラミング教室Z」等の複数の情報サイトを運営。執筆協力実績として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』等がある。