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COP27開催国はエジプト:その背景

こんにちは!Emerging Countries Groupです!

新年早々、エジプトが2036年開催のオリンピックの候補地として立候補する準備を始めている、とのニュースが流れました。トルコ・インド・ウクライナなどの国々も開催への名乗りをあげる準備をしているようで、実際に申請が完了するまでどうなるかわかりませんが、アフリカ初の開催としてとても興味深いトピックです!

エジプトは、今年世界規模の大きなイベントを開催予定ですがご存知でしょうか?それはCOP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)です!

イギリス・グラスゴーで昨年11月に開催されたCOP26が閉幕した際、COP27はエジプトのシャルム・エル・シェイクという都市で開催されることが発表されました!

2016年にモロッコのマラケシュでCOP22が開催された5年後、同じ北アフリカのエジプトで再度このような国際的な会議が開催されるというのは、エジプト及びアフリカの存在感を示す為にも、非常に好ましいことです。しかし、実は本件に対しては批判的意見も挙げられています。
そこで今日は、日本ではなかなか報道されていないエジプトでCOP開催に対しての賛成意見と反対意見について、ご説明します。


1:民主的側面からの反対意見

まず、エジプトでこのような国際的な会議を開催することに対する民主的側面からの反対意見です。国際人権組織ヒューマンライツ・ウォッチはSisi大統領就任以降、エジプトの民主化が衰退していると度々批判してきました。

アラブの春以降、Sisi大統領は経済再建に力を入れており、実際エジプトの近年の経済成長は目を見張るものがあります。2019-2020はコロナ禍でも実質経済成長率3.6%を達成しました(IMF発表データ)。しかし、その一方で、デモや報道など言論の自由に関しては規制が進んでいます

例えば、2013年に10人以上のデモを政府の許可を得ずに実行することを禁止する法令が制定され、例え平和的なデモであったとしても、政府は参加者を拘束することができるようになっています。また、フォロワー5,000人以上のSNSアカウントは政府の規制対象であり、国内外で活動していたジャーナリストや活動家は、秘密裏に収監されているとも言われ、エコノミストが計測する民主主義指数も2020年に世界138位と2011年の115位から下がっています。

COP26では気候変動に対する様々な草の根運動が行われ、グレタ・トゥーンベリさんを始めとする環境活動家の活動も報道されました。

しかしこのように“言論の自由”が制限され、また“デモ活動”も禁止されているエジプトでのCOP 27開催では、今回のような草の根運動を行うことは難しく、“民衆の声”が排除される可能性が高い危険があります。

また、今回の開催地であるシャルム・エル・シェイクは首都カイロから離れたシナイ半島(図赤字三角形部分)にあり、物理的に移動が難しく、かつ歴史的背景から政府が出入りを厳重に管理している土地であるため、そもそも活動家が開催地に入り込むこと自体が難しい可能性があります。

このような民主主義指数が低い国で環境問題のような物議を醸す議論がなされるべきなのか?という点で人権団体などから批判を受けています。


2:環境的側面からの反対意見

環境的側面から見ても、エジプトはアフリカ第2位の天然ガス産出国で、2015年に天然ガス田を発見して以降、天然ガスへの依存を高めています。昨年も新たなガス田を採掘し、天然ガスの保有量は増えるばかりで、この豊富な天然ガスを活用すべく、海外への輸出だけでなく、国内に海外の石油化学産業からの投資を誘致し、プラスチック製造工場の建設などを進めています

同国は太陽光・風力発電の開発も進めていますが、これはあくまで“先進国からの投資”を前提としたものであり、自国のみで積極的に進めているものではありません。
更に、エジプトは2015年のパリ協定でNDC(国が決定する貢献)を提出しなかった数少ない国です。2020年にはNDCを提出したものの、具体的な数値目標や、活動計画などは何も記載されていません。
(COP26では2035年までに国内の発電量に占める再生可能エネルギー比率を42%にまで上げることを目標として発表しました。)
<参照: Egypt Today >

以上のような観点からエジプトがアフリカの代表として、COP27の開催国となるのは適切でないとの意見も挙げられています。
しかし、反対意見だけではなく、もちろんエジプトが開催国となることを賛成、支援する意見もあります。


3:環境的側面からの賛成意見

そもそも、地球温暖化対策に関しては先進国と一部新興国(特に中国・インド)を中心に議論が進められているのが現状ですが、実はアフリカ全体での温室効果ガス排出量は、全世界のわずか4%に過ぎず、地球温暖化の影響を一番受けているのはアフリカです。

エジプトはアフリカの中でも地球温暖化の影響を深刻に受けている国の一つであり、水不足と海面上昇は喫緊の課題です。

皆さんご存知の通り、エジプトは砂漠の国で、97%の人口(9,700万人)がナイル川沿いの国土のわずか8%の面積に暮らしています。
エジプトは90%の水源をナイル川に依存しており、エジプトにとってナイル川は”命の水”です。しかし、地球温暖化による干魃が原因で下流であるエジプトのナイル川の水域は年々下がっており、地中海からの海水の侵食も進んでいます。 

砂漠の国エジプトで耕作可能な土地は国土のわずか8%程度なため、干魃やナイル川の水量減少は、国民へダイレクトに影響を及ぼします
エジプトは世界で8番目に出生率が高く、人口は増加し続けており、30年後には1.9億人にまで増えると言われている中で、水源の確保は死活問題です。

また、エジプト北部の都市アレキサンドリアは、過去100年で11.3cm海面が上昇しており、地球の温度が4℃上昇すると、アレキサンドリアは海に沈むと言われています。(COP26で、英ボリス・ジョンソン首相のスピーチでも、気温上昇によって沈む可能性の高い都市として、マイアミ・上海・アレキサンドリアが挙げられました。)海面上昇問題により、アレキサンドリアでは2015年以降洪水などの水害が頻発しており、世界遺産の建造物の水没可能性も含め、深刻な問題となっています。

このような状況を踏まえて、先進国は2009年に、2020年までに官民で年間1,000億ドル(約11兆円)の途上国気候対策支援を実現すると約束しましたが、経済協力開発機構(OECD)によると、2019年時点までの支援額はわずか800億ドル弱と、先進国も自分たちで決めた約束を守れていないのが実情です。
(参照:https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/1104)

地球温暖化の影響を強く受けているアフリカ・エジプトでCOP 27を開催することは、アフリカを含む新興国への先進国の投資施策実行をプッシュし、アフリカでの再生可能エネルギー開発の支援を進めていく狙いがあります。

エジプト・シシ大統領も、ケニア・ケニヤッタ大統領も、COP 26でのスピーチで、先進国の責務について、明確にスピーチで発言していました。

新興国へ排出量を促す先進国と、自国の経済成長をスピードダウンしたくない新興国(インド・中国など)の構図が日本メディアではよく取り上げられていますが、視点を変えて見ると、新たな発見があるのではないでしょうか?

エジプトでのCOP27開催、引き続き注目していきます!