チキン&チップス

 1997年、イギリス・マンチェスターの郊外の田舎町にバーテンダーのパフォーマンスを学びに行った私は同じB&B(ベッド・アンド・ブレックファスト)に泊まり続けた。朝起きて、朝食をその宿でとり、近くの公園に練習をしに行って、昼はリンゴなどを食べてまた練習をしていた。

 夕食はというと、宿の近くにあったお店で「チキン&チップス」を頼むのが習慣になった。ロンドンではフィッシュ&チップスをよく食べていたが、ここではチキン&チップスが美味しかったのだ。その店は老夫婦でやっており、毎日行ったのでそのうち顔なじみになった。

 「どこから来たの?」「日本から」   
「ゲイシャ、フジサン」「よく知ってるね!すごい」
「名前は?」「ヒロヨシ」
「ヒロヨ…?」「じゃあ、ヒロでいいよ」

バーテンダーのパフォーマンスを学びに来たこと、10日くらいいる予定だということは伝わったと思うが、私の英語力だと怪しいものだった。

 明日ロンドンに戻るという夜、いつものようにチキン&チップスを食べてから、何気なく「明日帰るんだ」と言ったら「これ、プレゼント」と包装紙に包まれた小さな箱を渡された。「後で見てね」と言われ、宿に帰ってから開けてみると「HIRO」と掘られた金色のキーホルダーだった。

 カメラもない旅だったので25年も経つとほとんどの記憶は遠くへ行ってしまったが、今でもキーホルダーは金色に輝いている。

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