見出し画像

日本茶でショーをやろうと思った日

「お茶のショー?」
ピンとこない。何をするのかイメージできない。

 2013年の秋の日だった。
「トウキョウ」とオリンピック委員会の会長が放った言葉で2020年、東京でオリンピックの開催が決まった。
その時、反射的に「お茶でショーをしよう!」と思った。

 2005年から結婚式やイベントでカクテルを作るフレアバーテンダーを仕事にしていた私は、海外からの観光客が日本にやってくる2020年に日本茶でショーをすれば絶対に「ウケる」、そう確信していた。そもそも私は京都生まれで京都育ち、そして何より1997年より9年間、京都は宇治田原の茶名人の下でお茶を作っていたんだから。

 そこからの行動は早かった。どこの馬の骨かもわからないバーテンダーがお茶を淹れてもただの遊びにしか見えないので日本茶インストラクターの勉強を始め、2015年に資格を取得。報告に久しぶりに茶農家に挨拶に行った時にまたその茶畑で働きたいと伝え、茶生産の現場に戻った。これで、日本茶インストラクターが、お茶の生産をしている人間がお茶のショーをすることになり、ショーに重みが出る。茶畑の仕事は10年ほどブランクがあったが、その前9年間働いていたのですぐに勘が戻った。

 だが、インストラクターになって、茶摘みの現場に戻っても「お茶のショーって何をすればいいのか?」イメージがわかない。まずい。本当にまずい。どうしよう、どうしようと考える日々が続いた。

 ある日、いつものように私が行っている茶農家の玉露を飲みながら、ふと思った。
玉露は美味しいけれど、飲んだことない人が多いなぁ。
そもそも、いろんなお茶を飲む機会ってないなぁ。

 急須で淹れるいいお茶がどんどん減っていると言われている。
「お茶、渋いから好きじゃない」っていう人たちは多いけれど、それはいろんなお茶を飲んだ末の結論なんだろうか。

 お茶は嗜好品だから好き嫌いがあっていい。
でも一度、一度だけでも飲んでみてから判断してほしい。
まずはその機会を作るというのが大事なんじゃないか。

 見せるのが大事なんじゃない、飲んでもらうことが大事。
それに気づいてからはどんどんショーのアイデアが湧いてきた。

 それまでしっかりとしたショーを組み立てよう、どう見せようかしか考えてなかったけれど、まずは自分が飲んでもらいたいお茶を飲んでもらう。そこから始めればいいんじゃないか。

 初めて日本茶のショーをしたのが2015年の10月。「お茶でショーをしよう!」と思った日から2年経っていた。それからショーが徐々に進化していって、今もその途中だ。

 東京オリンピックの期間に海外からの人たちにお茶のショーをする機会は訪れなかったが、これからも多くの人に本物のお茶の味を伝えていこうと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?