結婚式とカクテルショー

 結婚式の披露宴は不思議な空間だ。招待された人は新郎か新婦はよく知っているが、後は会場にいるゲストが70人いたとしても知っている人は数人、多くても10人程度ではないだろうか。きれいな服を着て、きれいな会場で、美味しい料理を食べ、お祝いの言葉を主役の二人に伝えて帰る。非日常的な、こんなふわっとした空間を強い記憶に変えるのが私の役目だ。

 依頼する新郎新婦の二人の希望はただ一つ、「ゲストに楽しんでもらいたい」。

 そこでの私は限られた時間の中でそれまでの重い空気を一変させたり、あるいは単調な進行をドラマチックに盛り上げてみたり、とにかく難題を軽やかに解いていくことを求められる。

 ショーの仕事を始めた頃は「世界〇位だからとにかく技術をしっかり見せよう」としていた。が、初めて私を見る人にはそういうことはどうでもよく、その内大事なことは空気感だと気づいた。それから誰が何を求めているのかを気にするようになった。10年も過ぎると見えてても見えてないふりをすることも大事だとわかって、何がしたいかをちゃんと伝えられるかを意識するようになった。

 ショーを続けていくと、信じられないくらい盛り上がることがある。そういう時は「私じゃなくても、誰でもよかったんじゃないか」と思ったり、逆に見たことないような暗い雰囲気の中、自分が飛び出していかなければならない時には「OK、面白いじゃないか」とやる気に満ち溢れたり、私も一筋縄ではいかないなぁと半ば冷静にもう一人の自分がじっと見ているのを感じながら今はショーを行っている。

 「誰、あの人?」から始まって20分後には「来てくれてホント、ありがとう!」と言われる仕事、それが私がイメージする結婚式でのカクテルショーである。

https://cocktailshow.jp/

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