箕輪厚介氏炎上から考える「立場ヨワヨワなライターが身を守る術」

幻冬舎の有名編集者、箕輪厚介さんがライターのA子さんに不倫を迫ったりしつつ、肝心の原稿はお蔵入りになってビタ一文支払われなかったというなんとも辛い記事を読みました。

A子さん、箕輪氏にすごい企画を持ちかけられて嬉しかったし、相当頑張ったんでしょう。

最初はすごいもちあげられて、見城さんにも「凄いよ、君は」と言われ、箕輪氏にも「天才」とか言われ。エイベックス松浦氏の密着取材をこなし、2か月間必死に書いて10万字。

ところが急に「出版できない」。手のひらを返したように「全然伝わってこないし箇条書きみたいでストーリーになっていない」って。落差すごすぎ。出版できなくなったのは、著者である松浦氏の事情です。そのへんの詳しいことはここでは置いておきます。文春さんのを読んでください。

とにかく、この件についてA子さんは一円ももらえなったんですね。依頼された原稿を書いて、完成させたにもかかわらず。

箕輪氏にラブホテルに誘われたり、家におしかけられて触られたりしても、「この本を完成させるまでは編集者の機嫌を損ねてはならない」と明るく上手にかわして頑張ったのに。

ひどい。ひどすぎる。

当然、炎上しています。

箕輪はあやしいと思っていた!こんなケースはゴロゴロしている!とかA子さんもA子さんなんじゃないか、いやそんなこと言うのはライターの立場の弱さをわかっていないからだとかイロイロ言われているわけですが、「出版社の編集者とフリーのライターには圧倒的な力の差が構造的にある」のは確かなんですよね。

そして、多くの人が指摘しているとおり、出版業界の慣習みたいなもので、本ができてから契約書をかわすことがほとんどです。

契約書を作ってから「じゃあ仕事をはじめましょう」じゃないのね。原稿作った後に「やっぱり本にならなかったのでお金支払いません」って、ちょっとちょっと~!そりゃないでしょう!って驚きのことが、全然ありうる業界なのね。

この慣習自体、どうにかしてほしいよね。それはそうとして、ライター自身が身を守る術も考えなきゃなりません。

A子さんのこのケースが特殊なわけじゃなく、やっぱりゴロゴロしていると思うのです。私もライターを10年以上やっていて、自分自身の経験もあるし相談されたことも数知れず。

立場ヨワヨワなライターが身を守る術

1.法律面

仕事にとりかかる前に、契約書をお願いしてみましょう。「うち、そういうのやっていないんで」と断られる場合が多いかもしれませんが、「はい、わかりました」という出版社もあります。

これは『ライターはいくら稼げるのか?』にも書いたことですが、「契約書を作って、半金を前払いでお願いします」と言ったら「わかりました」と言ってその通りにしてくれた出版社もありましたよ!「契約書は作ったことないので、小川さん作ってくれますか?」と言われて、私がイチから作りました。その後、毎回その契約書を使っていました。

カチっとした契約書でなくても、メールに金額と納期を書いてもらいましょう。口約束だとあとでなかったことにされる危険性があるので。

2.キャッシュフロー面

これもまた『ライターはいくら稼げるのか?』に書いたことですが、書籍のライティングはとにかくキャッシュフローが悪くなります。本を一冊作るのに、打ち合わせから半年くらいはかかります。原稿を書いている間はお金が入ってこなくて、無事出版になったら支払われるのです。出版社によっては、出版月の2か月後とか半年後とかいう場合もあります。その間、どうやって生活をしたらいいのでしょうか?

そこで私はビジネス書のライティングでは著者さんから一定の金額を前払いでもらって、増刷がかかったらまた印税をもらうというような契約でやっていました。これはまあ、ちょっと特殊かもしれません。最近は著者さんからの依頼ではなく出版社からの依頼で仕事を受けることが多くて、その場合は前払いは難しいですね。基本的に出版社はそんなリスクはとれないので、前払いはしない。でも、著者さんからの依頼で書くときは、著者さんに保証してもらっています。

書籍の印税、原稿料だけでキャッシュフローをまわしてくのはなかなか大変ですから、他の媒体も含めてポートフォリオを組んでおくことです。

長くなってしまうので、ここにはあまり詳しく書きませんが、ライター自身が電子書籍を出しておくのはおすすめです。細く長く印税収入になり、多少の安定材料になるでしょう。

3.パワーバランス面

パワハラ、セクハラまがいのことが起きるのは、相手が権力を持っており、こちらがノーと言えないからです。本来、編集者とライターは契約で結ばれた対等な関係ですが、勘違いしている人は「こっちは仕事やっているんだぞ。さからえばおまえなんかにもう仕事やらないからな」という感じを出してきます。こちらもそう言われている気がしてしまいます。

でも、よく考えたらその権力って何でしょう?

幻冬舎の見城さんや箕輪さんはなんかすごい権力持っていそうで確かに怖いけど…。でも、それでも業界内で信用を失ったらダメなんです。読者に嫌われたらダメなんです。

出版社という大きな後ろ盾がある、資金力があるなんていうのはたいした権力でもありません。

・・・と思えるようになるため、ライター自身が発信力を持っておくのは大事だと考えています。SNSの時代です。いくらでも発信できます。文章書けるんだから、小さいものでもいいから自分のメディアを持つことです。発信力のあるライターにハラスメントはしにくいでしょう。

文章書けるのに、孤独にしていると非常に立場が弱くなります。

4.精神面

最後はこれ。

多少理不尽なことがあっても、お金が入ってこなくても、それでノックアウト、もう立ち上がれない…なんていうことにならないためには「この仕事でたとえ一円ももらえなくても、私は好きだからやっている」と思えるような仕事をすることです。

面白いからやっている。

この仕事が、人のためになる、貢献になると思うからやっている。

いまの私は基本的にこのスタンスでやっています。依頼されて、「これはお金もらわなきゃできないなー」っていうのは断る。お金のために仕事はしない。

これはこれで、身を守る術なのです。

ということで、出版業界の慣習が・・・!とか権力を使って、人をいいように使うやつ許せん・・・!とかはありますが、文句だけ言っていてもしかたなく、結局繰り返されていきますので自分の身を守る術を考えて、頑張っていきましょう。

注)ほとんどの編集者さんは紳士的ですし、対等な立場でお仕事できています。

注2)ライターが途中で放り出して逃げた!どうしてくれるんだ!という話も多く聞きます。ライター側に問題があることも少なくなく、それも立場が弱くなる背景の一つにあるかと思います。








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