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アスリートと集中力

「集中力を鍛えるにはどうすればよいか」という質問をもらった。
スポーツにおいて集中はパフォーマンスを左右する重要な心理的要素である。しかし私は、これまで関わってきた選手・チームにそれを要求してきたことはない。
理由は、「測れない」からだ。
だからといって無碍にもできなかったので、集中について私の取り組み方を伝えた。

集中の種類

集中には弓道のような一点、一瞬に注力するフォーカス型と、サッカーのようにランダム、かつ継続的に注力する連続型がある。一方で、これまで私が選手に対して「集中力」を要求してこなかったのには理由が2つある。
一つめは先述したとおり「客観性のある数的データがとれない」という点。
スポーツ心理学において集中力の定量化は、これまで数多くの研究報告がある。興味のある方は以下を参考にしてほしい。

1. 注意ネットワークテスト(Attention Network Test, ANT):
ANTは、注意の三つの成分(警戒、定向、実行)を評価するテストです。被験者は、画面上に表示される矢印に対して迅速かつ正確に反応することが求められ、これにより注意力の違いを測定します。
2. 持続的注意課題(Continuous Performance Test, CPT):
CPTは、被験者が長時間にわたり特定の刺激に反応する能力を評価するテストです。一定の期間中に特定のターゲットに対してボタンを押すなどの反応を求め、反応時間やエラー率を分析することで集中力の持続性を測定します。
3. ストループテスト(Stroop Test):
ストループテストは、被験者が色名と異なるインクの色を識別する課題を通じて、選択的注意と抑制制御を評価します。このテストにより、集中力と注意の転換能力を評価することができます。
4. 注意分割テスト(Dual-task Performance):
被験者に二つの異なる課題を同時に行わせ、そのパフォーマンスを比較することで、注意力の分割能力を測定します。これにより、複数の情報を同時に処理する能力を評価できます。
5. 眼球運動追跡(Eye Tracking):
眼球運動追跡技術を用いて、被験者の視線の動きをリアルタイムで追跡し、視線の集中度や視覚的な注意の分布を測定します。これにより、視覚的な注意集中の特性を詳しく分析することができます。
6. 脳波計(Electroencephalogram, EEG):
EEGを使用して、脳波の変動を測定し、注意力や集中力の状態を評価します。特定の脳波パターン(例えば、アルファ波の減少やベータ波の増加)は、集中状態を反映するとされています。

脳波計の測定が最も精度が高そうだが、現場への導入は容易でない。なので集中力は、研究の成果が現場で活かされにくいテーマの一つなのだ。
もう一つの理由は、客観的データで評価できないことで、選手が主観的評価に依存してしまうこと。それはつまり結果の影響を受けやすくなってしまう。「結果が良ければ集中できていた」という結論づけをしてしまう。現場では「集中していたけど負けた」、「集中できなかったのに勝った」というのは当たり前に起きることなのだ。
選手にとっては、一見矛盾する理解し難い内省に成長のきっかけが溢れている。私は常に選手が結果の影響を受けて、集中できた、できなかったと結論づけることを嫌ったのだ。

集中するための取り組んだこと

取り組みについて語る上で、前提条件を整理したい。

1. 現場で集中力を客観的に測ることは不可能
2. 集中力とパフォーマンスに因果関係はない

もう1点は”集中力=勝利”ではない。集中できていても負けることはあるのだ。
その上で結論に入りたい。集中力を高めるために我々は何をすればよいのか。私が選手・チームに要求していたことは「スイッチ」である。集中状態に入る(集中を高める)ためにきっかけとなる行為がスイッチだ。スイッチを日頃の練習から習慣づけておくことこそ、集中力を高めるトレーニングと考えている。
例えばあなたがサッカー選手だったとしよう。セットプレー守備の場面。チーム全体に高い集中が求められる。そこで私が練習からチームに要求したことは、「セットプレーに入ったら足を動かすこと。棒立ちにならないこと」だ。これを特に練習からコーチングスタッフにもお願いして要求し続けた。習慣づけるためだ。足を動かす行為がスイッチとなり、ボールをクリアして(時に)ラインを押し上げるまでを習慣とするのだ。この自動化された行為の連動と習慣づけこそが集中力だと考えている。
集中力は魔法ではない。日頃のトレーニングの取り組みと習慣なのだ。
選手・チームに要求し続けたこと。それは練習と試合のギャップをつくらないことだ。

以上


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