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変わる時

きっかけは、娘の成人式だった。
「どうせさぁ、着物なんて一生に何回かしか着ないんだから、レンタルでいいよね」
娘の人生の節目をこんな安易な考え方しかできなかった。


自分自身、成人式に着物は着ていない。成人式にも出ていない。夜に同窓会的なパーティに出席しただけだった。
成人式に着る着物の意味が分からなかった。

レンタルにしてもウン十万円の世界だけに、そんなところに足を踏み入れるなんてもってのほかだった。
しかし、世間体だの友達も着るだの…いろいろなしがらみがある中、子育ての最後の役目だと思って渋々着物屋さんに足を運んだのだった。

一通り説明を受けて“レンタル”のつもりで、娘が着物を試着していく。
やはり、お祝い事なので金糸や銀糸を使った帯や、色鮮やかな着物をあてていくのだが、そういったキラキラしたものを見ているうちにだんだんと、「あーこれじゃないな、こっちの方が良いよ」なんてノリノリで私も選んでいる。
人間というものは面白いものだと思う。
あんなに乗り気じゃなかったのに不思議なものだ。

それでどうなったかというと…購入したのだ。
レンタルと購入の価格はさほど変わらないと思った。
娘が大学の卒業式に袴で出席するであろうかと、そこまで考えて袴もセットで購入。
それから反物を一反プレゼントしてくれるおまけ付き。
これに私は食いついてしまった。

「どうせ着物なんて」と思っていた私が、「着物を着てみたい」に心が変化したのだ。
なんということでしょう! 
ビフォーアフター!


今更ながらに思った。私も成人式に着物を着たかったんだ。
あの時は自分にお金がなくて、父が倒れて母は介護で大変な時期だったのを思い出した。
そんな中、半ば諦めていたのかもしれない。

でも、今は少しくらいなら余裕がある。
『自分のためにも』と思って娘の振袖の購入を決めた。
自分で着物を着られるようになりたいと、着物教室へも通うようになった。
なんということでしょう! 
劇的な変化!

おまけの反物で着物の仕立てが出来上がってくるのは三ヶ月後。
それまでに教室の着物一式を借りて練習をした。
初級のクラスでは、着物を一通り着る手順を教わる。
馴染みがないので混乱するし、それよりも立ったり座ったり、正座や跪坐(きざ)の姿勢、着物や長襦袢(ながじゅばん)をたたむ時の姿勢が辛く大変だった。
着物を着る以前のところから見直していかなければならなかった。

だから、自分の体を知るというところにも目が向くようになった。
日頃、体の筋力を使って生活していないのがよく分かる。
その上、車を使う生活。
いくら若い時に運動していたとはいえ、筋力は下がる一方だ。

そういう部分を意識して生活していくようになると、次の中級クラスは面白いように“アハ体験”をするようになった。
「そうか、そういうことだったのか!」と着物を着ることが楽しくなってくる。
体の使い方、姿勢などあらゆるところに目が行くようになった。
着物を着ると一本筋が通るような気がして、立ち姿や所作を気にするようにもなる。
と、同時に洋服の時もだいぶ意識するようになった。

まだまだ、筋力が足りない分すぐ悪い姿勢になってしまうのだが、着物との出会いは私にとって人生の転機となったに違いない。
長く愛用できるよう継続していきたい。
そして、可愛いおばあちゃんになりたい!

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