光の輪へ
「私は、癒しと笑顔と元気を皆様へ届けられるようなオペラ歌手になります。
そして、この世界が平和で温かいものになりますように祈ります」
煌(きら)は、全世界に向けて自分の存在をアピールした。
話題のオペラ公演「椿姫」千秋楽の日。
虐待や貧困にある子供たちを救いたいという想いから発した言葉。
煌の挑戦は、始まった…
「きいちゃん、お歌が上手ね〜」
周りの大人たちがこぞって、小さな煌に言う。
煌が歌うと大人たちはみんな笑顔になる。
それがうれしい。歌っている自分も好き。
『きらは歌うと幸せになれる』そう思っていた。
町内会の行事でご近所の人たちとカラオケ大会が開かれていた。
そこでいつものように大人たちは、煌に歌ってもらおうと楽しみにしているのだった。
「きいちゃん! あなた歌手になるといいよ! 本当に上手だもん。おばちゃん応援しちゃう」
そんな言葉を聞くとうれしい反面、すぐに母の後ろに隠れてしまう。
まだ、人見知りする煌は自分を出すことに怖さがあった。
大人たちがこぞって煌に注目する。たくさんの目が煌を凝視する。一人ステージに立っていると丸裸にされているかのように思ってしまう。だけど、歌うことは楽しいしうれしいのであった。
『大人たちが言うことは本当なの?』
母が町内会の集まりに行く時は、必ず煌を連れて行った。
歌の上手な子を引き連れて注目されることに、母もうれしかった。
母は、音大のピアノ科を卒業した。自分も音楽で世界中を飛び回りたいと思っていたが才能は開花せず、結婚して今は子育てに追われる日々を送っているのだった。
煌が小学6年生になる頃、父の勧めで塾に通うことになった。週2回、国語と算数を教えてもらう。
塾のある日は、学校から帰ると母が作ってくれていたおにぎりを食べる。
塾の先生は、気の優しいおじいちゃんだった。
分からないことはいつも丁寧に教えてくれた。
塾に通い始めてから半年くらいが経った頃のこと。
授業が終わり帰ろうとノートやペンを片付けていると、
「煌はちょっと残ってて」と先生が言った。
ーーーそれが運命を狂わすこととは知らずに…
ここから先は
¥ 679
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?