【喪失】輝ける方法 スピンオフ 池中良太編
プロバンス風の白壁に赤煉瓦の屋根が、周りの家よりもいっそう際立って見える。玄関先にはペチュニアやマリーゴールドの花が植えられている。おとぎの国に出てきそうなそんな佇まい。
五年前に家を買い、親子三人で住みはじめた。
池中良太はその当時五歳。母に甘えて抱っこしてもらったり、時々イタズラをしては母の興味を引くのが好きな男の子だった。
夕飯時には、美味しそうなカレーの匂いが立ち込める。そこには、親子三人の楽しい会話と笑顔があった……。
押さえつけられて育ってきた。
母が亡くなってからというもの、父は人が変わってしまった……。父からの暴言、暴力。早く大人になって家を出たいと思った。
「何をやっているんだ、お前は」
「トロトロやっているんじゃねー、早くしろ」
「言うこと聞けないやつは、出て行け」
父は最初からこんな人ではなかった。きっかけは、母の交通事故死。即死だった。良太はその時、まだ十歳だった。
母の温もりが欲しい時、父の罵倒が飛ぶ。良太も父もその空いた大きな穴を必死に、埋めようとしていた。父に罵倒されながらも、良太は家事や勉強に日々精一杯だった。
『お母さんが死んで、なんで僕はこんな思いをしなくちゃならないんだ!』
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