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差し伸べられた手 オーストラリア・キュランダ

かなり時間が開いてしまいましたが、以前はこの記事を書いた後、どうしても投稿する気になれなかった。でも、改めて読み直して、今なら投稿してもいいと思えた。こういうことも、あるよね。

グリーン島からケアンズに拠点を移し、レンタカーを借り、周辺をドライブ。
この日は、ケアンズから車で30分程度のところにある、「キュランダ」という街へ行った。

森林の中にある、「レインフォレステーション公園」では、いわゆる定番の、でも子供達は初めて間近でカンガルーとコアラを見て、大興奮。

子供がどんなに触っても、優しく対応するカンガルー

ところが、この日も大自然に囲まれた長男は、ちょっとしたことで大変な不機嫌になりがちだった。

車で聴く音楽のプレイリストを作っていたところ、それが上手く保存されておらず、全て初めからやり直しに。
イライラする気持ちもわかるが、もう一度作れば大丈夫だよという言葉も虚しく、長男の怒りは頂点に達した。

車の運転は妨害してくるし(さすがに事故につながるので、命に関わることは厳しくダメだと言った)、私の隣の助手席で怒り狂い始めた。

私は、キュランダ村に入り、「蜂蜜屋」の前に車を停めた。

運転するのは危険だったので、長男の怒りが収まるまで、2時間くらい車の中で過ごした。外に出て少し気分を変えようかとも思ったが、正直そんなどころではない。

長男は、私に怒りを真正面からぶつけ、嵐のように吹き荒れた。
私は理不尽に叩かれたり、蹴られたり、意味不明な暴言を吐かれたが、「冷静に」をまたしても肝に銘じて、とにかく耐えた。

でも、今度は車の中だし、最初は静かに待っていた長女もだんだんイライラし始めた(まあ、そりゃそうだよね)。
私も、限界が近づいていたし、状況は最悪でしかなかった。

そんな中、蜂蜜屋のおじさんが、長男が荒れているのを見兼ねて、やってきた。
そして何と、最初におじさんの口から出た言葉は…

Are you ok?

そう。あのグリーン島の時のおばちゃん達と同じ、私への「大丈夫?」という気遣いで、困り果てた私に、温かい手を差し伸べてくれた。

私は、いつもだったら迷惑をかけないように「大丈夫」と言ってしまうのだが、自分ではもうどうすることもできなくて、ありがたくその優しさを受け取り、「大丈夫じゃないんです」と、正直におじさんに言った。
その瞬間、涙がボロボロとこぼれ落ち、私は声を上げて泣いた(普段は、絶対人前で泣いたりしないのに)。

おじさんは、長男の方に向き直り、
「お母さん泣いているよ、お母さんを叩いたり、蹴ったりしたら、ダメだよね。」
と優しく言って、さらに、
「深呼吸をしてごらん、まずは落ち着いて、冷静になるんだ。」
と、長男の目をまっすぐ見て言った。

そして、自分のお店に戻ると、冷たい水と蜂蜜を持ってきて、
「これを飲みなさい、蜂蜜も食べなさい。きっと気分が落ち着くよ。」
と、長男に渡してくれた。
長男は、初めて見ず知らずの人にこんな風に言われ、びっくりしているように見えた。

私は、何度も何度もおじさんにお礼を言った。
何回言っても、どんな言葉を使っても、伝えきれないくらい、感謝の気持ちでいっぱいだった。

その後、長男はまだ完全に怒りは収まらなかったけれど、車に乗っている間に疲れたのか眠ってしまい、ホテルに着いた頃には、落ち着いていた。

今回、またしても長男は、大自然のエネルギーの中で、感情がドッと溢れ出してきたようだった。その日の午後は、全て長男の怒りが鎮まるのを待つことに費やされ、私は何をしにオーストラリアに来たのだろうと思った時もあった。

でも、この日、蜂蜜屋のおじさんが私達に差し伸べてくれた手は、一生忘れない。
長男を厳しく叱りつけるのでもなく、黙れと言うのでもなく、怒りでいっぱいになった時は、「深呼吸して、冷静になること」を教えてくれた。

そして、私自身も、周りの目を気にして、我慢して、大丈夫なフリをするのではなく、相手に助けを求めることを自分に許すことを学び、この地球上には、見ず知らずの私にこんな温かい手を差し伸べてくれる人がいることを知った。

気力も体力も消耗して帰ってきたホテルから見えた夕陽。心が癒された。





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