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FROST*というバンドについて

※本文はFROST*の英語版Wikipediaと、2020年リリースのボックスセット"13 Winters"の解説文(2020年5月、Prog MagazineのNick Shilton氏が執筆)を元に情報をまとめたものです。



1. 結成からアルバムデビューまで

 1990年代初頭からBBC等のラジオプロデューサーとして活動していたジェム・ゴドフリー(Jem Godfrey)は、2000年に複数の音楽プロデューサーと共同で手掛けたATOMIC KITTENのシングル"Whole Again"がイギリス国内でナンバーワンヒットを記録したことをきっかけに、音楽業界でも注目を集め始める。

 また、2005年には音楽オーディション番組Xファクターの優勝者シェイン・ワード(Shayne Ward)のデビュー曲"That's My Goal"の作曲にも関わり、翌2006年にイギリスの音楽賞の一つであるアイヴァー・ノヴェロ賞(Ivor Novello Awards)を受賞している。

 その"反動"として2004年に生まれたのがFROST*だった。10代の頃からシンセサイザー主導のポップスに興味を示していたゴドフリーは、1983年リリースのイエスのアルバム"90125"を聴き、シンセサウンドと伝統的プログの融合の可能性に気付いていた。

 2000年代半ばはプログ・ロック不遇の時代だった。ゴドフリーはIQPENDRAGONPALLASといったネオ・プログ・バンドのアルバムを買い集め、彼らのアプローチが80年代と大きく変わっていないことを確認する。(余談だが、ゴドフリーはかつて兄と組んでいたFREEFALLというプログバンドでIQの前座を務めたことがある)

 FROST*の音楽性は、これらのグループの逆を取ることから始まった。70年代プログの象徴の一つであるメロトロンは一切使わず、また楽曲のBPMも全体的に速める――。そんなゴドフリーの求めるサウンドに近い先駆者的グループが、ギタリストのジョン・ミッチェル(John Mitchell)率いるKINOだった。(※以下リンクは2018年の楽曲)

 当初FROST*はバンド構想もなく、飽くまでゴドフリーの趣味プロジェクトに過ぎなかったが、周囲の友人からの評判が良かったことが自信となり、彼はミッチェルに連絡を取り、彼も一部のレコーディングに参加する運びとなった。ミッチェルは自身が関わるバンドの一つARENAからジョン・ジョウィット(John Jowitt)をベーシストとして招き、最終的にはIQにも参加していたドラマー、アンディ・エドワーズ(Andy Edwards)まで招集。リズムギターパートの多くはFREEFALL時代のゴドフリーの友人ジョン・ボーイズ(John Boyes)が担い、バンドとしての最初期のラインナップが完成する。

 2005年冬にレコーディングを終え、翌年の夏にInsideOutレーベルからリリースされた"Milliontown"は、ゴドフリー自身の予想を超えた大きな反響があった。その後ボーイズを除く4人でPALLASのサポートアクトとして短期ツアーを行ったが、ゴドフリーがステージで演奏すること自体を好まなかった点や、アルバム制作と比べた際のライブコンサートの収益率の悪さなどから、バンドは年内をもっての活動停止を宣言する。

2. 2ndアルバム制作から"無期限活動休止"まで

 しかし2007年初頭、ゴドフリーは自身のブログでバンドの2作目の制作を開始したことを明かす。レコーディングには2人目のヴォーカリスト兼ギタリストとしてデクラン・バーク(Declan Burke)を迎え、制作の様子は"Frost* Reports"と題されたシリーズ動画としてゴドフリーのYouTubeチャンネルに度々投稿された。

 デビュー作の高評価から生まれた"虚栄心"(vanity)に突き動かされ、"Experiments in Mass Appeal"は2008年11月にリリース。ハードロック的なハイトーンを得意とするバークがリードヴォーカルを担当したことや、ギタリストが二人になりギターサウンドの比重が大きくなったことなどから音楽性は大きく変化し、新たなリスナー層を獲得する一方で、従来のファンや批評家筋からの反応は複雑だった。
 ゴドフリーは本作について、当時フー・ファイターズをよく聴いていたためにアメリカンロック的なサウンドに仕上がったと語っている。メインストリームに挑む文字通りの実験(experiment)作だったが、前作で見せたバンドそのものの独自性も薄まってしまったことは、彼自身にとっても不本意な結果であった。
 しかしアルバム制作の過程でメンバーと過ごす時間が増えたことで、彼は以前よりツアーに対して前向きになり、2009年にはアメリカのプログ系フェスであるRoSfest (Rites of Spring Festival)にも出演。その後大学講師としての仕事が忙しくなったエドワーズが正式に脱退、次いでジョウィットとバークもバンドを離れたが、英ジャズファンクバンドレヴェル42のギタリストネイサン・キング(Nathan King)を新ベーシストとして迎え、ドラマー不在のまま3人編成で残りのツアー日程をこなす。

 2010年のFROST*としての活動は、カナダ・バンクーバーのプログロック中心のインターネットラジオ局の開局10周年を記念した単発曲"The Dividing Line"の提供と、新ドラマークレイグ・ブランデル(Craig Blundell)を迎えた12月の国内短期ツアーのみに留まった。前者はバンドの元メンバーも参加し、前述のRoSfestの模様を収録したライブアルバム"The Philadelphia Experiment"にボーナストラックとして収録。余談ながら同時期にはアーロン・コープランド作曲の市民のためのファンファーレのカバーも制作されていたが、コープランド財団に気に入られずお蔵入りになったという。

 2011年3月、ゴドフリーはバンド活動があまりに多忙となり、4人の子供の子育てやオーディオ関係のビジネスとの両立が難しくなったことを理由に、FROST*の無期限活動休止を宣言する。

3. 活動再開から現在まで

 2011年12月のクリスマス公演と、2013年5月の国内プログフェスへの出演の後、FROST*は同年初頭に行われたスタジオライブの模様を収めた"The Rockfield Files"をリリース。ゴドフリーはバンド活動を離れている間も新曲を書き溜めており、2015年5月にようやく3作目のアルバム制作開始が発表される。

 2016年5月にリリースされた"Falling Satellites"は、"Milliontown"に近い作風に回帰し、ゴドフリー自身にとってもお気に入りのアルバムとなった。収録曲の一つ"Closer to the Sun"には世界的ギタリストジョー・サトリアーニがゲスト参加しているが、ゴドフリーは2012年に彼が主催するG3のヨーロッパツアーにサポートメンバーとして帯同していたため、その縁から実現したコラボレーションであった。

 プロモーションツアーはイギリス国内を中心に翌2017年まで行われ、船上プログフェス"Cruise to the Edge"にも参加。11月のロンドン公演はライブ作品としてリリース予定だったが、機材トラブルで映像の一部が使えないことが判明し、発売は見送られた。

 バンドは2019年の"Cruise to the Edge"にも参加したが、ドラムはRoSfest等でも一時的に参加していたニック・デヴァージリオ(Nick D'Virgilio)が担当。参加できなかったブランデルはその後もスケジュールの折り合いがつかず、5月に正式に脱退が発表される。

 2020年6月、6曲入りのミニアルバム"Others"がデジタルリリース。11月にはバンドのキャリアを総括するCD8枚組のボックスセット"13 Winters"が数量限定で発売。同作には"Others"含むスタジオ作だけでなく、未発表曲や上述の映像化できなかった2017年ロンドン公演の音源も収録されている。


 2019年9月からアイデア出しが始まっていた4作目のアルバムは、2021年5月に"Day and Age"のタイトルで完成。ドラムはカズ・ロドリゲス(Kaz Rodriguez)、ダービー・トッド(Darby Todd)、パット・マステロット(Pat Mastelotto)をサポートとして招いたが、後任の正式ドラマーが決まらなかったためツアーでは一時的にブランデルが復帰し、11月末の英バース公演はバンド史上初の公式ライブ映像"Island Live"として2023年に日の目を浴びた。本作には数量限定で新曲のデモ音源と未発表曲が一曲ずつ収録されたボーナスディスクが同梱されており、今後もバンド活動を精力的に続ける姿勢が示唆されている。





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