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ビルゲイツ、田丸美寿々さんと対決するの巻

今から15年ほど前のことだったでしょうか、TBSの田丸美寿々さん(「報道特集」キャスター)がビルゲイツにインタビューすることになって短期間の日本滞在の間をぬって赤坂のTBS本社へ伺いました。ちょうど、その直前に米国のニュース・キャスター、コニー・チャンさんの取材途中でビル君はある質問にいたくご立腹、胸に付けたマイクロフォンをむしり取ってインタビュー室を後にするなんて行動に出てしまいました。その経緯が新聞のコラムなどにビルのキャラクタとして面白おかしく書かれるなんてことがあり、日米の広報担当者は非常にピリピリしていました。特にTVのインタビュー取材では、インタビューされる局の背景やジャーナリストがどのようなタイプなのか事前に調査し、全てを穏便にすまそうという雰囲気が漂っていました。 ビルゲイツ君本人は、コニー・チャンさんの事件に関して、そこまでの行動に至る十分な理由があったと理解していて、
1. ある質問にビル君は誠意を持って答えたのに、同じ質問を何度も繰り返しコニー・チャン記者が事前に持っているある種のバイアスと予見を追認させようとムリヤリ何回も迫っていたのでした。その迫りかたは、「貴方は、私の質問に今XYZと答えたけれど、本当は都合の良いこと言っているだけで本心はこうなんじゃない?」。この種の質問をする人って、もう原稿は自分の予見で頭の中にあってそれにそった結論を引き出すためにアリバイ作りのために繰り返し、質問をしたものだからビルゲイツ君相当イライラしていたのでありました。 
2.そこへさらに、コニー・チャンさんはビルゲイツに向かって「貴方の仕事上の競争相手に対する迫り方は、まるでジャックナイフを持って決闘し、相手を刺し殺すまでトコトン追い詰めるなんてやり方をするって、聞きますよ」とたたみかけたのでありました。自分たちのビジネスは人をナイフで傷つけるなんてことと一緒に論じられては困ると返答をしたうえで、最後の一瞬、「同じことを繰り返し質問するのであれば、その全てに対して誠意を持って回答したつもりなので、ここで失礼する」とマイクを投げ捨て、部屋から出て行ってしまったのでありました。(米国本社でのこと)

東京出張中でのインタビューとはいえ、今回も女性キャスターで敏腕ジャーナリストとしても有名な田丸美寿々さんのこと、最後にどのようなキワドイ質問がでてくるやも知れず..と米国から同行してきた広報担当者はピリピリしています。TBS側も田丸さんも、そこらの背景は十分理解されてインタビューは理路整然とカッチリ収録され無事終了、みんなホットしてビルゲイツ君もご機嫌でそろそろホテルに帰ってメールでもしたいという雰囲気..ところが、田丸さんとTVプロデューサーの方が何やら話しこんでいます。そして、田丸さんいきなり私のところに歩み寄ってきて「古川さん、インタビューの内容はキッチリ押さえたのだけど、映像の上でビルゲイツの人間性を表現する絵が撮れていないの、もう少しビルゲイツさんの時間を頂いてビルさんの性格がにじみ出ているようなシーンを撮らせてもらえないかしら?」「んっ、それはどういうことでしょ?」と私..
田丸さんは、ポケットからトランプを出して「ビルゲイツさんは、昔はポーカー、今はコントラクト・ブリッジとか好きと聞いているのだけど、私とビルゲイツさんで“神経衰弱”で勝負できない?」

うーん、田丸さんってば、ポケットにトランプが入っているってことは最初からその気で勝負をしかけるつもりだったのかな..そこで「何とか、米国の広報の方とビルゲイツさんに、あと10分ほど頂いてトランプゲームをするシーンを撮らせて欲しいと、古川さんから説得してよ!!」..何でそういう話になると私にお鉢が廻ってくるのだろうか、広報の連中に聞けば…「もう。予定通りのインタビュー時間が終了しており、これ以上予期せぬことにビルゲイツの時間を割くことは絶対ダメ」と強引...何とか、私がビル君は「別に良いよ」と言わせれば文句はないでしょ、と説得を続けビルゲイツ君にその話をしたところ、とても渋い顔..私が何でと聞くと「その神経衰弱とかいうゲームのルールを知らないので、TV撮影の前で恥をかかされるのはイヤだ」..それでは、TBS殿と田丸さんに、「ビルゲイツはやりたくないって言っています、では今日はこれで失礼します」というのも一理なんだけど、それ以前に色々なプロジェクト(双方向性TVの実験など)でTBS殿にはお世話になっていたし、田丸さんの「古川さん、お願い」とウィンクされれば、ヨッッシャー、という気持ちで再度ビルゲイツ君を説得、彼は相変わらずブーブー言いながらテーブルに付いて「神経衰弱:ビルゲイツ君 対 田丸美寿々さん」がスタートしたのでした。

ビルゲイツ君、神経衰弱をするのは始めてらしく、田丸さんが女性の感で最初のペアをそして4つぐらい専攻してペアを取っていくうちにルールとロジックを完全にマスターしていたようです。終盤戦に近づいても手堅くワン・ペアずつ押さえていく田丸さんに分があるように見えていました。
あるタイミング、ビルゲイツ君「サムそろそろ一挙に片付けて帰るとしようか?」と言った瞬間に連続して残りの20枚以上の札を全部総取りでそれぞれのペアにしてしまいました。

撮影したビルゲイツの映像は、そのルールを習得するまでの考え込む姿、ルールを理解してから熟考して、ニヤリと笑った瞬間に一挙に勝負に出て、最後には子供がメンコでも勝ち取ったような顔をしているシーンを撮影することができました。
その時思ったことは、負けず嫌いのビルゲイツ、そしてルールが判るまでじーっと我慢して、いざとなると全力で勝ちを取りにくるっというのは、ビルゲイツ君、貴方の仕事のスタイルそのものじゃやない?と思ったのでした。 昔、OSの環境下で複数のフォント(書体とサイズ)が扱えるようになるべきだと主張する私に、「そんなもの要らない、何故コンピュータに2種類以上のフォントが必要なんだ? 文字と数字が読めればそれで十分..」という論点でメチャクチャにぶつかりあいもしました。インターネットとTCP/IPをWindowsで採用するか、そのような議論の際にもビルゲイツは自分が関わるべきタイミングまでジッと我慢して行動に出ず、ルールを確認し待ちの状態に入ります。そして、ここで勝負に出るぞと決心したときには、一気に勝ちを取りにいく...
私だったら、残りの20枚を全部取らなくても勝ちが決まっているのなら、最後の4枚くらい田丸さんに残してワザと間違えてみる、なんてことしちゃうかな..

では、ふるかわでした

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