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私の知っているビルゲイツ、その8

ビルゲイツにOSを売り込んだ少年

日本学生科学賞という1957年から続いている中学生・高校生向けの読売新聞主催の科学自由研究コンテストに2002年からマイクロソフトが協賛企業として参加をさせてもらいました。 2003年に創設された、ソリューション部門では、コンピュータを活用した斬新なアイディアを発表してくれた大居君という滋賀県大津の少年が「マイクロソフト賞」を受賞しました。 受賞した作品は、「飛行機はなぜ飛ぶか 空気モデルのシミュレートから考える」というもので、文部大臣賞を受賞した「リンゴはなぜ落ちるのか」というテーマを取上げた静岡県の秦野さんと同じく、居並ぶ審査員の大学教授を唸らせるような解法に驚いたものです。

その大居君、お父さんと一緒にセスナ飛行機に乗ったとき、翼の形(断面)がなぜ揚力を発生させるのか不思議に思ったそうです。そして、コンピュータでそれを証明したかったという、非常に純粋な動機から研究テーマにしたそうです。オトナの世界では流体力学をスーパーコンピュータで計算したり、最近のF1レース参戦に関わるコストは50%が空力設計で、30%がF1パイロットの給料、20%が車体制作費用と参戦費用と言われているぐらい大掛かりな計算能力とシュミレーションを必要とする分野です。先般ご紹介した、ダビンチの手稿の中にも水や空気の流れに関する流体力学の原点が記述されています。

中学生の大居君が、スーパーコンピュータを自由に使える環境を持っているわけもないので、彼がひらめいた方策は、コンピュータ・グラフィックスのパッケージを利用して光の反射、写りこみや、ハイライト・シャドウを生成する代わりに、光を風邪に見立てて翼に当ててやれば揚力が色を変えて画像出力になるに違いないと考えたそうです。そして、VisualBASICと市販のCGパッケージを利用して何十億円もするスーパーコンピュータで生成されるような流体力学のモデリングをパソコンでシュミレーションしてしまいました。 大学の先生は、このシミュレーションでは渦の巻き込みがシュミレーションできていないだの、細かいことを言い出す方もおられたのですが、中学3年生がゼロから考え出してパソコンで実現したシミュレーションとしては上出来どころか、ビルゲイツを超える逸材が日本から出るに至ったかとすら思ったものです。そのシュミレーション画像には、通常の翼の形で発生する揚力以外に、フラップを引き出した時に、減速する方向に力が発生する様子やスピードが落ちても揚力が維持される様子が色の違いと渦でハッキリ表示されていました。

受賞式の後、高校生たちはISEFという米国の科学コンテストに参加して、副賞として中学生も一緒に米国研修、シアトルのマイクロソフト本社訪問、ビルゲイツに会うという機会を得ました。

ビルゲイツの時間を割けるのは30分のみですと、彼のオフィスからキツイお達しがあったのだけど、ビルゲイツ君こういう時は一番イキイキした目になってしまって、ひとりひとりの受賞者から、研究テーマの内容を聞き出したり、その思考にいたった経緯を逆に質問攻めで大変有意義な時間を使いました。

ビルゲイツは、大居君のテーマとその取り組み方にとても興味を持って色々質問をしていた丁度その時、大居君いきなりビルゲイツに「ええ、そのテーマはもう終わってしまったことで、今はOSを創っているんです。今日このフロッピーに入れてきたので是非評価してください!!!」

廻りにいる大人たちは気絶しそうになっているのが滑稽でした。だって、中学生が自分の創ったOSをビルゲイツに売り込んでいるのですもの。 取り囲んでいる大人たちの目は、「ビルゲイツさんに、いきなり何て失礼なことを言い出すんだ?」とか「そんなことをして、ビルゲイツさんいきなり怒り出したらどうするんだ?」といった不安が顔に浮かんでいました。それらのビルゲイツの性格や行動パターンの予測は、各種マスコミに作られた、「ビルゲイツは気難しがり屋だの自分に挑戦してくる人間は子供でも許さない」だの、はたまた「相手の顔を見ないで喋る」とか「ADHDの兆候がみられる」だの、メチャクチャに書かれたその多くは伝聞が伝聞を呼んでステレオタイプの記事に仕上がってしまったものだと思っています。 ビルゲイツは相手の眼を見ながらいかに自分も楽しんで会話をしていました。

ビルゲイツは、大居君に対して「コンピュータのことを深く理解してその能力を全て引き出してやるためには、そのCPUに合わせたコンパイラかOSを創ることがベストなんだ。その意味では大居君は本当に良いテーマを選んだと思うよ!!! 最近、コンパイラやOSをゼロから創るなんてことにチャレンジする人が数少なくなってしまった中で、大居君のような若い子がそれにチャレンジするのは素晴らしいことだね。」との返事が返ってきました。 ビルゲイツ君のねぎらいの言葉に、周りにいた大人たちは一安心。

そして、ビルゲイツの言葉はさらに、「どんなファンクション・コールを持っているのだい?」「メモリ管理はどうしたの?」「ファイル・システムは?」などなど相手をもっと深く理解するために質問を投げかけ、相手のエネルギーを引き出す、受け取ったエネルギーを増幅した上で助言を加えながらパワーを相手に与えるという関わり方をします。 そしてそのような接し方は技術の話に留まらず、営業、経理、購買の担当者に対してでも全く同じで、マイクロソフト社内のパーティで話が始まると「それで、最近何にチャレンジした? どのような成果が挙がった? 今何に取り組もうとしているの? 僕に協力できることは何かあるかい?」というピッチで話が弾むのです。 ビルの一番嫌うタイプの会話は、「えーと、私は何もしていませんけれど、ひとまずサインもらえませんか?」というケースかな…

さすがに緊張したビルゲイツとの面談をこなした彼らは、その後拙宅で開催されたパーティになだれ込み、2時間かけて私が焼いた8Kgのローストビーフを12分で食べつくすという快挙を見せてくれました。この子たちの発想や取り組みを見ていると日本のエンジニアリングも未来は明るいと、つくづく思ったものです。

では、ふるかわでした

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