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私の知っているビルゲイツ、その14

ビルゲイツは人と話をするのがとても好きです。そのスタイルもビルゲイツが一方的に喋るようなスタイルではなく、相手の話を引き出し自分の意見を述べ、一緒に考え相手が見つけた解に何か自分が協力できることはないかと提案するそんなスタイルで誰とでも会話をします。
マイクロソフトの日本法人ができた1986年から数年の間は年間に2回から3回ほどビルゲイツは日本を訪問していました。パソコンを生産されている企業訪問や取材だけではなく、秋葉原に出かけたり、マイクロソフトの社員とあらゆる会議に出席したり、社員との懇親パーティにも参加したりして、それこそ社員の一人ひとりと会話を楽しんでいました。ある社員がビルゲイツに近づいて名前と所属部署を語ったときのことです。ビルゲイツ君は「そう、頑張ってね」なんてありきたりの対応はしません..その時はこんなパターンでした..
ビル:「今どんな仕事をしているだい?」
社員:「私は購買担当です。」
ビル:「どんな購入品目を担当しているの?」
社員:「フロッピーディスクの調達やパッケージ商品用の仕込みを担当しています。」
ビル:「最近は、フロッピーはどこからいくらで仕入れているんだい?」
社員:「KAOさんから、仕入れています」
ビル:「KAOさんね、最近シアトルの調達もKAOさんから随分買っていると聞いているよ、それで1枚いくらなのかな?」
社員:「XY円ですが..」
ビル:「そうか、本社では沢山調達しているのでYZ円だけど、日本でXY円とはとても良い値段で仕入れているね」
社員:「光栄です。」
ビルゲイツ君がフロッピーを1枚いくらで仕入れているかってことを知っているだけでも、グゲっという話なのですが、本題はそこからなのでした。
ビル:「ところで、Windowsのパッケージにはフロッピー何枚入っているんだっけ?」
社員:「12枚です。」
ビル:「なんだと、米国版は6枚なのになんで12枚も必要になるんだ、えーっ?何でだぁーっ」
ビルゲイツ君、自分の感じた疑問を話しているだけなのだが、既に社員はビビリまくっているので、ちょっと私から援護射撃
古川:「ビル、日本のフロッピーは1.44Mbではなくて1.2Mbなんだ日本語化したモジュールを含めてOS部分に8枚、漢字のフォントに2枚、カナ漢字変換とその辞書に2枚で足したら12枚になるだろう。」
ビル:「おいおい、1.2Mbのサイズしかないことは当然知っていて質問してるんだ、漢字フォントは2Mbでカナ漢は1.5Mb足して3.5Mbの追加が何でフロッピー3枚に入らないんだ? 」
社員:「それは、2つの開発部門の担当者からマスターディスクとしてそれぞれ2枚ずつのマスターデータが納入されて、2枚が漢字フォントで、2枚がカナ漢字変換でして」
ビル:「せっかくKAOさんからとても良い仕入れ価格をオファーしてもらっていながら、3枚で入るはずのデータを身内の開発分担というだけで4枚追加で入れていたら100万セット出荷したらいくらの損失になると思っているんだ!!!」
社員と私:「…」
ビル:「それより何より、購買担当者が社外の方と厳しい値段の交渉をして成果を挙げているのに、その同じ人間が同じ厳しさで身内の開発部門に“そちらで調整して、フロッピー3枚に納めて持ってくれ”となんで交渉しないんだ???」
社員:「それは、開発の方々は出荷まで忙しく製品レリースへ向けて頑張っておられて、一調達部門の人間が要求を出すような類の話では無いと思ったのです。」
ビル:「それは、間違いだ!」 相当なテンションではあるのですが、まぁ罵倒するというほどのことではなかったのですが、ビルゲイツ君社員全体のパーティですから見渡せば、Windowsの開発者も、カナ漢字変換の担当者も同じ部屋にいます。
ビル:「おーい、各担当者、ここに集合!!!」
手には、ビール缶を抱えたままさっそくの検討会議
ビル:「各人がプロとしての仕事をするには、購買調達担当者でも技術の人間に自分の仕事をを全うするために、社外よりさらに厳しい眼で社内の人間と交渉に当たるべし、良いな」
社員:「うーすっ」
ビル:「開発の人間は、良いコードを期日通りにレリースするだけではなく、そのレリース・マスターがコストにどういうインパクトを与えるか配慮すべし、良いな」
開発:「うーすっ」
ビル:「では、実際のアクションプランはお前たちに任せるので、ゴールは理解できたな?」
全員:「うーすっ」 このような会話をしている時は、この会社は外資系ではなく体育会系でしょ?
そんな話を5分と少しの間に解決すると、パーティ会場の中ではもう次の話題になっているのです。
ビル:「ふーん、ところで君はどんな仕事をしているの? マニュアル? 翻訳のコストって1ページいくらなんだ? へぇー、フランス語やドイツ語の翻訳に比べてなんで日本語は高いのだい? 機械翻訳が使いものになる日は来ると思う?」なんて話を次の人としているのでありました。 そんなスタイルなので、マイクロソフトは開発に従事する人間だけが優遇されたりビルゲイツの関心事ではなく、全ての人間があらゆる側面で会社なりビルゲイツからプロフェッショナルに仕事をするというDNAを叩きこまれるのでありました。 入社時の面接だけではなく、そのようなテンションでそれぞれの仕事に対する誇りと自分がかけがえない仕事をしているという充足感が生まれるのでした。

上記の会話を楽しんだ半年後、また来日する機会のあったビルゲイツ君、調達担当者の社員に遭遇した瞬間に
ビル:「おぅ、久しぶりだね、その後フロッピーは11枚に納めることができたのかい? 」、
担当者「はい、3ヶ月前の出荷分から実現しております。」.
.ビル:「そうかそれは良かった、最初の3ヶ月でYZ万セットの出荷だから、KYZ万円の損失で抑えることができたのだね..その後いくらセーブできたんだっけ、ところで今月はフロッピー幾らで仕入れてるの?」

ビル君、それ以上するとイジメだから、そこらで許してあげてちょーだい、と私はいつも思うのだけど...あのビルゲイツ君に自分のやっている仕事の中身とその成果に関心を持ってもらい、適宜な助言を貰うことを楽しんでいる社員が沢山いるのがマイクロソフト流なのです。
きっと、会社の外から見ているとビルゲイツ君、なんにでも癇癪をおこし自分で決定したことに社員は服従しているかのごとく思っている人も沢山いるのでしょうが..ビルゲイツと共に仕事をすると、開発も営業も調達部門も社長もみんな同じ醍醐味と達成感を味わえるのでした。

では、ふるかわでした

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