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「浄水器がつけられない」の話

今から約2年前、現在の部屋に引っ越してきたときのこと。

キッチンの蛇口に浄水器を取り付けたかった僕は、浄水器のことをいろいろ調べていた。

水が汚いと言われる地域に住んでいるということもあり、入居前から「絶対に浄水器を取り付ける」という固い意志を持っていた。

「絶対に浄水器を取り付けてみせる」という固い意志を持ちながら入居した、という言い方の方が正しいかもしれない。

1日のうちの大半の時間を浄水器調査に費やした。

いろいろな種類があることは分かったが、1K6畳の我が城が迎えられる浄水器など限られている。

結局、蛇口に取り付けるタイプの浄水器を買うことにした。

だがここで僕はふとあることに気づく。

「蛇口の形なんてみんな違うのに、そんな都合よく取り付けられるものなのか...」

焦る気持ちを抑え、とりあえず蛇口の形を確認するためにキッチンへ向かう。

蛇口を見つめる僕。

僕に見つめられる蛇口。

お互い無言の時間が続いた。

しばらく蛇口を見つめて僕は思った。

「これは見ても分からない。」

浄水器について多くを調べていた僕は、自分が蛇口の形にも詳しくなったものだと勘違いしていた。

自称蛇口エキスパートの自分の傲慢さに驚く。

結局、蛇口の形を確認してもらうために浄水器の業者の方に電話をかけることにした。

ビデオ通話に切り替えて、我が城の蛇口をカメラで写す。

不思議と恥ずかしかった。

自分の家の蛇口を人に公開するという行為は、人間にとって結構恥ずかしいものらしい。

蛇口を写した僕は、業者の方の反応を伺う。

不意に電話の向こうから声がした。

「お宅の蛇口は最新式なので、浄水器は厳しいですね~」

最新式...?

浄水器は厳しい...?

一瞬にしてパニック状態に陥った。

どれくらいパニックだったかというと、それは本当にもうめちゃくちゃパニックだった。

こちらが現在パニックの真っ最中であることを悟られないよう、なるべく落ち着いたトーンで詳しい理由を尋ねる。

業者の方は丁寧に答えてくれた。

「お住いのマンション、新築じゃないでしょうか?新築のマンションに多く見られる蛇口なんですが、その蛇口が最新式なのでそれに合う浄水器が現状無いんですよ~」

びっくらこいた。

確かに我が家は新築マンションだ。

さすがとしか言えないその洞察力に脱帽した。

僕はそのとき帽子を被っていなかったので、押し入れの中にある帽子を一旦被って、それを脱いだ(嘘)

結局、浄水器が取り付けられないなら仕方がない。

そう思い、浄水ポットで対応する道を選んだ僕だったが、理由のあるポイントに引っかかっていた。

「最新式なので」

そう。「最新式なので」である。

蛇口が最新式だから僕は汚い水を飲まされる。

僕より古い蛇口の人間は綺麗な水が飲めるのに。

この衝撃的な事実を受け入れるには、まだもう少し時間がかかりそうだ。

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