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シリーズ深読み読書会 『敦煌』を見て

NHK BSプレミアムで不定期に放送されている「シリーズ深読み読書会」
4月6日は、井上靖の『敦煌』でした。

人生に影響を与えた5冊のうちの1冊。
ひとまずビデオに撮り、1度見ただけでは理解しきれず、続けて2度見て、やっと咀嚼できるようになりました。

最も頷いたのは、この作品が井上自身の自伝小説であるということ。

科挙に失敗する主人公・趙行徳と、医学部受験に失敗し、最後は文学部哲学科に入る井上との共通点。
主人公が西夏軍に編入され、おびただしい数の死と向き合う姿は、従軍時の作者の経験が反映されていると考えられます。

また、よく知られたことですが、井上は少年時代、血のつながらない祖母と土蔵の中で暮らしていて、そのくだりは『しろばんば』にも描かれています。

『敦煌』で、主人公は自分が愛したウイグルの王女を蔵の中に閉じ込めたり、最後は戦乱から守るため、敦煌文書を莫高窟に潜ませたりしますが、
大事なものは”洞窟”に隠すという、幼いころの習性がにじみ出たものとの推測も、間違っていないでしょう。

私はこれまで、井上が描く『しろばんば』『あすなろ物語』などの自伝小説と『敦煌』をはじめとする歴史小説のタッチの違いを掴めないでいましたが、
結局は歴史小説も、作家の人生を投影したスクリーンであり、だからこそ時空を超えて、真に迫ったリアリティを描けるのだと理解しました。

小説の最後で、炎上する敦煌の町を背景に、主人公がウイグルの王女からもらった首飾りをめぐって、隊商のリーダーで于闐の王族でもあった尉遅光と取っ組み合いのけんかをします。

蛇足にも思えた幼稚なやり取りでしたが、番組の中で、そこまで首飾りに執着するのは、尉遅光こそが当初ウイグルの王女が待っていた許婚だったのではとの見解が示唆されます。

なるほど、納得。

くっと、のど元が締め付けられるような心地よさが、体の中を通り過ぎていきました。