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「 今、満洲国に住んでいる」が示す意味。

持っている情報を、全て使って書くと苦しくなる。それは、基本的に情報が足りないことを意味するので、結果的に読みにくく、分かりづらいものになってしまう。

10の知識のうち、3~4くらいを使って書かれたものが、読み手にやさしく、書き手の精神状態にも良い。

そう言う意味で、「満洲暴走 隠された構造」(安冨 歩著)は大変読みやすい本であった。恐らく著者は、この100倍以上の知識を持っておられ、文体にも余裕が感じられた。

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日本が好き放題した満洲国の背景とともに、著者は、社会にうねりが起こる時のメカニズムにも言及している。

とにかく人は、何かが起こると、その直接的原因を探りがちだ。だが、物事は複合的に動いており、事象Aの直接の原因はBであっても、Bを引き起こしたCがあり、その背景にはDがある。つまり、物事を解決するには、Dまで遡って改善しないと意味がなく、目の前のBを解決したところで、それは小手先の対処療法でしかない。

物事の好循環に拍車をかけたり、負の連鎖を断ち切ったりするには、Dの地点にたどり着き、DとAの関係性を明らかにする必要がある、と著者は述べている。

こうした視点から、満洲国の根幹を支える鉄道と馬車、国際貿易品としての大豆の動きを読み解き、傀儡国家の姿を明らかにしている。特に、徴兵制の導入が特異なイデオロギーを生み、「守る王」が「守られる王」となって日本の暴走に拍車がかかったという視点は、なるほどと考えさせられた。

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著者は経済学の専門家であり、満洲国の貨幣経済についても述べている。

この“国”のカネの動きからは、日本の窮状と泥沼化が手に取るように分かり、誰か気付かなかったのか、そうか気付けなかったのだと、改めてため息をついた。それは筆者が「(私たちは)今、満洲国に住んでいる」と語る理由の一つでもある。

ただ、この貨幣経済については新書だけではなく、もう少し掘り下げて知りたいと思った。今を知るヒントが多くあるはずだ。
#満洲暴走隠された構造 #安冨歩