新型コロナの死亡率、致死率、感染致死率

依頼を受けて、新型コロナの医療崩壊について以下を寄稿しました。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/post-93194.php

これは紙媒体の記事なので通常はWEBには無料公開しないのですが、ニューズウィーク日本版(NWJ)の編集部はとても太っ腹で、緊急で重要な記事だということで無料でアップしれくれました。ありがとうございます。

この中で、一般(メディア)向けに死亡率と致死率を簡単に説明しましたが、公衆衛生、特に疫学の専門家からは「もっと正しく説明しなさい」とお叱りを受けるかもしれないので、以下に説明を付け加えます。

NWJでは

時に混同して使われるので整理すると、「死亡率(Mortality rate)」と「致死率(Case fatality rate)」は異なる。死亡率は一定人口に対する死亡者の割合で、致死率は感染者に対する死亡者の割合である。新型コロナでは無症状や無検査の感染者も多いため、その致死率は報告された感染者数のみで計算している。

と書きましたが、新型コロナでよく使われる計算、「死亡者数を報告された感染者数で割った値(%)」は、正しくは「致死率Case fatality rate:CFR)」ではなく、「感染致死率Infection fatality rate: IFR) 」、それも、「報告された感染者数で計算した感染致死率(confirmed Infection fatality rate: cIFR) 」と呼ぶのが正しいと思います。

単純な計算としては、

(累計死亡者数)÷(累計感染者数)

ですが、もし、

(累計死亡者数)÷(累計感染者数ー死亡者数ー回復者数)

であれば、率(Rate)でなく、割合(Ratio)やリスク(Risk)を使います。

通常、case fatalityは致死率、致命率と呼ばれ、「患者さん(Case)の中でどれだけの人が死亡するか」を示すのですが、難しいのは、

 感染=発症=患者

ではないことです。

「感染しても発症しない」感染症はたくさんあり、新型コロナも結核もそうです。また、「発症しても医療機関を受診して患者として報告されない」場合もあります。

今回、新型コロナの感染者として報告されているものの多くは、PCR検査などで「陽性」となった人ですが、PCR検査の精度を考えると、陽性の中にも本当は陰性だった、PCRで陰性だが本当は陽性だった、という人もいます。
そのため、単にPCR陽性だけでなく、症状やCTなどの画像によって感染者を報告している国もあります。

検査を精力的に行っている国とそうでない国、医療レベルの高い国と低い国、医療崩壊を起こした国とそうでない国、などで致死率は大きく異なってくるので、その正確な値を知ることは困難です。

それでも、病原体自体の本当の威力、致死力を知りたい、ということで、これまでの様々な国のデータなどから、オックスフォード大学の Centre for Evidence-Based Medicine (CEBM) が推測値を出しています。それによると、致死率(case fatality rate:CFR)は 0.51%、感染致死率(Infection fatality rate:IFR) は0.1ー0.26%とのことです。

今後、もっと多くのデータが集まればこの値も変わるかも知れませんが、今のところ1000人が感染して1-2人が死亡、1000人の症状が現れている人の中で5人くらいが死亡する、そんな病原体の威力のようです。

もし、間違っていたり、言葉足らずであれば、ご教示ください。

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