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SCENE15:「文鎮」【メイキングオブ『ワンダーら』】

●シーン概略

書道教室が舞台のショートショート。左手を添えられない。


◎平熱のマイノリティ

このシーンは我ながら読むとドキッとするが、どうだろうか。そういう意図も込みで挿入している。
ダウン症の妹のこと「はじめに」はで書いたが、その日常というか当たり前感を描くこともいつかやりたかったことである。『2017』の次作として『2018(仮称)』を上演した際、少しだけそれを試してみたけれども、不完全燃焼だった。またマイノリティ……障害者を平熱で登場させるというのは『映像研には手を出すな!』(著:大童澄瞳)でも意識的に行われていて(口唇裂傷のモブキャラクターが登場する)、それに勇気をもらった部分もある。
「感動ポルノ」として消費されないマイノリティ像。
(ところで、この書道の先生なんとなく冷たく感じるけど、別に悪意はないです。この人も平熱なだけ)

◎石

そして石が登場する。本シーンにおいては上述した”平熱のマイノリティ”が主題であるため、あくまで添え物、純然たるアイテムとしての石となった。実際に台本は「左手がありません」から思いつき、「あ、じゃあ流れで石出せるな」となったのだった。
石は何も言わない。シーン「」「」そして「文鎮」と渡ってきた石だが、常にただそこにあった。石は何も見守っていない。何度でも繰り返すが”なにかのための、なにかなどない”のだ。意味を超える、というか元より意味とは別の次元にある。

◎意志

そして石を登場させた『2017』では、最後に石を〈意志〉と重ねた。我々は地球という巨大な石の塊にしがみついている〈意志のカタマリ〉なのだ、と。本作でいうなら”主体”と呼んできたそれであり、我々は〈ただそこにある裸の意志そのもの〉として、未来を選択するのだ。それは彷徨うことも、時には自死すらも含む。
ただの裸で、どこに行きたい?

◎参照作家なし

セリフもコマも少なく、特に誰も参照する必要がなかった。

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