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『寝坊で遅刻した日は意外と怒られんけど、それなりの罪悪感にはさいなまれる』の回

寝坊をしてしまい、上司にすみませんと謝罪すると、思いのほか怒られない。よかったと胸を撫で下ろし、そのまま席に座って遅れを取り戻そうといざ仕事に取り掛かる。取り掛かったはいいが、一向に気持ちが落ち着かずになんだかソワソワしてしまう。そして、次第にムクムクとよく分からない感情が芽生えてくる。・・・。だれかっ、だれか頼むっ! 寝坊をイジってくれっ! いっそのことイジってくれっ!

寝坊して怒られなかったのは良かったけれど、とはいえ寝坊してしまった罪悪感があるっちゃあるから、そのまま受け入れられるとそれはそれで区切りがつかなくて落ち着かない。そんなスーッと切り替えて仕事には入れない。みんなもわたしのことを『寝坊してるやん』と心の中では思っているんでしょう? そう考えるとなんだかいたたまれない気持ちになる。かといって、自分から「寝坊しちゃいましたわ。タハハッ」っていうのは違う。声をかけてほしくて自分から言うのは小賢しく思えて、わたしの過剰な自意識が許してはくれない。だから本当に、本当に軽くでいいから、誰かイジってください。お願いします。本当に誰か。こんなことならいっそのこと、軽く怒られたほうが良かった。そっちの方が寝坊したことが怒られたことでハイッ、終わりっ!ってなるもん。でも軽くね、軽く。めっちゃ怒られるのは嫌ですからね、そりゃあね。ちょうどいいぐらいの感じで。「あかんで。今度から気ぃつけよ」くらいの感じで。

といったように、自分の罪悪感を消すためにちょうどいいぐらいの感じで怒られたいという、めちゃくちゃ我儘かつ卑怯なことを考えてしまう。遅刻して、しかも上司には寛容に許してもらっているにも関わらず、そんな態度にちょっぴり不満を抱いてしまう。なんちゅう不遜。そもそも怒られたからと言って、ハイッ、終わりっ!となるとは限らないですよね。そうですよね。

とはいえ誠に勝手ながら、こんな風にツッコんで来てほしいことは他にもあって、例えば階段の途中で引っかかってつまずきそうになったときなんかもそうだ。「こけそうになってるやん!」ほどのツッコミはいらないが、「え、大丈夫?」ぐらいの軽いタッチのひと言を投げかけていただけると、こちらも「危なかったわ。へへっ」と軽い照れ笑いをすることで、つまずいたことで生まれた変な空気を終わらせることができますので。教室で禁止されている鬼ごっこをしていて、落ちているプリントを踏んで滑って転んで背中を打ち、打ちどころが悪くて「ハッ、ハッ、ハッ」と息が出来なくなったときにはすぐに駆けつけてほしい。あれ、めちゃくちゃ恥ずかしい上に苦しいというとんでもない状況なので。このときは「なに滑ってんねん! ワハハ!」みたいなポップな雰囲気はいらないから、「大丈夫か!? どうした!?」と本気で心配してほしい。息できひんねん、こっちは。えらいこっちゃねん。でも誰かはよ来てくれな自業自得やし、ひとりで「ハッ、ハッ、ハッ」って苦しむハメになるしで、恥ずかしくてほんまに地獄やねん。反対に、お腹が鳴ったときはツッコまずにそっとしておいてほしい。まだまだ二回目、三回目が控えていて、一回ツッコまれると次がやりにくくなるから。多分、ツッコんだ側のそっちもそっちで二回目以降、『え、さっきツッコんでもうたけど今回どうしよ? ツッコむべき? 否、ツッコまないべき?』と頭を悩ませることになると思うし。ツッコむ、ツッコまないは適宜、個人の判断にお任せしますが、適切な対処の方をよろしくお願いします。

とにかく、そんな周りのことばかりを考えていると、寝坊をしたくせに仕事に集中できない。さらには、上司に書類を確認してもらわなければならない際にも、『おまえ、自分は家でゆっくり寝てたくせに、おれには書類の確認をお願いして、他人の時間を奪うんかい』なんて思われそうで、怖くてなかなかお願いできない。『さあっ! 切り替え! 切り替え!』といった風にはできず、さらにはちょっと怒ってほしいなんて、冷静に考えると何様やねんといったことを思う自分は、寝坊なんてものを絶対にしてはならない人間なのだと強く思う。でも本当になんだかソワソワしてしまうんです。

そして、寝坊してしまってからしばらくの間は、アラーム前に目が覚めると『えっ!? 寝坊した!?』と焦ることになり、心臓に悪い日々が続く。しかし、それぐらいは禊として受け入れたい。だってわたしは寝坊をしてしまったんだから。


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