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『音楽聴く調子が悪い日は芸人のラジオ番組を聴くのに限る』の回

大学生のころは、電車で1時間以上かけて大学へ通っていた。電車に乗っている間は基本的にずっと音楽を聴いていた。そんな電車の中で音楽を聴くという行為には結構調子の良し悪しがある。

調子のいい日はとにかく最高。電車に乗って、とりあえず一曲目に聴きたい曲がすぐに見つかる。そして、その曲を再生した瞬間に流れてくる音がものすごくスーッと耳に浸透してくる。よう炊けたおでんの大根にお箸を入れたときぐらいにスーッと。この時点でもう既に、今日は音楽を聴く調子のいい日であることが分かる。そこからさらに、次々に聴きたい曲が浮かんでくる。『うわっ、次はあの曲聴きたいな。で、その次はあれ流して。で、その次はあれ。流れ完璧やん。天才的な選曲センスしてるやん、おれ』と思うほどに聴きたい曲が溢れてきて止まらない。ひとり暮らしを始めたら、思いのほか些細なことでもすぐに連絡してくるオカンの母性ぐらい溢れて止まらない。実家に住んでた時はそんなに構って来んかったのに、急に寂しがり出してホンマ。最終的には降りる駅が近づいてきても、まだまだ聴きたい曲だらけであり、『もう今日は大学サボって、一生音楽聴いとったろかな』なんて思ったりする。大学なんてただでさえサボりたいのに、音楽を聴く調子が良かったら、もっとサボりたくなっちまうぜ。結局、一回もサボらんかったけど。

反対に調子の悪い日は、まず一曲目に流す曲が全く見つからない。電車に乗ってイヤホンを付けたまではいいが、そこから2、3分くらい何も流さずに聴きたい曲を探す時間が続く。そして、結局聴きたい曲が見つからず『まあ、これでいいか』といった具合に、適当に曲を選んで再生する。そして、無理やり再生した曲が全く耳に馴染んでこない。すぐに別の曲を再生するが、それもまた違う。それを何度か繰り返していると、段々イライラしてきて『ちょっと! もう止めて! 音楽流すのやめて!』と、自分で再生しているくせに誰かにキレそうになってくる。

それでも何もしないには1時間は長すぎる。小説を持って来てはいるが、座らないと読みにくいし・・・。と、そんな困ったときにわたしがよくしていたのは、ラジオを聴くといったことだ。特に一時期は芸人のラジオ番組にハマっており、音楽を聴く調子が悪くて手持ち無沙汰なときには、芸人のラジオ番組を聴くことで愉快な気持ちで1時間を過ごすことができた。

しかし、ここで注意点がある。電車の中で芸人のラジオを聴くのは、公共の場でニヤニヤしてしまう危険性を孕んでいる。ただでさえ面白くて笑ってしまうラジオ番組を、あんまり笑ってはいけない環境である電車の中で聴いてしまうと、余計に笑ってしまいそうになる。なんとか笑いを堪えようとしても、口元が緩んでニヤニヤしてしまう。そんな笑い方は、他の乗客からしたらめちゃくちゃ気持ち悪いもの。さらには他人がよく分からないことでニヤニヤしているのは普通になんか腹立つ。何なんだろうね、あれ。ということで、電車の中で芸人のラジオを聴いてニヤニヤしてしまうと、周りの乗客を不愉快な気持ちにさせてしまうことになりかねない。ツボに入ったときなんて、笑いを堪え続けないといけない時間が自分を襲うことになる。でもあれはあれでなんか楽しくて、疲れてテンションのおかしくなった日は開き直って、電車の中でも笑ったろかと思いながらあえて聴くこともあった。とんだギャンブラーだぜ、全く。結局、開き直って笑ったことはなかったけど。

ただ、そんなニヤけてしまう問題に関して対策がある。それはシンプルにマスクを付けるといった方法だ。マスクさえ付けていれば、マスクの下でどれだけ笑っていようが周囲の人にバレることはない。わたしは冬に風邪予防という名目でこの手法を使い、電車の中で芸人のラジオをニヤニヤしながら聴きまくっていた。

さらにはもう一つ別の対策がある。それは、そこまで自分が好きではない芸人のラジオを聴くといったことだ。そこまで好きではない芸人のラジオなので、ニヤニヤするほど笑うことはないが、腐っても芸人であるから面白くないことはない。電車の中で笑わなくても済むちょうど良いくらいの面白さ。ただ、そんなに好きじゃない芸人でも、ラジオをずっと聴いていると段々好きになって来て、次第にめちゃくちゃ笑いそうになってくる。ラジオって結構パーソナルな話も流れてくるから、気づけばそこら辺のファンよりもその芸人に関して詳しくなっていることすらある。だからどんどん乗り換えて行こう。そして、なんやかんやで最終的には普通のラジオ番組に回帰する。音楽を聴く調子が悪くても、パーソナリティのとりとめのない話からの流れで音楽をかけられると、意外とすんなり耳に入ってくる。そして、芸人のラジオ番組ほど期待して話を聞かないから、そんなに意識を集中させなくてもいい。

でもここまで書いて思ったけれど、やっぱり音楽を聴く調子が悪い日は、シンプルに疲れが溜まっているんだと思う。だから、もう何もせずに目をつぶっていればいいのに。なんでそこまでして何かしらの音を聴こうとしていたのか。どないしてん自分よ。


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